不祥神社
「今年はどんな不祥事があるかな〜」
毎年1月1日、不祥神社で販売される『不祥事ビンゴ』。
一枚4989円。
販売されるカードは4989枚限定で、一人一枚まで。
今年も家族四人で朝から並び、なんとか四枚手に入れることができた。
カードは縦五マス、横五マス。
中央を除いた二十四マスには、運営会社が用意した『今年の不祥事予想一覧』から好きな項目を選んで記入する。
同じ項目を複数のマスに入れることはできない。
中央だけは自由記入枠だ。
ここには一覧から選んだ項目でも、すでに殿堂入りして通常のマスでは使えなくなった不祥事でも、自分で考えた不祥事でも入れることができる。
一覧や殿堂入りから選んだ場合は、通常のビンゴとして扱われる。
通常のビンゴには賞金はない。
年末の答え合わせでは、番組内でビンゴが成立した順に、その時点で残っている賞品から一つ好きなものを選ぶことができる。同じ発表で複数人がビンゴになった場合は、受付番号の若い順となる。
中央に自分で考えた不祥事を書き、それが実際に起き、内容まで具体的に一致していれば『ピンポイント賞』の対象となる。
ただし、同じ不祥事を的中させた人が二人以上いた場合、その予想によるピンポイント賞は全員無効となる。書き方が違っても、予想の中身が実質的に同じなら重複扱いだ。
賞金は1000万円。
さらに、その自由記入枠を含めてビンゴまで成立すれば、賞金は一億円となる。
ピンポイント賞は、通常のビンゴとは別の賞だ。
12月30日の午後11時59分までに公表された不祥事が、その年の判定対象になる。
記入したカードはその場で運営側に預け、年末になると返却される。
大晦日には全国放送で結果発表の特番まで組まれる、毎年恒例の行事だ。
境内の横には、おみくじを結ぶ木と並んで、大きな『今年の不祥事予想一覧』が貼り出されていた。
「あっ! 教師の盗撮があるよ、お父さん。僕の学校でもあったやつだ」
十歳の息子、春樹が掲示板を指さした。
「ああ、それは殿堂入りしてるから普通のマスには入れられないぞ」
「えー」
『教師による盗撮』
赤い文字の横に金色の冠が付いている。
同じ種類の不祥事が五年連続で起きると殿堂入りとなり、翌年から通常のマスでは使用できない。
「じゃあ真ん中に書こうかな」
「お前、去年もそれ書いただろ」
「だって当たりやすいもん」
去年、春樹はそれを中央に入れ、四番目にビンゴとなってマウンテンバイクを手に入れた。
「これもすごいよ。警察官の交番での性行為。四年連続だって」
「せいこういってな〜に?」
三歳の娘、キララが聞いた。
「それはまだ知らなくていいの」
妻の春江が止めた。
「でも今年あったら、来年から殿堂入りだぞ」
「あなたも説明しなくていいの」
「……はい」
「あ、★付いてる」
春樹が別の項目を指さした。
「今年の鉄板か」
一覧には、いくつかの項目に★が付いている。
運営会社が、今年は特に起きる可能性が高いと予想したものだ。
『企業による個人情報流出 ★』
『公務員による公金の私的流用 ★』
『警察官による飲酒運転 ★』
『企業による検査データ改ざん ★』
『政治家の政治資金をめぐる不適切処理 ★』
「情報流出は入れようっと」
春樹がカードに書き始めた。
「キララ、公務員がいいよ」
「こうむいん?」
「けっこう当たるから」
春江も自分のカードに『公務員による公金の私的流用』と書いた。
周りでも、みんな掲示板とカードを見比べている。
「食品偽装どこに入れた?」
「左下」
「パワハラは?」
「今年★付いてないよ」
「でも入れとく」
毎年聞く会話だった。
俺たちも空いている長机を見つけ、四人でカードを埋めていった。
春樹は去年当たった項目を中心に選び、春江は★の付いたものを多めに入れている。
キララはまだ字が書けないので、春樹が代わりに書いた。
「キララ、真ん中は何にする?」
「こうむいん」
「公務員の何?」
「わるいこと」
「それじゃ広すぎるよ。ピンポイントにならないから、ちゃんと決めないと」
「じゃあ、おかねとる」
「何のお金?」
「春樹。さすがに、キララにはまだ分からないよ」
結局、キララの自由記入枠には、殿堂入りしている『教師による盗撮』を書くことになった。
俺も二十四マスを埋め、中央だけを残した。
「あなた、今年もピンポイント狙うの?」
「ああ」
「また?」
「一千万だぞ」
去年も狙ったが、見事に外れた。
去年ピンポイント賞を取った人の予想は、
『ジェネリック医薬品メーカーが、規格外となった医薬品を承認されていない方法で再加工し、そのまま出荷する』
だった。
俺は掲示板を見ながら考え、中央のマスに書いた。
