第1話「ゲームを始めたら装備を確認しよう」
再度やや加筆、修正しました。
ーージリジリと肌を焼くような熱気が妙に心地い。今日も無慈悲なほどに照りつけるお天道様は絶好調のようだ。そう、今は夏。そして今日から夏休み…なのだが。
全く心踊らないのは何故か。ま、理由は分かりきっているがな。ようするにやることがない、The 暇人ってやつだ。勉強? 宿題? ……笑わせる。んなもんパスだパス。じゃあ、ゲームでもしとけって? 今んとこやりてぇようなゲームなんざ無い、察しろ。
そんな俺は無駄と分かりつつも愚痴を溢す。改善されるわけでも無いのに文句をたれるのは人の性って奴かな。
「あー……暇だ。退屈すぎて死ぬかもしれん」
別にゲームに興味が薄い訳ではない。少し前まではオンラインゲームのとあるFPSをやりこみ、そのゲーム内では【走る城壁】【やるゲームを間違えている人】【鉄壁】等と呼ばれていた。本当に楽しかった、これからもずっとこのゲームに飽きることは無い……そう思っていたのだが。突然として、その今まで熱狂していたFPSに突然飽きてしまった。それ以来俺は一週間もこの調子だ。
「先輩、今暇なの?」
ひょこっと隣から顔を出した少女は何かを企むような笑みを浮かべている。茶色がかったさらさらとした髪は風にそよそよと流され甘い香りを漂わせ、俺の鼻腔をくすぐる。
こいつは後輩の吉崎桃花。人懐っこくて可愛い自慢の後輩だが、残念ながら匂いフェチだ。
「急にFPSがつまらなくなってな」
「ふっふーん、そんな暇そうな先輩へ愛のプレゼントです!」
普通そこは理由を尋ねたりするもんだろう。まぁいつものことだが。
手渡された紙袋の中身を取り出すと丁寧にラッピングされた箱が入っていた。中々のデザインをした紙なので丁寧に開封する。そう言えば桃花のお姉さんに貰ったお菓子のお返しがまだだったな。よし、手作りショコラケーキをこれに包んで渡すとしよう。
「愛のプレゼントってゲームじゃねえか、えーとタイトルは『Artemis Online 』。略すとAO か。…おい、これVR用のゲームじゃないか。知ってるとは思うが【VR ダイバー】なんて持ってないぞ?」
今月一般発売したばかりの、次世代型ゲーム……仮想現実で遊ぶことを可能とした【VR ダイバー】はかなり高価で初期生産数が2万と少ない。小市民の俺には程遠い存在だ。
因みに【VR ダイバー】の名前の由来は、開発者曰くVRにザブーンと潜るから! らしい。
「そんなこともあろうかと!」
テンション高く【VRダイバー】を渡してきた。どっから調達したんだこれ?
「おい桃花、これどうしたんだ? VRダイバーなんて貴重で高価な物を」
「心配しなくても大丈夫ですよ!偶然、くじ引きで当たった奴ですから。私はもう持ってるので、売るよりは先輩にあげた方がいいかなーって。……それに先輩にはいつもお世話になってますし!」
「……優しい後輩をもって俺は幸せ者だな」
桃花の優しさに少し涙腺が緩ーーー
「抱きしめても良いんですよ? あとくんかくんかさせてください」
ーーまなかった。台無しだよちくしょう。
「今日からオープンなので一緒にやりましょう! もちろん先輩の部屋にお泊まりで!」
「いくら夏休みだからって男女がひとつ屋根の下でって不味くないか? 襲うかもしれないぞ?」
「大丈夫です!…むしろ襲います」
最後のは聞かなかったことにしよう。まぁ今まで何度か泊まりでゲームしてるから今さらか。その後、荷物をとってきた桃花と合流して帰宅した。
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「分厚いな……」
桃花がセッティングしている間に説明書でも読もうと思ったのだが予想以上に分厚かった。目次に目を通すと1300ページもあるようだ、こりゃ頭に入れるだけで丸二日はかかるだろ。
読むな読むまいかと悩んでいる内にどうやらセッティングが終わったらしく、早くログインしましょうと急かされる。
「あ、始める前にネーム言いますね。トーカってアバターが私ですよ!」
「もうアバター持ってるのか、もしかして朝作ったのか?」
「違いますよー。実は私βテストに参加してたのでアバターを引き継いだんです」
そう言えば桃花はAOと同じ会社のMMORPGをやってたな。トップギルドで活躍してるとか言ってたし、会社側からお呼ばれしたんだろ。
……そろそろゲームがやりてぇ、何かウズウズしてきた。子供の頃ってさ、買ったゲームを家まで待てずに即開封して遊んだりしたよな。
「よし、初期設定完了っと」
さて、そろそろ話しを切り上げるか。よく見ると桃花もなにやらそわそわしてる。このゲームっ娘め。
「んじゃ始めますか、よろしくなトーカ」
「はい! よろしくお願いしますね先輩!」
