エピローグ ~とある墓の前で~
ここは、ある町の霊園。
一人の中年の女性がお墓に手を合わせていた。
「カスミ・・・。」
その女性は、そういうと顔をあげて墓を見つめていた。
ただ、ただ、墓を何も言わずに見つめていた。
「あれから一年経つのね・・・。貴女が天国に旅立って・・。」
そういうとまた、女性は墓をじっと見つめていた・・。
「あの事故がなかったら・・。あなたも中学生になっていたはず。
あの丘に行っての帰り道、車にはねられて意識不明の重体になって、
約2年間病室で何も言わない貴女を相手に、ずっと看病していた日々。
そして、ついにその日がきて・・・。貴女は死んでしまった・・。」
そういうと、また女性は黙って墓を見つめていた。
女性は彼女との在りし日を思い出しているかのようだった。
霊園には、春のそよ風が、これから芽生えてくる新しい生命を包むかの
ように、やさしく流れている。それは女性にとっても、心地のいいもの
であった。彼女は、口を開いた。
「目の見えない貴女が、あの事故の日。丘に行ってみたいと言われて、
私が一緒に登って、貴女は一面花が広がるところで、恋占いしたいから
一輪花を取ってって言われて・・・。その占いが終わった時、一瞬、
貴女の顔が曇ったのを覚えているわ・・・。そしてあの事故・・・。
カスミにあの日、何があったか私にはわからない・・・。けど、好き
だった子になにかいい事言われたのかも?って思っていたのよ。
カスミにもそんな男の子がいたなんて、お母さん少し嬉しかった・・。
けど、事故がすべてを消し去ってしまった・・・。それを思うと・・」
女性、つまり彼女の母親はそこまで言うと目から涙が一粒、一粒と
流れ落ちた。しかし、そのあと母親は言った。
「でもね・・・。カスミ。私は信じてる。貴女は死んで天国に召された
んだって。だって、死ぬ直前に、貴女が、それまで2年間何ひとつ言葉
を発したことのなかった貴女が、小さい声で、けど涙を流して、言った
言葉「うれしい・・・・。」って言ったよね。その時、カスミが、夢の
中で何をしていたかは、わからない。けど、何かとてもいいことが
あったのね。だから私は信じてる。うれしい思いと一緒にあなたは天国
に行ったんだって。お母さんも貴女がいなくて、とても寂しい。けど
いつまでも引きずってられないから、私も頑張って貴女の分も生きて
行くわ・・。天国から見ていてね。カスミ」と
母親はそういうと微笑んで、立ち上がった。
(お母さん。お母さんなら大丈夫だよ!私も天国で、幸せだよ。)
そんな彼女の声が、母親には聞こえた気がした。
墓のそばにある桜の木から、風に吹かれて花びらがいくつか墓に舞い降
りた。(あ、さくら)と思った母親はそれを一枚取ると、ハンカチに
包んだ。カスミをその花びらに思い合せるかのように。
終わり。
今回の物語は、ある女の子と恋占いを題材に書きました。
今時、こんな女の子はいないかも?、と思いながら書いてました。
ただ、そこは小説ということで大目に見てください。
物語として、色々と批評していただけると嬉しいです。