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42.ミチミチ草の花畑



「ところで。あの、最後にどうしても陛下にお聞きしたいことがあるのです」


 どれだけバルから大丈夫だと言われても、私は国王陛下御自身のお気持ちが知りたかった。

 これを確認するまでは、婚約を受け入れられないと思っていた。

 最悪、この国を出ることだって覚悟している。


「なんだい。何でも聴いていいぞ」


 私の覚悟を知ってか知らずか、国王陛下は鷹揚に頷いてくれた。

 とりあえず訊ねることは許された。

 あとは本心を聞き出せるかどうかが、焦点となる。


 私は、覚悟が伝わるように祈りながら、心の中で何度も繰り返した問い掛けを告げた。


「私が、王太子妃、ひいては未来の王妃で本当にいいと、お思いですか」


「ターシャ。君はまだそんなことを」


 案の定、バルが止めにかかる。

 けれど私はあきらめるつもりはなかった。絶対に、陛下のお気持ちを聞き出すのだ。


「やめろ、ラインバルト。今、ターシャ嬢は私と話をしているのだ」


「はい。失礼しました」


 幸いにも、陛下は私ではなく、バルを止めてくれた。

 そうして陛下の下される裁定を待った。


「なぁ、ターシャ嬢。君が、ハリケーンの影響でより一層砂漠化が進んでしまったデレル子爵領の土地にミチミチ草を植えるように勧めたのだそうだな。すごいね、あれ。一気に広がって草原に変わったと報告を受けているよ」


「は?」


 おっと。いけないいけない。陛下のお言葉に対して相応しいとは到底思えない、間抜けな声を出してしまった。大失敗だ。


 とりあえず仕切り直すためにも、言われた言葉について、真面目に思い起こしてみることにする。


 ヴァロー侯爵領と山を隔てて隣接しているデレル子爵領は、あのハリケーンの被害をもろに受けた。


 私の提案を受け、準備を重ねてきた我が領と違い、王家からの通達を受けていたものの先立つ資金に乏しく、十分な準備など到底できなかったそうだ。


 元々、ヴァロー侯爵領で雨を降らせた後の乾燥した風が吹き下ろすデレル領は乾燥地帯で、強い風と雨で洗い流されたその地表は、より深い砂地となって近隣では幾つか町や村が砂に呑み込まれてしまった。


 それ以上砂が流れ出さないような対処が、早急に求められていた。


 そんなデレル領に、乾燥につよく繁殖力の旺盛でミッチミチに繁るミチミチ草は最適だった。


「あのお花、本当に可愛いですよね。乾燥地帯にしか根付かないのでヴァロー侯爵領では育たないのが残念です」


 突然の話題に少々面食らったものの、話自体はよく覚えているので笑って肯定する。


 一度根付いて双葉から本葉になっちゃえば大丈夫なんだけど。でも芽が出てすぐの頃は黴がつきやすいのよ。

 成長したら水分を蓄えるようになるくせに。植物って不思議よねー。


「ミチミチ草のお陰で、他の草花や木が生えて来たそうだよ」

「あら。ミチミチ草のお花畑を満喫できる期間は短そうですね。満開の時期を逃さないように、必ずお伺いしなくてはいけませんね」


「そうか。そんなに美しいのならば、王妃にもそう伝えておこう」

「まぁ! ではご一緒できたら嬉しいです。きっと領地の方々も喜びますわ」


 国王陛下は私の言葉に笑って頷いてくれた。嬉しい。きっと王妃様がいらしてくださったら、デレル子爵領の人たちは喜んでくれる。


 元々が恵まれない土地だ。更にハリケーンの被害に遭って折れた心を慰めてくれるミッチミチ草の花を見るためであろうと、王妃様が地方へ足を運んでくれるという誉れはそうあることではない。


 それに、砂漠の中に突如として現われる花畑。ここを観光地として売り出すならば、『王妃殿下来訪の地』というお墨付きは最高ではないか。

 売り出しやすくなること請け合いだわ。

 これでデレル子爵領は、新たな一歩を踏み出せる。うんうん。是が非でも、王妃様に見に来ていただかなくてはいけないわね。


 自分の思い描く計画の完璧さに一人頷いていると、陛下とバルが二人してこちらを見て笑っていた。


 なんだというのだろう。


「ターシャ嬢、君って人は」

「そういうところがいいんだ」


 なんだか意味不明ではあるが、嬉しそうなので放っておくことにする。

 それよりも、早く私の質問に答えが欲しい。


 国王陛下の次のお言葉を待って、姿勢を正す。

 なのに。陛下が次に話し始めたのも、別件だった。何故に?


「そうそう。ターシャ嬢の勧めでリュシュパン伯爵領の山に植えたモッチの木の話も聞いている。ドラゴンの襲来がなくなったそうだね」




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