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End Of Edo ~幕末~  作者: 吉藻
第三章 黒船来航
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  偽浦賀奉行・香山栄左衛門

 物語には凸凹コンビというものがいたりする。

 この黒船来航という物語におあつらえ向きのようなコンビが存在した。

 浦賀奉行所与力の中島三郎助は質実剛健で武士らしい男だ。

 学問に秀でていて文武両道であり真面目な研究者気質だった。

 その幼馴染であり義理の兄弟に香山栄左衛門かやまえいざえもんという人物がいる。

 彼は社交的で明るく口が上手い。武士としては軽すぎると見えなくも無いがこの時代の武士は軍人と言うよりも官僚である。人当たりがよく交渉ごとに強い香山が重宝されていたのも確かだ。


 2人は同じ年であり幼馴染であり義兄弟ということでとても懇意にしていた。

 性格は正反対であるのに馬が合っていたという。

 歴史においてはこういう凸凹コンビが不意に登場することになる。

 香山は中島と共に黒船艦隊への交渉役に選ばれたのである。


 偽の浦賀奉行として。




 嘉永6年6月4日。

 江戸城にはペリーの艦隊が浦賀沖に現れたという情報が入っていた。また、前日の中島三郎助の報告からかなりの強硬姿勢だというのも分かっていた。

 しかし、江戸城では特に動きはなかった。現場の判断で追い返せないかという甘い考えが残っていたのだ。


 押し付けられた現場は香山と中島である。

 前日、中島三郎助が浦賀副奉行を詐称したことで、新たに交渉役として行く香山栄左衛門は浦賀奉行を詐称しないといけなくなってしまった。

 ペリーが幕府高官を引きずり込もうと策を講じたのが無駄になったわけだが、日本側もっ苦肉の策でしかない。


 この時の浦賀奉行は井戸弘道いどひろみち戸田氏栄とだうじえいの2人だった。

 2人はオランダからの報告書でペリー来航を知らされていたが、このことは秘密にするようにと幕府から厳命されていた。よって黒船に対抗するための具体的な手は打てていなかった。




 中島三郎助と香山栄左衛門の2人は黒船に乗り込むとブキャナン艦長と対面した。

 ペリーはこの期に及んで表に出てこない。

 最高責任者として軽々しく表に出ないという作戦だ。


 香山は豪華な羽織袴で身分が高いということをアピールする。これはマリナー号事件で江川が使った手と同じである。実際にはただの与力であるが浦賀奉行だと詐称しているので仕方がない。

 ブキャナンは香山のことを信じて会談は始まった。

 長崎で全ての交渉をするから浦賀から立ち去って欲しいという香山の意見は一蹴された。

 ブキャナンの要求は大統領親書を幕府に渡すというそれだけだった。

 その渡す相手が問題だった。将軍に直接手渡したいと言い出したのだ。

 これには香山も断固として拒否の姿勢を示す。それに対してブキャナンは将軍に直接手渡すという案を引っ込めた。その代わりに大統領親書は幕府の要職に就いている幕府高官でないといけないというのは譲らなかった。

 そして江戸近辺に上陸してから直接手渡すことにこだわった。

 拒否する場合は黒船で直接江戸に乗り込むとまで脅す。


 黒船艦隊は祝砲と称して空砲を浦賀沖で放っていた。

 国際儀礼を知っているものにはなんでもないが、大砲の音が鳴り響くのである。浦賀の庶民も役人もかなりびびっていた。その空気は江戸にも伝えられている。


 更にブキャナンは戦争も辞さないという強硬意見を口にしていた。

 降伏する場合は白旗を振ればよいとの忠告もしたという。

 白旗書簡というものがある。ペリーは幕府に白旗をプレゼントして戦争で降伏すると降伏の場合は白旗を掲げよと幕府を脅したというエピソードが書かれている書簡だ。

 これはどうやら偽書らしいが、当時の他の記録から似たような発言があったことは事実のようだ。

 実際に白旗を送ったわけではないが会談の途中でそのような脅しがあり、その発言が伝わったことで白旗書簡が作られたのだと思われる。


 ペリー戦争は絶対にしてはいけないと大統領に言われながらも武力を背景にした恫喝外交を行っていた。

 彼にしても内心は冷や冷やしていたのかもしれない。まさにチキンレースだった。本当に戦争になったらどうしたのだろうか。


 ここまで相手が高圧的で一方的であると香山の手には負えない。

 なんとか返答期限を延ばしてもらうのが精一杯だった。返答は3日後の6月7日までということになった。

 後は幕府の仕事である。


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