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Artemis Online   作者: 氷結トマト
第一章「箱庭の中」
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第20話「目指せゴルド・アハトゥ先生のように」


「ーーーつまり、魔法の詠唱省略とは厳密に言えば数種類に分けることができます。おや、時間のようですね。では皆さん、午後からの実習には遅れないように」


午前の学科授業が終わり一気に気が抜ける。んーっと背伸びしつつ周囲を見れば皆、口々に疲れたー等と愚痴を溢しながら教室を出て行く。


お昼時、本来ならわーいご飯だーとか喜ぶべきであるが私としては気分が上がらない。なぜなら、


「はぁ…ここのご飯は美味しく無いので嫌になるであります」


…そう、ここの食事はお世辞にも美味しいとは言えないからだ。毎日頑張っても昼ご飯がこれでは、と愚痴を呟く。


重い足取りで食堂へ向かう。それならば外の定食屋で食べれば良いだろうと思うかもしれないが、冒険者として経験を積んでいない生徒ではお金に余裕が無い者も多い。ここの食事の最大のメリットは安いことだろう、切り詰めた生活を強いられている生徒に選択肢など有りはしないのだ。




ごきゅごきゅっと喉を鳴らしコップの水を飲み干す。


「っぷは!いやー本日も不味かったでありますなー!あっはっはっ!」


ポジティブに言ってみたがやはり気分は暗い。あぁ、早く一人前の冒険者になって美味しい定食屋に行きたいな、とささやかな夢を膨らませる。


(さて…集合場所近くの木陰でゆっくり休もう)


踵を返すと突然誰かとぶつかってしまった。やれやれ、こんなに不注意で冒険者として大成できるのか?と自身に呆れつつ相手へ目を向ける。


「ふぉい、ひふぉふへうぉ。んぐっ…喉に詰まるところだったぞ」


とても美味しそうな肉をはさんだと思われるパンを頬張る男。そう、後に【盾神】と呼ばれるーーー私の師匠との出会いである。





「ん、なんだ食いてぇのか?ほら、やるよ」


同い年に見える黒髪、黒目のレザー装備の人は私に手をつけていないパンを渡し去って行った。


「美味しい!」


それは今まで食べた料理の中で一番美味しいと思ってしまった。こんなシンプルなパンがだ、あの見た目だけは立派な食堂料理など足下にも及ばない程。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ここは実習場と呼ばれる場所だ。主に武技や魔法の実演、練習に用いられる。


眼鏡を掛けた茶髪のいかにもモブッぽい男性ーー実は本当にモブと言うらしいーーは口を開いた。


「いや~。まさか、優秀な生徒として勧誘した人が優秀な教師としてやって来るなんて!あはははは、いやー人生と言うものはとかく読みにくいですね~。いやはや、それはともかくアマトウ先生!生徒をよろしくおねがいしますね!……ちょっと血の気が多い子もいますけどねー、あはははは!」


見た目に反してテンション高いな。喜怒哀楽の内、怒哀が抜けてんじゃねぇか?


「大丈夫ですよ。そんな奴ぁ鼻っ柱を擂り潰してやりますから」


「……お手柔らかに頼みますよ?」


「善処します」


そんなやり取りをしていると生徒達が徐々に集まってきた。




生徒が大方揃ったらしくモブ先生が号令をかけ、授業が始まった。生徒の中には先程ぶつかった女子も見かけられた、とりあえず手を振っておこう。


「ごほん…えー、こちらの人は今日から臨時教師をやって頂くアマトウ先生です。何か質問はありますか?」


はい、と手を挙げる男子。


「ディノ君、どうぞ」


「モブ先生!そいつはどうみても同い年くらいじゃないですか!そんなやつが俺達の実習担当なんて納得出来ません!」


そーだそーだと男子陣からはブーイングが飛ぶ。


うわ、ウゼェ。


「あー、ディノっつったか?ちょっとお前こっちこい」


こう言うのは、力関係をはっきりさせてやらんと後に響くからな。ここは心を鬼にして教育的指導をしなければならないだろう。


「お前の一番自信のある一撃を俺にぶつけろ」


何言ってんだあいつと周りから困惑の声が聞こえる。ディノと呼ばれた男はしぶしぶ剣を構える。


(…バスターエッジか。確かに溜め技は強力だがな)


「ルールは簡単だ。お前が攻撃する、俺がこの小盾で防げたら次は俺が攻撃する。防げなかったら俺の負け。そんな感じだ」


ディノは余裕だと微笑みつつ力を溜める。


「【バスターエッジ】!」


学年内でもこの技を止められる奴はいない。間違いなく吹き飛ばせるだろうとディノは慢心していた。しかし、


「ほい、【ガード】」


その男は微動だにせず受け止めていた。理解が追いつかない。何が起きた?脳内はパニックに陥っていた。


「おいおい…猪の方がまだマシだぞ。攻撃ってのはな…こうヤんだよ!【シールドバッシュ】ッ!!」


あ、手加減しないとやばいかも。ちょっと力抜くか。


ドグォッ!!


