第2話「VS ゴブリン」
「プレイヤーが居ない、もしかして穴場か?」
北の街門を勇み足で飛び出し、そしてたどり着いたフィールドは、プレイヤーが居ない穴場だった。因みに、今狙っているモンスターは序盤の定番ゴブリンだ。
お、いたいた。前方にゴブリンを発見した俺は素早く接近する。
俺は棍棒と錆びた盾を装備したゴブリンに背後から攻撃を放った。食らえ!必殺の右ストレート!
「グギッ」
ゴブリンのHPバーを見る。1割も減ってないが、ダメージが通るのは確認できた。後はひたすら殴りたおすだけだ。幸い自分のDEFはレベル1の中でもかなり高い……多分。恐らく耐えきれるはずだ。
「ギギィーッ!」
ゴブリンが振り返りの遠心力を上乗せした一撃を放つ。無論ライフで受ける。土手っ腹に喰らった瞬間、ミヂッと嫌な音が耳に届いた。
「ウェッぁ」
そういえば、VRMMOには痛覚があるんだった。まさか、こんなに痛いなんて!
横腹が無くなったような感覚の後に焼けるような痛みと激しい嘔吐に襲われる。
リアル過ぎだろ……。慌てHPを確認するとそこに表示された数値は。
HP= 2/40
「えっダメージおかーー」
全て言い終える前に再び殴られ、激しい衝撃と共に身体が光の粒子となり散った。
ーーーーーーーーーーーー
「……ゴブリンであの強さって、AOのバランスどうなってんだ?」
死に戻りした俺は1人愚痴っていた。
くそっ! これじゃトーカに会わす顔がない。何か方法は……ってそうだ、ヘルプみよう。えーと、おお、使えそうな初期スキル発見。
スキル
【ガード】:発動時ダメージを減らす。防具の耐久値の減少を抑える。
これだ!内心ガッツポーズをしつつ。北の街門へ走り出す。
「待ってろよゴブリン」
あ、食料と初級ポーションを、買えるだけ買っとくか。
残金が10Gになった。懐が寂しいが仕方無いと割りきろう。
再びゴブリンと対峙し、身体が一瞬強張ったが止まっている暇はない。先手を決める。
背後から襲いかかるとやはり、あの振り返りの一撃がきた。しかし、前とは違う所を見せてやろうゴブリンめ。
「【ガード】!」
キィィンッ!
明らかに以前よりダメージが少ない。これなら行ける!幸いゴブリンは盾を上手く扱えないらしく、此方の攻撃は防がれない。
ガード、殴る、ガード、殴る、これを自身のHPギリギリまで繰り返す。一瞬でも気を抜けば殺られるだろう。
「そろそろ距離を取って回復するか。【ステップ】!」
【ステップ】は、文字通りステップするスキルだ。無敵時間とかは無い、そもそも自分でステップするのと全く変わりがないため、いらないスキル 。しかしステップの速度が一定以上でキープされるので、鈍重なプレイヤーには需要があるはず。
「【ガード】!」
ガンッ
「【ガード】!」
ギャンッ
「【ガード】!」
キィィンッ
もしかしてガードのタイミングで性能が変わるのか? さっきからダメージが異常に低い時があるんだが、ちょっと検証してみるか。
検証の結果は思った通りだったな。この【ガード】はタイミング次第で性能が変化するみたいだ。だとすれば、恐らくこのゴブリンは基本が大事だと教えてくれるチュートリアル的な存在かもしれん。
DEFが高いからって油断すんなってことか……。そう思うと、何故かゴブリンが愛らしく思え……ねぇな。
「っし、これでぇ……終わりだ!」
…ゴスッと鈍い音と共に、ゴブリンの身体が地に伏す。9分も殴り続けようやく勝てた。やがて死体は消え、後にはアイテムが残った。
ピロンッ♪
『種族レベルが上がりました』
『職業レベルが上がりました』
『種族レベルが上がりました』
『種族レベルが上がりました』
『職業レベルが上がりました』
・
・
・
・
なんか一気にレベルが上がったんだけど。おかしくないか? いや、AO的には当たり前のことかもな。ゴブリン滅茶苦茶強かったし。
「ま、それは置いといて。アイテム、アイテムーっと」
ドロップしたのは、【小鬼の角】×1、【スモールシールド】×1
盾がゲット出来たのは、正直嬉しい。棍棒も欲しいが。欲をいえば、金をドロップして欲しかったけどな。まぁ、MMOは金をドロップしないのが普通だから期待はしてなかったけどね。
とりあえず、テータスを確認しますかね。
アマトウ:ヒューマン (レベル7)
職業:戦士(レベル4)
性別:男
ステータス
HP =100+30=130
MP =100
STR=11+6=17
DEF=11+3+17=31
AGI=11
INT=11
DEX=11
残りポイント=6
成る程、見た感じだとヒューマンは1レベル上がるごとにHPとMPが10、他は1上昇するようだ。戦士はHPが10、STRが2、DEFが1上昇かな。
とりあえず、ステ振りはDEFに全振りしとくか。多少は硬くなるだろう。さらにスモールシールドを装備すれば鉄壁じゃないか?