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何にもねぇ……ただ白いだけの空間に俺はいた。
『あなたのアバターを作ってください』
頭の中に声が聞える。成る程、きっと普通は自分なりにカッコいいアバターを作る為に時間をかけるんだろうな。
「でも面倒臭いんで外見そのままで後は種族ヒューマンでジョブは戦士でいいかな」
『最後にネームを入力してください』
名前か……桃花によく甘党って言われるからアマトウで良いか。個性的だし。
「アマトウで」
『間違いはありませんか?』
アマトウ:ヒューマン (レベル1)
職業:戦士(レベル1)
性別:男
ステータス
HP =40
MP =40
STR=5
DEF=5
AGI=5
INT=5
DEX=5
「OK 、問題ない」
『確認しました。それではアマトウさん『Artemis Online 』へようこそ』
ーーすると突然身体が光に包まれた。
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ここは殆どのプレイヤーが最初に訪れる街。始まりの街イシュテスと言うらしい。
光を抜けると大勢の人々と中世風の街並みが目に飛び込んできた。余りの活気に気圧される。
「すげぇ……これ本当にゲームかよ」
よし、早速探検と行こうか。俺はポータルと呼ばれるーーまぁ何だ、つまりは復活地点だな。それがある広場から人混みを掻き分けて行く。
少し街を歩くと露店を発見した。色々見て回るのも面白いかもしれんな。ふと見た露店に興味を引かれる物が。
「おおぉおっ!全身鎧に盾じゃねぇか!しかも種類が結構あるし、いい店見つけたぜ!」
ちなみに俺は重装備や盾に目がない。FPSでも盾しか使わなかったほどだ。
「どう?良かったら買ってくれないかしら」
「でも手持ちが1000Gしか無いからな……」
くそっ金があればこの鎧と盾が買えるのに……
「あら、800Gあれば初級全身鎧が買えるわよ?」
「え、マジで?」
「ええ、でもお勧めしないわよ?重いから最初の内はなぶり殺しにされるし、スタミナ消費が激しいし」
スタミナは隠しステータスだから管理が難しいらしい、どうしようか。しかしロマンは捨てられないしな。
「よし、初級全身鎧を買うわ」
「はい、これが初級全身鎧よ。後、耐久値が減少したら持ってきなさい、格安で修理するわ」
初級全身鎧は銀色の光沢を眩く放っており、見れば新品だとすぐに分かるだろう。見た目はオーソドックスな感じでいかにもフルプレートって印象だ。大抵の奴が見れば雑魚っぽいと言うかもしれないな。
「ああ、わかった。ところで素材持ち込みとかは?」
「勿論買い取るわ、それに防具も材料分安くで作ってあげる」
「色々ありがとう、俺はアマトウ、今後ともよろしく頼む」
「私はエレナよ、此方こそよろしくねアマトウ」
さっそく装備しよう。ウインドウを開いて鎧を選択すると、全身がずしりと重くなるのを感じる。成る程、これは確かに重いな…しかも疲れる。武器を装備するとこれより重くなるのか…うんざりするな。そして、初期武器を装備しようと操作していると気づいてしまった。
「え?武器が無いんだけど」
そう、武器が無い。俺は初期武器があると思い込んでいたが、どうやらこのゲームはあの金で装備を整えないといけなかったらしい。
「い、いや大丈夫だ。恐らく素手でも闘えるはず」
そう自分に言い聞かせて、俺は狩場へ向かった。
アマトウ:ヒューマン (レベル1)
職業:戦士(レベル1)
性別:男
ステータス
HP =40
MP =40
STR=5
DEF=5+2+15=22
AGI=5
INT=5
DEX=5
装備
武器:なし
頭:なし
胸:ボロシャツ(DEF +1)
腕:なし
腰:ボロデニム(DEF +1)
脚:なし
装飾品:なし
統一装備:初級全身鎧(DEF+15、装備制限全身鎧、スタミナ上昇効率UP )
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簡易キャラ紹介
アマトウ:ヒューマン
職業:戦士
性別:男
思いついた事を深く考えずに行動に移すクセがある。人の話を聞かない、大事なことをすぐに忘れる、後先考えない性格。芋虫とか蜘蛛のような虫が大の苦手。金槌でもある。
エレナ:ヒューマン
職業:鍛冶師
性別:女
βプレイヤー。赤髪で夢の刺繍が入った耐火エプロンを着用している。髪を後ろで纏めており三白眼に近い目付きが特徴的、姉御と呼びたくなる風貌をしている。
次回、雑魚と死闘
アマトウ「ライオットシールドとか売ってねぇの?」
エレナ「作れないこともないと思うけど…。世界観ぶち壊しよ?」
アマトウ「それもそうか」