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43.モッチの木と新作ショコラとドラゴン



 リュシュパン伯爵領で作ってる燻製肉おいしくて大好きなのに。ハリケーンの復興のお手伝いしたお礼にいただいた時に「毎秋にドラゴンに家畜を襲われてしまう」と聞いて、心を痛めていた。手に入らなくなったら、あの至高の燻製肉のパスタが食べられなくなってしまう、と。


 でもよく考えたら、家畜が襲われなかったらもっと沢山の燻製肉が市場に出回るってことじゃないの。

 そうしたらもっとお安く日常的に口にできるかもしれないとなれば、なにか対策できないかと心に止めておいたのが功を奏した。それだけなのだ。


「あれこそたまたまですわ。私は、モッチの木の新芽部分が欲しかっただけです」

「あぁ、あの新作ショコラは王妃も気に入っているようだ」

「ありがとうございます。ね? ですからドラゴンは、たまたまなんです」


 実際、いろいろ噛み合ってラッキーだっただけなのよね。


 あのショコラを出しているお店から新製品について相談を受けた時には吃驚した。

 まぁね、本当は『ヴァローショコラ酒』の発案者とされているヴァロー侯爵であるお父様へきた案件だったのだけれど、元々のアイデアは()からの情報だと言われたそうで、私のところに話が来たのだ。

 ショコラティエの方は目を白黒させていたわ。『ヴァローショコラ酒』の効能を考えれば当然なんだけど。えへ。

 私にできるか分からなかったけれど、でも面白そうだなーと思ったので受けることにしたのだ。


 それで今度こそちゃんとあの薬師さんの手帳を読み込んでみた結果、メーダのある地方で好まれているモッチの木の新芽を乾燥させて粉末状にしたものについての記述が気になった。


『清涼感のある苦さがあって湯に溶いて飲むのが一番効果が高い。しかし苦み故に嫌う人も多く、いろいろ試した結果、甘みをつけてミルクで溶いて飲むとまるで菓子のようにおいしいし効能も変わらなかった』とあったのだ。


 モッチの木は山奥に生えているので新芽とか見たことがなかったけれど早速取り寄せて貰った。その時はまだ、商人だと思ってたバルに。


 痛恨の出来事だけど、それはいいのだ。この話とは別件だ。悔しいけど。ぐぬぬぬぬぬ。


 手に入れたモッチの木の新芽を乾燥させて粉末にし、ショコラを試作してみたところ、これがとても美味しかったのだ。

 香りも味も良かったけれど、それだけではない。食感が変化して、不思議なもっちもち感が生まれたのだ。

 誰も食べたことのないショコラが爆誕した瞬間だった。


 ただ問題があった。モッチの実はドラゴンの大好物である、ということ。

 ドラゴンは生息数自体少ないから集団で襲われるって訳じゃないみたいだけれどね。でも怖い。誰だってあんなのと対峙することになったら泣き叫ぶと思う。人間が勝てる相手じゃないし。生きてる厄災そのものだ。

 育てて貰うにしても、畑にドラゴンが実を食べにくるなんてことになったら大変だ。無理すぎる。


 実のつく季節じゃないけど、山奥のモッチの木を探して新芽を取りに行ってもらうのは大変だし(なにより高価になりすぎる)鮮度も落ちる。商品化は難しいということで却下された。


 採用にならなくて、すっごく悔しかった。商品として売り物にするには確かにコストは大切なのは分かっていたけど。


 めちゃくちゃ悔しかったので、もっとコストを掛けたショコラを作ってやった。

 希少な青い林檎を蜂蜜で煮たジャムを中に入れたショコラの上へ、金粉を振りかけたのだ。


 『金の林檎』という直球な名前。お菓子に払うとは思えないまるで宝飾品のような価格。

 まるで嫌がらせのようなショコラだったが、なんとこれが採用。高コスト過ぎたら、駄目なんじゃなかったのかと。こめかみがピクピクした。


 むっかついたけど、お高い理由が分かり易くターゲット層の嗜好や資産()と合致しているなら、高コストでもいいんだって。正論すぎて腹が立った。


 たしかに私が監修しただけあって、少し苦めのショコラと黄金色のハチミツ林檎ジャムは相性もよくて、最高においしい。ゴージャスな見た目のインパクトもある。そして売れた。当然だ。


 けれど、モッチの木の新芽のショコラの方がずっとずーーーっと新しいおいしさがあったのに!


 悔しい気持ちが、どうしても頭と舌から離れなかった。何年も。

 単に私が食べたかっただけともいうけど。残念ながら、ヴァロー侯爵領で作っても同じショコラにはならなかった。これも悔しさの理由の一つ。ぐぬぬ。


 そうしてある日、閃いたのだ。


 すでにドラゴンの被害に困っている土地、リュシュパン伯爵領の人の住んでいない場所で育てて貰えば、ドラゴンの被害を押さえた感が出て、モッチの木の栽培を喜んで受け入れて貰えちゃうのではないか、と。


 我ながら天才すぎる。怖いくらいだ。

 そうして実際に交渉した結果、あっさり受け入れて貰えたという訳なのよ。


 冬を迎える前の秋の終わり頃。リュシュバン伯爵領をドラゴンが襲うのは、安易に手に入る食料(家畜)を求めてのことだ。寒い冬を山の頂上の巣に籠って暮らす前に栄養を蓄えておきたいらしい。


 けれどドラゴンは、家畜の肉なんかよりモッチの木の実の方が大好き。ドラゴン的には最高に美味らしい。

 しかもドラゴン的に栄養価も高いみたいで、家畜を襲うよりずっと少ない量で満足してくれる。

 ちなみに実は人間には苦すぎて、どうやっても食べられない。お腹を壊すほど苦いよ。


 ドラゴンは晩秋にモッチの木の実を食べられて幸せ。

 街の人は冬の季節を前に家畜を襲われなくなっただけでなく、植えただけで勝手に成長していくモッチの木の新芽の収穫で収入も増えて幸せ。

 私は新作ショコラのコラボが成功して名声が上がっただけでなく、謝礼金を弾んで貰えて幸せ。

 お店は新作ショコラが増えたことで、スタンダードなショコラと食べ比べてみるお客さんが多くて売り上げ倍どころか桁が変わっちゃうほど売れて幸せな悲鳴を上げている。

 四方全部丸ごと幸せ倍増。とってもお得よね。


 あー、また食べたくなってきちゃった。買って帰ろっと。



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