そういえば、レベルも上がったし取得できるスキルが増えてるかも。スキルウインドウを確認すると【盾:レベル1】【体術:レベル4】が点滅していた。
【シールドバッシュ】と【 体当たり】でいいかな。無いよりはましなはずだ。
食料のパンを口に押し込み、俺は次の獲物をさがす。
「せめてポーション代は稼がないとな…」
貧乏はつらいぜ。
少し歩くと早速ゴブリンと遭遇した。不意な遭遇だ、先手を決めないと。ゴブリンが攻撃モーションに入る前に一撃でも多く当てたい。
俺は力一杯踏み込みーー
「【ステップ】!【体当たり】!」
ーーゴブリンを吹き飛ばした。
【体当たり】は体重の軽いモンスターに対して吹き飛ばし効果がある。ただし、相手が少しでも防御すれば効果は無い。さらに体当たりのモーションが続いている間は他のスキルが使えないとデメリットが大きい。
「畳み掛ける! 【シールドバッシュ】!」
体勢を崩しているゴブリンに一撃、二撃と殴りかかる。
素手の10倍以上強いっ! これならさっきより早く終わりそうだ。
「っと! 【ガード】ッ!」
体勢を立て直したゴブリンの攻撃を防ぎ、【ステップ】で横へ回り込み殴る。隙があれば【体当たり】で体勢を崩す、攻防一体の戦闘を繰り広げること5分ーー
「っしゃ! 止ー『ドゴッ』ーッグァ!?」
ーー突如、背後から殴られた。
クソッ! 何て迂闊なんだ俺は! もっと警戒しとくべきだった……。
「【ステップ】ッ!」
俺は急いで距離をとる。眼前には、ニヤニヤと笑みを浮かべるゴブリンがいた。
「ッ! 2体同時とか冗談きついぜ…」
ゴブリンAを先に倒したいがゴブリンBがそれを防ぐ。更に相手の手数が増えた為に、どうしても守りが多くなり此方の手数が減る。
「何か飛び道具があればこの状況を打破できるんだがなッ! 【ガード】! ッ! 【ガード】!」
ん? 飛び道具? なんかあった気がするぞ。確かスキルにーー
ゴブリンから距離をとり、スキルウインドウをひらく。
ーーあった! 【スローイングシールド】、これなら行けるはずだ。
さっき見たときは取得不可だったけど、ゴブリンAとの戦闘で盾レベルが3に上がったことにより、取得可能になったようだ。
「喰らいやがれ! 必殺! 【スローイングシールド】ッ!」
ヒュンッ…ドガッ!
投げた盾はゴブリンAの額に当たり、ゴブリンAは後ろに倒れた。これで残るは一体。
俺はゴブリンBに振り向き。
「後はお前だけーー」
言葉の続きは出てこない。なぜなら、その背後に控える5体のゴブリンを見てしまったからだ。
ーーヤバいな、どうする? 逃げるかーーいや、却下だな。こうなったらやれるだけやってみるか。どうせ初日はデスペナは無いんだ、問題ないな。よし、やってやるぜ。
俺は盾とアイテムを素早く拾い、
「行くぞゴブリン! 人類の力をーーー」
ゴブリンへ走り出す。
「ーー思いしれっ!」
負けフラグを吐きながら。
ーーーーーーーーーーーー
「後少しだったんだがなー」
あの後20分ぐらい粘り3体までは倒したが、ポーション切れで回復ができず、そのまま削り殺されて死に戻り。現在エレナの店に寄っているわけだ。
「これを買い取ってくれ」
あの後、またスモールシールドをドロップしたので売ることにした。
「あら、スモールシールドじゃない。誰からか貰ったの?」
何故貰ったと決めつける、あれか俺が弱そうだから自力で入手できないとか思われてるのか。
「いやゴブリンからドロップした」
「ゴ、ゴブリン? え、ちょっと。それ本当?」
たかだかゴブリンに何故狼狽える?
