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End Of Edo ~幕末~  作者: 吉藻
第三章 黒船来航
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  中島三郎助は黒船に乗り込む

 ペリー率いる米国艦隊が浦賀沖にやってきたのは嘉永6年6月3日の午後のことだった。

 幕府首脳も浦賀奉行もペリーが来ることは知っていた。

 しかし、対応に当る与力たちは何も知らされていない。徒手空拳でマニュアルどおりの対応をしなければならないのである。




 ペリーの黒船艦隊はどうのようなものだったのか。

 黒船というとおりに船体は黒い。だがそれは鉄の黒さではない。腐食防止のために船体にタールを塗っているのだ。

 旗艦のサスケハナ、同型蒸気船ミシシッピ、そして帆船のサラトガとプリマスの4隻のみである。

 蒸気船が2隻と帆船が2隻という艦隊編成だった。

 ペリーはアメリカ海軍の蒸気船の父と呼ばれる人物でもあり軍艦に蒸気船を積極的に取り入れていた。2隻のみとはいえ最新鋭の軍艦をつれてきていた。

 特に旗艦のサスケハナは2400トンもあり日本の千石船の10倍もの大きさだ。

 浦賀には異国船は何度もやってきていた。

 それゆえに付近の住民は異国船に慣れているともいえる。しかしそれは帆船ばかりでありビドルの時でも2隻だった。ペリーの艦隊は浦賀住民を驚かせるのに十分なインパクトがあったのだ。


 そのペリーの黒船艦隊に驚いた庶民は――――見物していた。

 政治に関わることのない庶民にとって非日常というのは娯楽でしかないのだった………。




 浦賀奉行に黒船来航の報告が入り当番であった中島三郎助なかじまさぶろうすけは急いで現場へと到着した。

 奉行所の役人が来たことで小舟を出して黒船見物していた庶民は蜘蛛の子を散らすように逃げた。

 三郎助は小舟を出して黒船に近づく。通訳の堀達之助ほりたつのすけを連れて黒船に乗り込もうとした。

 小船で黒船に近づくと甲板の上へ声をかけた。

 堀達之助といえばマクドナルドに英語を習った人物だ。とはいえ彼が習った期間は他の通訳と比べても短く英語での会話はほとんど出来なかったようである。

 堀達之助は基本的にオランダ語の通訳なのでオランダ語を話せる者はいるかと英語で黒船に呼びかけた。

 そのくらいの英語力はあった。


 それに対する黒船側からの返事はつれないものだった。


「我々は大統領の親書を幕府高官に渡すために来ている。下っ端に話すことは無い」


 三郎助は船の甲板に上がらせてももらえなかったのである。



 これには三郎助は困った。

 規定では長崎に行くように通告する。江戸近辺では一切の交渉はしない。というものである。しかし、そのことを伝えることさえも出来ない。

 困った三郎助は一世一代の嘘をついた。


「私はこの土地で2番目に偉い。ぜひ話がしたい」


 つまり浦賀副奉行を詐称したのである。

 これを信じたのかどうか分からない。疑わしいとは思っても無視するわけにはいかなかったのだろう。三郎助は甲板に上げられた。


 だが、黒船に乗り込んだ三郎助に対応したのは副官のコンティ大尉であった。

 コンティ大尉は幕府高官に大統領親書を渡すまでは船は動かせないと言い、これ以上の交渉は出来ないと突っぱねる。

 これはペリーの作戦であり、ペリー本人は交渉の席に出ないことで大物感を演出するためであった。可能な限り身分の高い相手を引きずり出して交渉を進めようというのだ。

 責任者に合わせろという三郎助の要求をコンティは退けて話は進まない。

 そうこうしている内に日が傾き始めた。


 中島三郎助と堀達之助は諦めて船を降りることとなった。

 日米のファーストコンタクトはペリーの完全勝利に終ったのである。


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