いよいよ彼との時間・・・。
彼女は、いつものように丘に着くと、いつもと変わらずに、白いマーガ
レットが一面に広がってる場所へ行き、恋占いを始めた。
「好き、嫌い、好き、嫌い・・・」
いつもと何も変わらず、花ビラを抜いていく動作が、機械の動きのよう
に、淡々と続けられる。特にこれといった感情も無くなりつつある。
その作業のような占いは「好き」で終わった。
ここで、彼女は能面のような顔立ちを少しだけ崩した。
そして、続いて、黄色いマーガレットが咲いている場所へ移動した。
そして、先程と同じように、恋占いを始めた。今まで、この黄色い
マーガレットまで行くことは何度かあったのだが、その度に淡い期待は
裏切られ続けていた。今回もまた同じなのか?そう思うと、彼女は、
胸の高鳴りより、心の中に薄暗い雲がかかったかのような、沈んだ気持
ちになる。だが、残り数枚になったとき、その雲は急激に消え、明るい
日差しが差し込んだかのように晴れやかになるのを感じた。
数えていくと最後の一枚は・・・・・。しかし、重なっているかもしれ
ない。彼女は慎重に一枚、一枚抜き取ることにした。
「好き・・・・。嫌い・・・・・。好き・・・・・・・・・。」
残った花ビラは2枚。
「嫌い・・・・・・・・・・。」
残りは一枚。
「・・・・・・・・・・・・・」
最後の言葉が中々出てこない。だけど今回は間違いない。彼女の顔は
先程とは打って変わって淡い赤色に染まっている。
「す・・・・き・・・・・・。好き!!!!!」
彼女は人生で一番と言って良いほどの、大声を上げた。
その声は丘の周辺一帯に広がったのでは?思うくらい。
彼女はこの時をずっと待っていたのだ。幾度も幾度も、結果に絶望しな
がらも、それでもいつかは必ずこの時が来ることを。
彼女は、満面の笑みを浮かべた。
(今度こそ、告白できる。真実の愛は間違えなかった。だから彼も、
きっとそう思ってくれるはず)
彼女は急いで、丘を降りることにした。彼女の胸の高まりは最高といっ
ていいくらいだったが、それ以上に早く言わなきゃという気持ちが、
彼女を足早に駆けさせていた。今言わないと、自分の性格からいって、
また他の事を考えて先延ばししてしまう。それではダメなのだ。
彼女の心にとって、これは天が与えた千載一遇のチャンス。これを逃す
と彼は自分に振り向いてくれないのではないかと思った。だから一刻
でも早く彼のもとへ行かなくてはいけない。彼女は息を切らし、走るこ
とにより起こる胸の痛みも気にせず、彼の家へ向かった。しかし、こう
いうときは、天も味方するらしい。丘を降りたそのところに、何故か
彼が一人で自転車に乗ってこっちに向かってきた。理由は分からない。
しかし、彼女のほうに向かって彼が来ているのは間違いなかった。
「ユウ君」
彼女は彼の名前を呼んだ。
「おう」
彼は自転車を止めると、彼女に向って歩いてきた。
「どうしたの?こんなところに来るなんて?」
彼女は質問した。彼の家からここへは20分位かかるし、友達の家が、
あるわけでもない。彼女には不思議だった。
「いや、ただ、あの丘に登って景色でも見ようかなって、それだけ」
彼の答えは素っ気ないものだが、次の一言に彼女は驚いた。
「どうせなら一緒に行かない?俺の後ろにのって」
彼女は戸惑ったが、少し間をおいて
「うん・・・。いいよ」
と小さく呟いた・・。
「じゃあ、乗れよ」と彼は後ろに乗るように手まねきする。
彼女が後ろに乗ると、丘に向かって二人を乗せた自転車は、動き出した
。色々と他愛のない話をしながら自転車は丘を登っていく。
彼女にとっては、これでも十分に幸せな時間だった。
丘に着くと、かれは思いっきり背伸びをしながら言った
「ここの風景好きなんだ。町を一望できるし、季節によって山の風景
とかも変わるのが、見てて楽しいし」
「私も好き。よく来てるんだよこの丘に」
「そうか、お前もか」彼は屈託なく笑った。
その後、無言の時間が続いた・・・。彼女は
(ここで言わなきゃ・・・ここで言わなきゃ・・・)
と心の中でずっと葛藤していたのだ。