「いや本当だよ。ここから一番近い街門があるだろ?その先のフィールドにいたゴブリンからドロップしたんだが」
「へーもしかして、アマトウって攻略組かしら?」
「そりゃゲームなんだから攻略するのは当たり前だろ」
そういえば、エレナは生産職だから攻略とかには興味が無いのかもな。
「やっぱり。じゃあゴブリンの素材も持ってるわよね?」
「角が6本あるな」
ちなみに角は一体から1~2本ドロップする。
「売って貰えないかしら。お願い!」
最初から売るつもりだったけど、なんか需要あるっぽいしワガママ言ってみようかな。
「んーじゃあ1つお願いしても良いかな?」
「お願い?」
「このスモールシールドにゴブリンの角をつけて欲しいんだけど」
トゲ付きシールドって格好いいよな。
「あら、そのくらいなら直ぐにできるけど。本当にそれでいいの?」
「あぁ問題ない」
「この程度なら工房は必要ないわね。パパっと造るから待ってなさい」
そうして、できあがったのこいつだ。
【スモールホーンシールド】:ATK+7、DEF+11
おぉ、ATKがついたぞ。もう立派な武器じゃないか? それにしても、こいつのシールドバッシュは痛ぇだろうな。ゴブリンに使うのが楽しみだ。
エレナに角とスモールシールドを買い取って貰い、ついでに防具を修理してもらった。
「そろそろ飯にするか、ログアウト…ってあれログアウトできねぇぞ?」
おかしい、何度ログアウトを選択してもログアウトできない。試しにエレナにもやって貰う。
「あ、あれ?本当ね、ログアウトできないわね」
エレナも出来ないみたいだ。不具合か?
『プレイヤーの皆様へお知らせします。』
聞き覚えのある声が頭に響く。ーーそう、確かアバターを作る時に聞こえた声だ。
『私はArtemis Onlineを管理しているAI の1人、アルテミスです。只今より、ログアウト機能を凍結させて頂きます。凍結を解除する方法は、このゲームをクリアするだけです 』
回りがざわつく、皆の反応は似たり寄ったりだ。
「閉じ込められたってことかよ!? 冗談じゃねえぞ!」
「もしかしてデスゲームか?」
「ナイスな展開じゃないか!」
怒り狂う者、青ざめ狼狽する者、喜ぶ者、泣き崩れる者、辺りは騒然となった。
『ちなみにこれはデスゲームでは無いのでご安心下さい。それでは、皆様のご活躍がこの世界に良い影響を与えることを祈っています。ーー改めまして、『Artemis Online 』へようこそ』
その日、俺達はこの世界に閉じ込められた。
ーーーーーーーーーーーー
現在のステータス
アマトウ:ヒューマン (レベル11)
職業:戦士(レベル6)
性別:男
ステータス
HP =140+50=190
MP =140
STR=15+10=25
DEF=25+5+28=58
AGI=15
INT=15
DEX=15
スキル
【盾:レベル11】:【シールドバッシュ】【スローイングシールド】
【体術:レベル8】:【体当たり】
【基本技能:レベル15】:【ステップ】【ガード】【ジャンプ】
未振りスキルポイント=9
装備
武器:左手:スモールホーンシールド(ATK +7、DEF +11)
頭:なし
胸:ボロシャツ(DEF +1)
腕:なし
腰:ボロデニム(DEF +1)
脚:なし
装飾品:なし
統一装備:初級全身鎧(DEF+15、装備制限全身鎧、スタミナ 上昇効率UP )
アマトウは攻略組のことを正しく理解していません。彼からしたら戦闘職のプレイヤーは皆攻略組です。
次回、さらばゴブリン