ディノの体は宙を舞い砂塵を巻き上げつつ何mも転がりようやく止まった。ピクリとも動かない様子に他の生徒も心配の声を上げる。


あ、やべ。やり過ぎた。しかしこれも教育のためだ、生徒を導くために俺は血の涙を飲み鬼となろう。


グルリと首を生徒へ向ける。


「よし、次はどいつだ?先生頑張っちゃうぞ!」


凄まじい速度で首をブンブンと横に振り意思を表す男子諸君。うむ、素直でよろしい。先生素直な子は大好きだぞ!


「手合わせ願うであります」


女性の声が響く。


「お、ハラペ娘」


あの食いしん坊娘が次の相手か。意欲的な生徒で先生は嬉しいぞ、これは行く末が楽しみだ。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私は今とても驚いている。先程美味しいパンをくれた人が教師だったのもそうだが、なにより学年屈指の実力を誇るディノを容易く倒した事にも驚愕した。



同じ盾使いとして尊敬に値する。だから私は挙手し前へ出た。



「お、ハラペ娘」


だ、誰がハラペ娘か。おのれ珍妙なアダ名を、良い人だと思ってたのに!


「行くであります」


盾を正面に剣を後方上段に構え、走る。


「【アクセルソード】、【ソードミラージュ】」


アクセルソードーー発動してから切りつけるまで自身を加速するーーにより体が加速し、自分以外が全て殆ど停止して見える。


「はえぇっ!!けどな…見えてんだよっ!!【ガード】!」


凄い、アクセルソードの動きを見切っている。普通なら防がれてディノの二の舞になるだろう。普通は。


剣と盾がぶつかる瞬間、剣の姿がぶれた。


「っ!?」


「だからこそのミラージュソードであります!」


ミラージュソード、剣の周りに虚影を作るだけのスキルだが……こう言う不意打ちにも使える応用性の高いスキルだ。


そう、今斬りかかった腕と剣は偽者。本物は虚影から少しずれた場所だ。見たところアマトウ先生はタイミングを完全に合わせたガードによりダメージを極限まで抑えるスタイルを得意としている。涼しい顔でやっているが盾技を極めていない限り出来ないような芸当だ。だからこそ、そのタイミングをずらしてしまえば勝機はあるはずだ。


凄まじい速度の斬撃が盾へ放たれた。しかし、


「甘いな。これがレベルの差ってやつだ…文字通りな」


「そんな…」


それすらも防がれてしまった。


「目の付け所悪くないけどな、ハナマルを贈呈しても良いくらいだ。さて…今度はこっちの番だな、防いでも良いし反撃しても良いぜ?」


「だったら…!【サンダーエンチャント】【シールドバッシュ】!【ミラージュソード】【トリプルスラッシュ】!」


私の最大火力を誇る雷を纏わせたシールドバッシュも防がれた、それならとミラージュソードを使った連続攻撃も見切られてしまった。


「知らなかったのか?…重装士に同じ技は通用しない。ほい、これで俺の勝ちだ」


盾を顔の前で止められ、私の負けが決まった。


「あ、ありがとうございました…」


負けてしまったが気分は清々しかった。なるほど、これが目指すべき目標か。今日は良い経験になった…次の授業も楽しみだ。


「越えてみせるであります…!」


ギュッと拳を握りしめた。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ってな感じだったな、今日は」


料理を作りつつ今日の出来事を話す。ついでにリリのレクチャーをしながらだ。


「ほえー、熱血でゴザルなー」


「先輩先ぱーい!次はゴールドエイト先生に見習って……貴様らは腐ったミカンにも劣る糞虫だっ!とか言ってみたらどうです?」


先生そんなこと言ってたか?色々混じってるだろそれ。


「ふむ、アマトの弟子ならさぞ強くなれるだろうな」


「私も学校行きたいな…」


話を聞き流しつつ料理完成だ。甘い香りに誘われたのか、子供たちが集まってきた。


「にーちゃん、それなぁに?」


「これはプリンって言う…んー、まぁお菓子だね」


「わぁ!ぷるってしてるー!」


お皿に乗せたプリンを揺らしながらきゃっきゃっとはしゃぐチビら。


「こらこら、あんまり遊びすぎると皿から落ちてしまうぞ」


はーいと元気よく返事をする子供たち。うん、良い返事だ。…チビたちでもこれなのにあいつは。


「うわーい!プリンでゴザルー!」


子供ら以上にはしゃぐ忍者。あ、プリン落とした。


「うぐ…ひっぐ……しぇ、しぇっじゃの …ずびっ…ぷ、ぷり…うええぇん!プリンがぁ!」


鼻水を垂らしながら泣きわめくユキカゲ。うわ、マスクから鼻水が生えてる!ほんとどうなってんだこのマスク!


「ほら、俺のプリンやっから元気だせ。はいはい…よしよし、ほら泣くなって」


「ほぇ~、ユキカゲさん羨ましいなぁ」


「おのれユキカゲ!露骨な小動物アピールで先輩になでなでしてもらうとは……後でお仕置きですね。フフフ…」


こら、そこの獣人っ娘。羨ましそうな目で見るな。



「ったく、どっちが子供かわかりゃしねぇな」



そうして今日も一日は過ぎて行く。

次回、孤児院印の美味い飯がとうとう屋台に!


ユキカゲ「アマトウ殿は定食屋でも開いたらどうでゴザろう?」


アマトウ「で、日替わりアマトウ弁当と売ったりしてな」


食堂利用者「ガタッ」


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