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5.どーしよっかなー



 ターシャは死ぬ寸前までの記憶をそのまま持って、生き返った。というか、10歳まで時を戻して。死に戻った。


 だから、あれだけ苦手だった令嬢教育もばっちりだった。


「出来の悪い娼婦には、質の悪い客しかつけて貰えないからね」


 侯爵令嬢でありながら、人見知りがひどすぎて講師相手ですら怯んでしまい授業どころではなかったターシャの所作は最低だった。


 けれど、確かに日に当たらず家事もしたことのなかったターシャの肌は平民にはない美しさで、所作さえなんとかなればもうちょっと高く売れると判断されたらしい。


 ターシャも納得した。だって一回毎のお賃金が全然変わる。


 まぁ幾ら貰おうが、教育費や生活費として娼館へ支払う金額だって馬鹿にならないんだけど。


「あれ。マッチポンプ?」


 あれはあれで娼婦からお金を搾り取る術だったのかと今更気が付いた。手遅れすぎる。


「今の私は侯爵令嬢に戻ってるし。しかもまっさら! でも、血反吐を吐く思いで身に着けた知識と技術(意味深)とマナーは持ってる。ねぇ、完璧じゃない?」


 しかも、まだ10歳だ。あの屑に出会ってもいない。


「あの屑だけは許しちゃなんないわね」


 あいつを叩きのめすための、力を手に入れなくては。


「家の中での扱いはかなりよくなったけれど。それだけで勝てる気がしないもの」


 私は記憶にある事件や事故、あとお金にできそうな物を懸命に思い出して、やることリストを書きだしたノートに書き加えていく。



「とりあえず、死ぬ日までで覚えている近隣諸国、特にこの国で起きたことは書いておこう」


 遠いあの国まで届いたのだ。実際とは差異があっても、どれもすべて大事件に違いない。

 ふと、書き続けていた手が止まった。


「ううん。その前に、この領地のことをなんとかしないと駄目なのよ」


 クレアを失った私が、ヴァロー侯爵家内で誰からも顧みられることがなかった理由は幾つかある。


 その最大の理由が4年後にこの地を襲う筈だ。


「何より先に資金を稼いでおかなくちゃ。家族仲をよくする方法なんて知らないし。とりあえず後回しにしよう。お金がないって本当に心が荒むし」


 それは娼館で嫌というほど思い知ったことだった。


 一番人気だった娼婦が歳をとって指名が減って落ちぶれていく様は見ていて気持ちのいいものではない。娼婦の荒れ様は、見ていて辛いものだ。

 けれど、娼館に堕ちて仕事を疎かにした結果、落ちぶれていく客はもっと酷い有様になる。

 あれほど入れ込んだ娼婦からけんもほろろにされた客が転んだ時、立ち上がる手伝いをと差し伸べた手を、強く握ってひっぱられ「馬鹿にしているのか」と罵倒されながら、押し倒された小間使いもいた。

 しかし、客側は被害者妄想が酷く、加害者のくせに謝罪もしようとせず、会話を成り立たせるのも難しかったという。


 心の余裕は、懐の余裕に比例する。うむ。至言である。


「領地で穫れた小麦の保管方法を変えさたいけど、倉庫の形を変えさせるのはお金がかかりすぎるかしら。保存しやすい物を開発させる方が手っ取り早そうね。どれから手を付けるにしろ、先立つ物は必要ね」


 やはり、金。金がすべてとは言わないけれど、ほとんどのことは金で解決できるのだ。


 でも、倉庫の形を変えさせるのは設計を一から始めなくちゃいけないけれど、保存食については一から開発させなくたっていいのよね。なにしろ私には前世(ってて言っていいのかなぁ?)の記憶があるのだから。


 この国にはない文化。貴族令嬢には必要ない知識。

 あの場所には、お金を動かす力があった。


「どうせなら、好物が食べたいわ」


 多分、ヴァロー侯爵領で作っている物だけで作れるものだってあるはずだ。あぁ、でも胡椒だけは南から取り寄せないと駄目だわ。でも、他のスパイスに置き換えられないかやってみるのもいいかもしれない。


「まずは現状のヴァロー侯爵家と侯爵領について、ちゃんと知ることから始めましょう」


 情報を仕入れることが叶う場所、図書室を目指した。



 ヴァロー侯爵家の図書室は、まるで隠し部屋のように静かだった。

 埃こそ溜まってはいなかったけれど、蔵書目録の最後の記録で増えているのはここ数年は貴族名鑑と領地の耕作報告書だけといった有様だった。

 どの本もページが貼りついているような状態で、使っている人がいないことを表している。


「好都合ね」


 ここに、両親や姉たちが知らない本があったと言い張っても通る気がした。


 突然、これまで勉強嫌いというか誰かに話しかけられるだけで怖気づき目を閉じてしまうのでまるで勉強が捗らなった私が、新しい知識を声高に叫びだしても許される土台が欲しかったのだが、静かにここで本を読んでる期間を作ろう。

 その時間を使って、金儲けの計画を立てるのだ。


「まぁ私のできそうな提案っていったら、娼館由来の知識なんだけど」


 10歳の少女が言い出してもおかしくない娼館ネタってどんなものがあるかしら。


 …………。


「ま、まあいいわ。そのうち思いつくでしょう」


 一人で勉強をした中で浮かんだ疑問をお姉さま付きの家庭教師を捕まえて質問をしたりして実は勉強ができないという訳ではないと思わせたら、侍従長やヴァロー侯爵である父に話を持っていくのだ。


「まずは、証拠作りから始めましょ」




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