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End Of Edo ~幕末~  作者: 吉藻
第一章 江戸時代
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  オランダ国王から親書

 天保15年8月。

 幕府に書状が届いた。オランダ国王よりの幕府に開国を勧める親書である。


 突如としてわいた外交問題に江戸城は騒然となった。

 この事態に孤立しつつあった水野忠邦を支持する動きが現れる。

 水野は海外の問題にも精通している。実績があり豪腕で知識も豊富だ。

 幕府内で外交問題のスペシャリストといえば水野忠邦しかいなかったのである。

 江戸城の空気は水野忠邦に味方していた。

 阿部正弘は態度を決めかねている。将軍に働きかけて勝手掛の地位を得たのは彼だ。水野忠邦の権力を奪った政敵である。今更協力するわけにもいかない。かといってこれだけ大きな外交問題に彼が出来ることはなかった。


 オランダ国王からの親書は開国を勧告するものである。

 鎖国政策化の日本において貿易をしていたのは清とオランダだけである。そのオランダが仲介者となり平和裏に欧米諸国との貿易を始めてみたらどうかというものである。

 親切心だけで言っているわけではない。もちろんオランダも貿易の拡大を狙っている。


 水野忠邦は先が見える男だった。

 幕府の財政は火の車だ。それであるから倹約令を徹底させて石高を増やすために百姓を田畑に追い返した。異国の脅威に対しては海防掛を設置してことに当たらせて、国防の要所となる地域を上知令により幕府直轄地にしようとした。

 そして水野はこのまま鎖国が続けば幕府に先がないことが見えていた。

 開国して貿易を促進することで財政再建と国防の両方が解決出来ると考えたのだ。

 これは好機である。そう考えた水野は開国を決意する。


 水野忠邦は足元が見えていない男だった。

 腹心の鳥居耀蔵とりいようぞうに裏切られ、同志であった土井利位に追い落とされた。

 人の気持ちが分からず共感できない。将来の展望を見ることは出来るが現在が見えてない。それゆえに足元をすくわれる。



 将軍・徳川家慶が開国反対を言い出した。

 徳川家光の時代から200年もの鎖国政策である。これを廃棄して開国するということは非常に勇気のいることだった。徳川家慶にその勇気はなかった。


 ここで登場して来たのは阿部正弘だ。

 正弘は家慶の意思を伝える代理人として水野に対抗した。

 議論では水野に分があった。政治家としての格はこの時点で水野の圧勝であった。

 しかし江戸城の空気は次第に変わっていく。

 開国というものに不安を感じた幕閣は豪腕で指導力のある水野ではなく調整型で保守的な阿部正弘を支持していく。背後に将軍と大奥という権力があったのも大きかった。


「オランダ国王よりの好意を跳ねつけるとなると、今後は一切開国を口に出来ぬぞ。それがどういうことか分かっているのか!」


 水野が吠える。先が見える水野には国の滅亡が見えていたのかもしれない。


「重々承知でございます」


 正弘は受け流す。水野の懸念を理解しながらもあえて無視する。彼にとっては20年後の日本の将来よりもよりも明日の自分の栄達だ。


 阿部正弘の根回しは終った。

 今や将軍、老中、幕閣のほとんどが開国反対派となっていた。

 水野忠邦は負けたのである。




 12月2日。改元して天保が弘化となった。

 そして弘化となった頃から水野は登城しなくなる。

 老中首座に再任したものの実権はなく改革をすすめることは出来ない。

 外交問題で正論を持って開国を主張したものの俗人に潰された。そもそもオランダ国王の親書の対応を丸投げして来たのは彼らなのだ。それを将軍の我がままに付き合い国の未来を潰してしまった。腹の立つことこの上ない。

 それに江戸城内に水野の味方はもういなかった。前回の失脚で腹心の部下や同士の老中とは決別した。水野に好感を持っていた幕閣も財政を握る阿部正弘になびいてしまう。そして水野を支援して引き上げた将軍と敵対してしまった。

 水野は完全にやる気を失ってしまった。

 仮にやる気はあっても四面楚歌の状態では何も出来ずに江戸城内で孤立していただけだろう。



 弘化2年2月22日。水野忠邦は罷免された。

 老中首座の地位に2度ついて2度罷免されたのは彼が初めてである。

 そして後任の老中首座には阿部正弘が任じられた。


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