鬱々鬱々
何もかもやる気が起きない。
やらないといけないことは分かっている。
言われなくても分かっているのに、やる気が起きない。
ずっと、ずーっと布団に突っ伏して、
動く気力も、動かす意志も、
まるでどこかに置いてきたかのように起きない。
私は今まで、特に悲劇的なことも、
まるでドラマのような激情も持ち合わせているわけではなかったし、
子供から大人になるまでも楽観的に過ごしてきた。
そのはずだった。
でも、一つだけ失敗した。
それは、付き合う人々。
会社やプライベートで付き合う人は、
まるで私とは別の世界から来たような人たちで、
それは努力家、研鑽家であり、
根から明るく、コミュニケーション能力に優れていて、
常に誰かと一緒にいる。
それは私とは正反対で、
周りにはその程度の人で溢れている。
私は多分いじめられている。そんな気がする。
その人たちは、会社の接待から何から、
自身の上昇と社会的地位の確立のために邁進することを厭わない。
私はそれが好きではなかった。
好きでもない人のために、時間と労力をかけることの意味が分からなかった。
学生の頃は、それでもよかった。
とりあえず成績を保ち、登校していれば、文句も何も言われなかったから。
それでも、大人になるとそれ以外の、
つまり「人間としての力」を求められる。
人付き合いもそうだ。
分かっている。
私はまだ子供なんだ。
分かっている。
人間関係を円滑に回すことも仕事の一つだと。
大人として生きるには、
自分は常に愛想よく、
他の人に気を揉ませることがないように努めるべきだと。
だけど、それを学んでこなかった人は?
どうすれば?
私は知らなかった。
知ろうとしなかった。
そのツケのようなものが、何年も熟成されて、
今、返ってきている。
そして私は退職した。
皆、心配してくれていたけど、
その顔も声も信じることができなかった。
「信じる」。
それも長年培った心があるからこそできることで、
私にはそれもなかった。
実家に帰って、ここ半年、何もしていない。
何も成し得ていない。
夜になると、なぜか涙が出そうになるが、出ない。
いっそのこと、全員が悪者だと断ずる馬鹿心があれば、
多少は救われたのに、
私は私がすべて悪いと気づいているので、
中途半端に苦しんで、
中途半端に何もしない。
スマホを見る。
大体の人間関係を断ち切ってしまったので、
半年前から何も変わらずに置いている。
もう駄々をこねていい年齢ではないと分かっているのに、
足が動かない。
いや、多分、動かなくてもいいと思ってしまっているからだろう。
そんな時に、家のチャイムが鳴った。
今、家には誰もいないので、私が出るしかない。
億劫がって玄関に向かう。
その足取りは鉛を付けられたかのように重くて苦しかった。
それでも出なければ、と思い出ると、
そこには会社の先輩、いや元先輩が立っていた。
「なんでこんなところに?」
そう聞くと、その人は、
この近くに出張に来たので顔を見に来た、と語った。
その人は、
私が初めて他人に恐れを抱くきっかけになった人だった。
半年前から何も変わっていないその人は、
また変わっていない笑顔で、私を見てこう言った。
「大丈夫?」
どうせ私のことなど何も心配していないくせに。
心配する自分を確立するために、わざわざここまで来たのか?
「大丈夫です」
そう言った。
そう言って、自分の考えたことに自分で嫌悪感と吐き気を抱き、
さっさと帰ろうと扉を閉めようとした。
そうするとその人は言った。
「なぜ会社を辞めたの?
あの時に、君は何も言わずに去っていったから、聞けなかった。」
辞めた理由?
そんなことを話して何か解決するのか?
でも多分、この人のことだ。
話さないと帰してくれない。
そう悟り、適当に理由を作ろうとした。
その人の目を見た。
久しぶりに見るその人の目は、
なぜかとても綺麗に見えた。
辞める前は、嘘と欺瞞に満ちた目をしているように感じたのに。
なんでだろう。
「実は――」
私は洗いざらいを話した。
すらすらと出る言葉に、自分でも驚いていた。
淀みなく話し終わって、その人の顔を見ると、
優しい顔をしていた。
「分かるよ」
と言った。
あなたに、あなたのような人に、
分かるわけがないだろう。
私のことなど。
そう言ってしまった。
言ってから後悔したが、もう仕方ない。
これでこの人との関係も終わる。
「いや、
分かるよ。私もそうだったから」
先輩の目は澄んでいた。
「私も周囲と比べて、自分はなんて出来損ないなんだって思っていた。
だから周りと同じような自分になった。
そうすると少しずつ前進していった。
そしてあなたが来た」
先輩は続ける。
「最初は思った。このような人がここでやっていけるのか?
だから皆でサポートしようとした。
でもあなたの心は私たちには向かなかった。
それは多分、私が置いてきてしまった心だから。
見ようとしなかったから。
当然のことだけど、
他人は自分の鏡で、
見ようともしないと、相手も自分を見るわけがない。
そう気づいた頃には、あなたは消えていった。
後悔した。
昔経験したことがあるのに、
助けになれたかもしれないのに。
......ごめんね」
先輩は話し終わった後に、私を見た。
それは怖くも違う、生物でもなく、
ただ優しかった。
私はその時に涙がこぼれた。
初めて人の前で泣いた気がする。
先輩は泣き止むまで、そこにいてくれた。
それだけでよかった。
そしてそれから時が経って、
私はまた社会に戻った。
先輩のそれからは知らない。
でも別にいい。
あの人は大丈夫だし、
大丈夫でなくなったら、絶対に助けに行く。
そして私。
私は全部が解決したとは言えないけど、
それでも生きている。
また前の自分に戻るかもしれない。
でも一歩ずつでいい。
進まなくてもいい。
これまでのすべてを認めて、受け入れることができれば、
私は歩いていける。




