第1話-3 自己紹介
「今のあなたには私が見えています。何故だと思いますか?」
神様が静かに語りかけてくる。
そうだ。確かに言われてみれば、俺は目の前の神が普通に見えている。仮に目の前にいるこの不審者の女が本当に神様だとした場合だが。でも本当にこの女が神様だとして、俺がその姿を見れているとしら…?
「そうかそうか、そういうことか!つまり俺は普通の人間ではないということだな!もしかすると魔法が使えたりとか、異世界に行けたりとか、もしくは女の子を」
「違います」
「何故に!?そしてそれをもう少し早く言ってほしかった」
俺の魔法が使いたいだの、異世界に行きたいだのとかいう厨二な妄想がだだ漏れじゃないか…。恥ずかし…
「私が普通じゃないからです」
「そりゃそうだよね!?いきなり人の家に不法侵入してさ、それに今何時だと思ってんの!?なんかくつろいでるし…うぐっ」
「その汚らわしい口を今すぐ閉じなさい、愚民」
すかさず神様がぴしゃりと言い放つ。え。神様がそんなこといっていいんですか。
「い、いきなり何すんだよっ!?」
「愚民がすばらしい神を冒涜する発言をした為、神の力、通称ゴッドパワーを使いました」
「神の力かゴッドパワーだか知らないけど、お前は俺の口を無理やり手で塞いだだけだろうが!」
「そうとも言います」
言わねえよ…。それにもうなんか疲れてきたんだが。この神様とグダグダしてるうちにとっくに日付は変わっており、先ほどまでは車やバイクで騒がしかった家の前の道もすっかり静かになっており、ときどき暴走族らしき五月蝿いバイクが通るだけだ。
「なあ、そろそろ真面目に話合わないか」
俺の空気が変わったことを察してか、神様が姿勢を正す。
「もとより私はそのつもりでしたが」
嘘つけ、と言いたいのをぐっと我慢する。耐えろ、佐藤陽平!
「相互理解のために、お互いの自己紹介をするべきかと。まず私の自己紹介をしたいと思います」
「ああ、なるほどな。どうぞ」
そうは言ってみたものの、俺にはこの状況で自己紹介をするメリットがいまいちわからない。神様が今ここにいることに何か関係があるのだろうか…。黙っておとなしく聞いておくことにしよう。
「私の名前は先ほど言ったように、木花咲耶姫神です。「木の花が咲く」ように美しい女神という意味で、富士山本宮浅間大社をはじめとした日本各地の約1300の浅間神社で祀られているのが私ですね。古事記や日本書紀といったものにも登場するようです」
日本各地で祀られている!?しかも神話の時代から生きている!?もしかして俺はどんでもない人に暴言を吐いてしまったのでは…
せめて呪い殺すのだけは勘弁してもらわなければ…
「すいませんでしたぁあああ」
俺は頭を地面にこすりつけんばかりの勢いで土下座する。まだ死にたくない。
「顔を上げてください」
おそるおそる顔を上げると、神様が女神のような…女神だが…笑顔で俺に微笑んでくれている。
神よ、神は俺を見捨てなかったのですね…!
「いえ、木花咲耶姫神というのはあくまで概念の集合体みたいなもので。私を形成している人格は、あくまであなたの家の近所の神社の御神体ですね」
神様がまたもや家庭教師モードになって得意げに説明してくる。
「な、なるほど…」
「では、次はあなたの自己紹介を」
「あ、はい、私立青葉学園高等部2年1組、佐藤陽平です。部活は学校からは認め荒れてないし、部費も出ないんですけど、非公式の青葉から世界を征服しよう部に入ってます。あ、みんなはASS部って呼んでます」
「何ですかそのESS部みたいなノリは!」
おお、なんと!神様がツッコミを…!
「自己紹介も終わったし、事情はゆっくり話しません?お茶とお菓子もって来るんで…」
俺はお菓子どこにあったっけ、なんてことを考えながらゆっくりと立ち上がる。
「あ、それから」
俺は突然思い出したように神様に振り返る。
「咲耶って呼んでいいですか?」
「え、恐れ多くも神に向かって、いや、嫌というわけではないんですが、ほら、初対面の乙女にいきなり…」
顔を真っ赤にして乱している咲耶はほっといて、お茶とお菓子を取りに行くことにする。
なかなかかわいいな、なんてことを思いながら…




