彼女が見抜く嘘、俺が告げる気持ち
『それがね、今日香奈ちゃんから、彼氏出来た、ってメールが来てね、本当?おめでとう、ってメール返したら、嘘だよ~、だって。もう、騙されちゃった』
携帯電話からは少しテンション高めな声。
「それは、俺も騙されるだろうな。どうして彼氏いないのか分からないくらいかわいいもんな」
電話の向こうの声が俺の声よりも高いのはもちろんのこと。
『またそんなこと言って・・・もしかして拓矢は香奈ちゃんのこと好き・・・なの?』
俺はベッドに寝転がりながら不敵な笑みを浮かべる。
「ああ、バレてたか・・・俺は真澤先輩のことが好きだ」
『えっ・・・そ、そう、なんだ・・・』
電話の向こうのしょぼくれた声。そこで俺は大笑い。
「お前、やっぱり騙されやすいんだな」
『あっ・・・もう。拓矢のバカっ。電話切る!』
「ちょっ、ごめんって。もう嘘つかないから。悪かったよ」
怒るとは思っていなかったので、嘘をついたことに若干の罪悪感を覚える。
もう承知のことだと思うが、今日はエイプリルフールだ。世界中で嘘が蔓延し、嘘つきメーターなるものがあれば、一年で最も高い数値を観測できる日でもあるだろう。
そんな日の夜遅くに俺と電話をしているのは幼馴染のさやか。向かい側の家に住み、同じ高校に通う俺の一つ上の先輩だ。まあ、幼馴染なので先輩も後輩も関係ないんだけど・・・
『全く・・・拓矢ったらひどいよ』
さやかはとても素直な娘だ。そしてとても騙されやすい一面を持っている。
「ごめんごめん。エイプリルフールって言ってもなかなか嘘をつけないから、調子に乗った。ところで、さやかは真澤先輩に嘘をつかれて、何か仕返ししたの?」
『え・・・えっと・・・朝学校に行く時に百万円拾ったって・・・』
「・・・」
騙されやすい人間は嘘をつくのが下手なのかな。
毎日この時間、俺とさやかはメールのやりとりをするのが日課になっているのだけれど、今日は彼女の方から電話をかけてきた。
よほど真澤先輩につかれた嘘を俺に言いたかったのだろう。かわいいやつめ。
『そういえばさ・・・』と、さやかのトーンの低めな声が響く。
「なに?」
『もう四月なんだよね・・・私は今年受験か・・・』
そうか。もう昨日でいう来年度なんだな。さやかは高校三年生で俺は高校二年生。
「さやかは大学に進学するんだよね?」
『うん。そうなるかな。まだ私の学力は志望校のレベルに到底及ばないけど・・・もっと勉強しないとね』
「そうだね・・・はあ。俺も来年か」
『先輩の話を聞くと結構大変そうだよ。遊ぶ時間とか無くなるって』
話を聞いているだけで憂鬱になってきたな。でも声の調子から、話している彼女の方が憂鬱だろうことは間違いない。
「まあ、さやかなら大丈夫さ。志望校にもきっと受かる」根拠はないけどな。でもそんな気がするのは嘘ではない。
『もう・・・ありがとう』ちょっと照れたな。
ふと、カーテンを開け、窓の向こうのさやかの家を見る。彼女の部屋は俺の部屋と向かい合わせで距離も離れていないから、お互いの顔を見ることだってできる。今はもちろん、カーテンが閉められているけど、明かりがついていることは分かる。
俺らの関係は昔から変わらないな、と思う。
そしてもうそろそろ変わってもいいかな、と思う。
『ん、どうしたの?』
「いや、何でもない。ちょっと考え事をしていただけさ」
『ふうん。まあ、いいや。あっ、もうそろそろ十二時だね。じゃあ、私そろそろ寝るね。おやすみ』
「おやすみ。また明日な」
そう言って電話を切るのは午後十一時四十五分。四月二日まであと十五分。嘘をつけるまであと九百秒。
「はあ・・・」
と、俺は溜息をつきながらメールを打つ。
本文:さやかのことが好きだ。
毎年、この日になると必ず打ち、絶対に送らないメール。小さい頃は手紙を書いていた。
嘘ではない。本当のことだ。
最初はふられたときに、嘘だよ、と誤魔化せるからエイプリルフールに告白しようと思っていた。でも毎年結局最後の送信ボタンが押せず仕舞い・・・
まあ、今までエイプリルフールに告白しよう、と決められただけでも恋愛に疎い俺としては満足だったが、今年は違う。来年はさやかも大学に進学してもう会えないかもしれない。大学で彼氏ができるかもしれない・・・
そんなことを考えている間に時間は午後十一時五十六分。もう時間がない・・・
俺は携帯をまじまじと見つめ、同時にさやかの部屋を見る。まだ明かりはついている。高鳴る鼓動。いつも一緒にいる彼女に告白のメールを送るだけなのに・・・
「っ・・・」
俺の指はいつの間にか送信ボタンを押していた。時間は午後十一時五十九分。何秒かまでは分からない。だからメールが届くのも四月一日なのか二日なのか分からない・・・
本文:さやかのことが好きだ。
焦っているところにいきなり電話がかかってきて思わず携帯を落とす。着信。さやかからだ。
俺が出るといきなり彼女の大声。携帯を耳から話した時に間違えて通話終了ボタンを押してしまった。何と言っていたかは分からない。
「拓矢の嘘つき。もう私騙されないから。早く窓を開けなさいよ!」
外から声が聞こえる。
「え?」
背筋が凍りつき、身動きができそうにない体をどうにか駆って、俺はすごい勢いで窓を開ける。向かいの家の窓にはさやかが見え、彼女は満面の笑みを浮かべながら、声を張り上げて叫ぶ。
「私のこと・・・大好きなくせに!」
登場人物の名前について。
今回は俺の友達の名前を主人公に、ヒロインに友人の好きな名前を、ヒロインの同級生に友人の好きな声優さんの名前をつけてみました。
その友人に読ませてみたところ、
「俺の妄想を読んでいるみたいで恥ずかしい」
って言ってました(笑)
なんていうかこちらも恥ずかしくなってきました。
感想、意見などありましたら、よろしくお願いします。