41.メーダ国に関する報告。
※死に戻る前のド屑男の末路などです。胸糞回なので、酷い目に遭ったんだな、ざまぁと思っていただければ読まなくてもよろしいかと。メーダの町医者と娼館もちゃんと罪を償わされております※
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いかんいかん。思わず絶叫してしまった。
王宮内の奥の奥、秘密の部屋にいるというのに。なんということだ。
今更手で口を押えても何の意味もない。
「そうだよ。当たり前じゃないか。いい加減、私から逃げられると思わないことだね」
何をそんな当たり前のことに、とでも言いたそうなほど心外そうなバルに向かって、客観的事実を突きつける。
「それ、完全に悪役の言葉ですからね」
「人は愛に狂うと、常にない行動をとるというからね」
バルってば、ああ言えばこう言うという見本みたい。
苦虫を嚙み潰した気分で睨む。
「ふふ。そういう顔も可愛い、ターシャ。私だけを見つめているというのも、悪くない」
悔しい。だめだ。勝てる気がしない。
肩を落としていると、陛下が笑い声をあげた。
「はっはっは。どうやら誤解は解けたようだな。良かった。夫婦になるなら、最初に嘘があってはいかん。後々になって嘘だったと判明した時に、取り返しのつかない痂疲となる」
「御教訓ありがたく心に刻んでおきます。母上との実体験からですね」
「まぁそうだな」
おしどり夫婦と言われる国王陛下御夫妻にもいろいろあったのだろうか。
実の息子であるバルに見せる顔と、家臣でしかない侯爵令嬢の耳に届く顔ではまるで違うものなのかも。
それでもきっと鴛鴦にたとえられるお二人の関係は、嘘偽りないのだろう。
笑い合う父と息子が会話する姿に、そう思えた。
「さて。お前たちの婚約も無事整ったところで、ターシャ嬢の憂いをなくすことにしよう」
国王陛下の顔が、父親のそれからエードルンド国王のそれに変わった。
「実は、メーダ国との国交が正式なものにならないままなのは、あの国へ留学したり仕事の関係で赴いた者たちの中で、行方不明になる者が多いことが原因だった」
行方不明の言葉に息を吞む。
「それは我が国からだけではない。他国でも少なからず起きていたのだ。かの国は、文化の華と言われる国だ。華やかな生活に身持ちを崩し家に帰れなくなった者たちもいるだろう。だが、それにしても数が多い。問い合わせても、『自分の意志で入国した大人でしょう』と笑われるばかりで埒が明かぬような為体でな」
指に力が入って、勝手に握りこぶしを作っていた。
その手に、温かくて大きな手が重なる。
──バル。
声に出さずに唇の動きだけで名前を呼べば、すぐに笑顔で頷いてくれた。その小さな優しさに励まされる。バルが傍にいてくれる。それだけで大丈夫だと思えた。
「配下の者に探らせていたところ、新婚旅行に出かけた跡取り息子とその新妻の行方を捜しているというある商家の人間が見つかった。情報を交換した結果、彼らが最後に泊まった宿というのが、ターシャ嬢が泊まっていた宿と同じようだということが判明した。異国の言葉が通じる宿として紹介されたようだ。間取りや窓から見えたという塔との位置関係からな」
「!!」
陛下の言葉にハッとした。そうだ。あの宿がグルでない筈がなかった。
記憶は定かではなかったけれど、それでも思い出せるだけの情報をお伝えしておいてよかった。
「そこで、おとりとして夫婦を偽装した者たちを、その宿に泊まらせた。旅の夫婦としてな」
「そんなっ。危険すぎませんか」
「そこは王家の配下だ、安心してほしい。その夜に夫役が体調を崩し、宿の者が手配した町医者がやってきてこう言ったそうだ。『残念ながら、死病に侵されている。とても高価な薬を飲ませれば治るかもしれない。だが、飲み続けなければいけないので、とても払いきれないだろう』とな」
「…………」
どうしよう。
話を聞けば聞くほど、なんで私こんな法螺話を信じちゃったのか不思議なんですけどっ。恥ずかしくって仕方がないんですけどぉぉぉ。
うわあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!! と叫んでここから逃げ出したい。
真っ赤になって震えて下を向いていると、私の手に重ねられているバルの手も、震えていることに気が付いた。
反対側の手でぺちんと叩くと、バルが噴き出した。
「酷いっ」
「ごめんごめん。最初はちゃんと心配してたんだよ。でも、ターシャの百面相があまりにも可愛いから。つい」
そう言い訳している最中も、バルは笑いっぱなしだった。
「ラインバルト。お前、デリカシーという物をどこかに忘れてきたのではないか。異国の地という非日常の中で突然、大切な存在の生死を突きつけられて、冷静な判断が下せるものではないのだ。誰しも不安に苛まされ、惑わされる。間違った選択肢を選んでしまうものなのだ」
優しい取り成しが、傷だらけの心に染みる。染みたのに。
「まぁ、それはそれとして、表情を分かり易く変えるターシャ嬢がかわいいのには異論は挟まぬよ」
「ですよね。でも、ターシャは私のです」
「息子であるお前の嫁ということは、私の娘。つまり私のものでもある」
「陛下! バル! いい加減にしてください! 今も被害に遭っている方々がいるんですよ!」
さすがに不謹慎すぎると咎めた私に、陛下は優しく教えてくれた。
「安心してほしい。全員、救助済だ。勿論、すでに亡くなっていた被害者たちも、いる。それでもあいつ等はすべて捕らえて、メーダ国を飛び越し、被害者たちの国家間で協議の上、罰した。奴らはもうこの世には存在しない」
「え、国際問題にはならないんですか?」
大丈夫なの、それって内政干渉とかならないのかしら。
戦争になったりしないのだろうか。
「正式な国交を結ばないことで中立を謳ってのらりくらりと違法なことに手を染めてきたメーダ国が、数多の周辺諸国が話し合って行った個人的報復に対して、抗議などできるものか。メーダ国流に言えば『自分が犯した罪を償わされただけ』だ」
『大人が自分の意志で入国した』のだから、犯罪に巻き込まれようとどうしようと自己責任だと放置するような国なのだから、ということだろうか。
「実際に、メーダ国からは何も言われていないしな」
ソファの背にゆったりと背中を預け、陛下は言い切った。
「でも」
「あいつ等は、宿に泊まった異国からの客の食事へ毒を仕込んで病を装い、そうして同行者を騙して身売りをさせただけでは飽き足らず、毒を飲ませた本人にも、薬が欲しければ大人しく従えと……あー、この世には女性に身体を売らせるだけでなく、男性にも、同じように身売りをさせる店がある。そういった店で、身体を売らせていたのだ。毎度の食事へ、毒を仕込みながらな」
「ひっ」
あまりの衝撃に、吐き気がした。
「ターシャ嬢、君があいつらに関して何一つ覚えておく必要はない。奴らは人の皮をかぶった外道だった。当然の報いを受けただけだ。そうしてそんな外道を放置した国とも我が国が国交を望むことはない。我が国以外もだ」
断固として言い切った陛下の言葉に、メーダ国が文化の華でいられるのも、もうすぐ終わるのかもしれない。そう思った。
「はい。ありがとう、ございました」
それ以上何も聞く気にはなれなかった。
私はただ深く、頭を下げた。
※どなたからも聞かれてませんが
メーダで、異国の言葉が通じると紹介されている宿と町医者が組んで
娼館に犠牲者を売りにきています。
なので宿のオーナーなどもまるっと処分されております。




