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星空

 春が過ぎ、梅雨が明け、夏を迎えたある日の夕暮れ時。翔は母親の姿をした女を追いかけていた。だが、広場に出たとき母親の姿を見失い、そこにはピエロが一人、風船を持ちながら立っていた。

「あの、今ここに女の人が来ませんでしたか?」

 翔はピエロにそう尋ねるが、ピエロは翔のことを見続けたまま黙っている。

「あのう、今ここに……」

「イナイ」

「はい?」

「キミノオカアサンハイナイ」

 ピエロは甲高い声でそう喋ると、ケタケタと笑い出す。

 翔が驚いて後ずさると、ピエロは翔の両腕を勢い良く掴む。翔は必死に振りほどこうとするが、ピエロの握力は強く、振りほどけない。

「ショウショウショウショウ」

 ピエロの顔が母親に似た顔になり、その顔で翔の名前を呼び続ける。

「いっ、嫌だ。やめてっ……」

 翔はオオカミになり、ピエロの手から逃れる。ピエロは元の顔に戻り、高笑いする。

 ピエロに強く握られた両前脚が痛み、うまく立つことができず倒れる。人の姿になって、必死でピエロから逃げる。

 ピエロは、自分の体の大きさまで口を開ける。ピエロの口から巨大な光が飛び出し、その巨大な光は翔を飲み込む。



 翔が目を開けると、巨大な銀の竜が、顔の右半分を真っ赤に染めながら翔を見る。空から銀のドラゴンの鱗と血が降ってくる。先ほどのピエロのレーザー砲で、右半身の鱗が剥がれ、右翼の皮膜が破れて、そこから赤い肉が所々むき出しになり、鮮血が大量に飛び散る。

 銀のドラゴンは翔に背中を向けると、「間に合ってよかった」とテレパシーで伝える。

 「逃げて!」と翔はドラゴンに向かって叫ぶが、ドラゴンは「大丈夫だ」と言い、気を練り、体に気を纏う。

 ピエロのレーザー砲を受け止めたドラゴンは、一直線にピエロに向かって突進し、ピエロを巨大な前脚で叩き潰す。

「光治、その姿――」

「ああ、すまない。いままで黙っていて」光治は翔の方に振り返りながら、翔にテレパシーを送る。

「俺は竜人だ。翔のお父さんに頼まれて、ずっと翔を守っていた」

 翔に体を向けて、光治はそう言った。

「光治、怪我治さなきゃ……」

 翔が手を伸ばすと、光治は鼻先をそっと翔に近づけ、翔はその鼻先に触れる。



 光治の秘密を知って翔は、学校の担任でヴァンパイアハンターでもある寺田先生に、ピエロと戦うための訓練を申し込んだ。渋る寺田先生に翔は何回も頭を下げ、ついに訓練を受けられることになった。

 寺田先生は翔に、戦い方の基本と、剣の扱い方を教えた。

 翔の上達は早く、ピエロの攻撃を避けられるまでに成長して、光治は翔を守るために大怪我を負うことが無くなっていった。



 夏が過ぎ、秋が訪れた。翔と光治は互いの秘密を知り、もう一つの姿を見せるようになって、今まで以上に親密な関係になった。

「竜乗りの騎士は、パートナーの竜にあぶみを掛けて乗ったんだ」

 竜の光治はできるだけ体躯を小さくして、翔が乗り易いようにした。

「どうだい? うまく乗れたかい?」

「う、うん」

 翔は竜の背中の突起に、自分の体を紐で縛って落ちないように固定した。

「オッケー、固定できたよ」

「それじゃあ行くよ!」

 光治は夜の空を飛んだ。

 翔は最初は目をつむっていたが、段々と落ち着いてきて、周りを見渡せるようになった。

「す、すごい」

 後ろ手に回した、突起を掴む手に力が入り、あぶみを踏む足に力が入る。

「これが光治がいつも見ている世界……」

 星空が燦然(さんぜん)と輝き、地上の町の光は、小さな粒の集まりになっている。

 夜の帳を、月明かりに照らされた小さな銀の光が裂いていく――

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