17歳
ガタガタと揺れる電車の窓から夏の風が舞い込む。
さぁ、どこに行こうかな――――
随分と田舎の方まで来たみたいで、車両を見渡しても自分以外の人は乗っていない。
つい数時間前までは恋の話をする女子高生、上司の悪口を同僚に洩らすサラリーマン、
買い物バッグをぶら下げた主婦、赤ん坊を抱いている若い母親・・・などといった、幅広い年齢層の人たちがいたのに。
電車が長いトンネルに入る、真っ暗なのに時々オレンジだ。
いつもなら暗いところが苦手で肩をすぼめてしまうようなこんな場所、早く抜け出してほしいと思うのに、今日は何だかこの暗さがまだまだ続けばいいと思った。
2分ぐらいだろうか、
この電車の速度は時速110kmだから、単純にこのトンネルは13kmもあるということだ。
13kmって意外と短いんだな…
電車が長いようで短いトンネルを抜けたとき、ふいに大きくカーブした。
その拍子に大きな風が車両を駆け抜ける。
「あっ…」
被っていた麦わら帽子が大きく開かれた窓からふわりと舞って飛び出した。
「次は――駅、――駅」
初めて聞く駅名で、うまく聞き取れなかった。
どこかは知らないけど、降りてみよう。
誰もいない駅。
まるでどこか別の世界に来たいみたいだ。
ふと気づいた。
”駅名がない”
どこの駅にもあるはずの大きなプレートが無いのだ。
「聞き取れなかったんじゃなくて、言ってなかったんだ…」
その駅に改札は無かった。
代わりにあったのは、大きく広がる青く澄んだ海。
息をするのも忘れてしまいそうなほどに広大な海はどこまでも広がっていて、
全てをさらってしまうようだ。
突然大きく風が揺れた。
それにつられて、グレーのワンピースが揺れる。
砂が目に入りそうになって咄嗟に目を閉じた。
再び目を開けると、飛んでいったはずの麦わら帽子が波に揺られながら砂浜に上陸していた。
ピロピロ…
ワンピースのポッケから聞きなれたメロディと共に振動が響く。
それを開くと一言だけ。
「今日の夕飯はあんたの大好きな肉じゃがよ」
ザザ…ン
海をちらりと見て、もう一度画面に目を戻す。
「帰ろうかな」
ふっと微笑みがこぼれた。
そして来た道を戻った。
さっきまでの暗い気持ちはもうどこにも無く、
残ったのはどこか清々しいような晴れた自分の心。
短編を書いてみたかったので書いてみました。
長編より気が楽です(笑)
うん。書きやすい。