『ある自治体が、地方交付税を多く受け取るために人口を水増しする』
春江が横から覗いた。
「ないない」
「そうか?」
「人口を水増しって、どんだけバカな自治体よ」
春江も中央のマスに何かを書いた。
『職員が職場の備品をフリマアプリで売る』
「おいおい、それ一覧にあるだろ?」
「え? そうなの?」
「ほら、下のほう」
掲示板には、
『職場の備品をフリマアプリで販売』
とあった。
「あ〜、ありきたりだったか〜」
「それなら普通のマスに入れればいいだろ」
「じゃあ、別の考える」
春江は書いた文字に二本線を引き、しばらく考えてから別の予想を書き込んだ。
四人分のカードを書き終えると、受付へ持っていった。
住所と氏名を記入し、カードを運営側へ預ける。
これで今年のカードは決まった。
帰る前に本殿へ向かった。
賽銭を入れ、鈴を鳴らす。
家族四人で手を合わせた。
「今年もビンゴできますように」
春樹が言った。
「キララも!」
「こうむいんが、わるいことしますように」
「それは言わなくていいの」
*
12月31日。
数日前に返却されていた四人分のカードを、春樹が持ってきた。
「始まるよ!」
テレビでは毎年恒例の『不祥事ビンゴ 年末答え合わせスペシャル』が始まっていた。
テーブルの上にはカードと赤ペン。
今年の不祥事予想が、成立したかどうか順番に発表されていく。
『企業による個人情報流出――成立』
「あった!」
春樹が丸を付ける。
『公務員による公金の私的流用――成立』
「よし」
春江のカードも一つ埋まった。
『警察官による飲酒運転――成立』
『食品の産地偽装――成立』
『警察官が押収したゲーム機を無断で持ち帰る――不成立』
『男性警察官が押収した女性用下着を着用して帰宅――成立』
「あ〜、そっちだったか〜」
画面の隅には、その時点でビンゴになった人数と、残っている賞品が表示されている。
春樹はあと一マス足りず、今年はビンゴにならなかった。
「惜しかったな。今年は珍しく教師の不祥事が少なかったからな〜」
「ちぇ〜」
番組は最後のコーナーに入った。
『続いて、今年のピンポイント賞です』
司会者の後ろに、自由記入枠へ書かれた予想がいくつか表示された。
『市議会議員が本会議中にオンラインゲーム』
『学校給食費を職員が競馬に使用』
『消防署員が救急車で私用の買い物』
「みんな上手いこと考えるわねぇ」
春江が言った。
画面が切り替わった。
『今年、ピンポイント賞の条件を満たしたカードは、たった一枚です』
大きな文字が表示された。
『ある自治体が、地方交付税を多く受け取るために人口を水増しする』
「え?」
俺は自分のカードを確認した。
「お父さん!」
「ちょっと待て」
画面の下に受付番号が表示される。
カードの番号と同じだった。
「これ、お父さんの!」
「一千万!」
春江が俺のカードを取った。
「ほんとだ!」
キララもよく分からないまま、
「いっせんまんえん!」
と叫んだ。
画面では、その不祥事の概要が紹介されている。
『国の調査によって、実際には居住していない人物を人口として計上していたことが確認されました。内部資料などから、地方交付税の算定を有利にする目的だったことも明らかになっています』
「あなた、ほんとに当てたじゃない」
「……ああ」
春樹は俺のカードを見たまま、中央の横を指さした。
「あれ? お父さん、ここも丸だよね」
『食品の産地偽装』
成立している。
反対側のマスにも丸が付いていた。
春樹が横一列を指で追った。
「……ビンゴじゃん」
「え?」
「真ん中入れてビンゴ」
春江もカードを確認した。
「ほんとだ」
テレビから司会者の声が聞こえた。
『さらに、このピンポイント賞のカードですが、自由記入枠を含む一列も成立しています』
俺のカードが画面いっぱいに映った。
『特別賞 一億円』
「一億ーっ!」
春樹が跳び上がった。
「うそ!」
「いちおくって、なぁ〜に?」
春江はすぐにスマホを取り出した。
「住宅ローン、全部返せるね」
「……ああ」
「家族旅行、いっぱい行けるね」
「……ああ」
テレビでは、一億円獲得者として俺の受付番号が何度も表示されていた。
*
午後11時49分。
不祥神社の運営会社からかかってきた本人確認の電話が終わった。
一億円の受け取りについては、年明けに改めて連絡が来るらしい。
春江は住宅ローンの残額を調べ、春樹は通販サイトで最新のゲーム機を見ている。
キララはもう寝ていた。
テレビはそのままついていた。
年越し特番の途中、画面の上に速報が出た。
『不祥事ビンゴ運営会社に不正会計の疑い』
<終>




