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37.告白



「嫌だ」


 ものすっごく覚悟を決めて告げたのに。あっさり却下されて腹が立った。


 でも、ほんの少しだけ、ちょっとだけ安心した。嬉しいと思ってしまう。

 そんなズルい自分が嫌すぎて、心が滅入る。


「心に他の男性を住まわせたままの女とご結婚なさるおつもりですか? 奇特ですね」


 けれどこればっかりはあきらめて欲しい。受け入れて貰わなくちゃいけない。

 だって、私は、私が好きな人には、私みたいな記憶を持つ馬鹿女と結婚してほしくないのだ。絶対に許せない。


 一片の憂いなく、ぴっかぴかな幸せを手に入れて欲しい。


「……王族の婚姻なんて、そんなものだろう」


 王族らしい微笑みを浮かべて。軽い言葉を選んでいるけれど、その目は真剣そのものだった。

 指が白くなるほど手を強く握りしめるなんて。だめよ。綺麗な手に傷がついてしまう。


「そうかもしれませんね。でも、私は嫌なんです」


 けれど、その全部に気が付かないふりをして、拒否を貫く。


「俺との婚姻が、嫌だというのか」


「……えぇ」


 心が軋む。もちろん、嘘だわ。


「俺が、嫌いだと?」


「えぇ」


 声が震えださないように、力を込めて頷いてみせる。頑張れ、ターシャ。目を開けることすらできないけれど。泣き出さないだけ、えらいと思うの。


「はっきり言え。俺の目を見て、『俺が嫌い』だと言えたら考えてやろう」


 なんてひどいことを言うのだろう。よくそんな酷い罰を思いつくものだと呆れるしかない。


「ふふ。殿下がマゾだとは知りませんでした」


「ターシャ。言え」


「考えてやるだけなのでしょう? 言い損だわ」


 言いたくなかった。だから、言わないで済む方法を必死で探す。そのための時間を稼ぐつもりで、言葉遊びを弄した。


「いいじゃないか。そこの男が好きなら、俺を嫌いだと口に出す程度のこと、簡単だろう」


「不敬罪で捕まりたくありません」


「そんなもの。俺が許したんだ。適用なんぞするか」


「……ぃです」


「俺の目を見て言え。はっきりと大きな声でな」


「……らぃ」


「だから、俺の目を見ろと言っているんだ、ターシャ・ヴァロー」


 ぐいっと身体が持ち上げられる。

 強引に視線を合わせるように抱き上げられた。


 冷たく睨まれると思ったのに。

 琥珀色の瞳が、甘く蕩けて私を見ている。


「好きだ、ターシャ」


「きっ、きらいよ。バルなんて、だい、……らいなんだからぁぁぁぁ」


 うわぁぁんと泣き声を上げる。もう我慢なんてできなかった。


「そんなに泣いて。泣くほど言うのが嫌なら、俺を捨てようとするな、ターシャ」


「きらいだもん。わたしは、娼婦として死んだの。馬鹿な男の妄想を叶える手段とするために。嘘の愛を囁かれただけで、あっさりと騙されて。……汚いことをいっぱいされたし、したわ。そんな女は、バルの隣にふさわしくないのよ。きらいよ、だいきらい。馬鹿な自分が、だいっきらいなの」


 ずっと隠してきた思いが、溢れていく。

 どんなに皆が褒めてくれても、笑いかけてくれても、感謝してくれたとしても、私は私が嫌いだ。嫌いで嫌いで、仕方がなかった。


 領地がどれだけ困っていたのか分かっていたのに。すべてを捨てて逃げた。

 両親は、私を、金持ちの後妻にするつもりなんて無かったのに。邪推して。拗ねて。


 弱くて、自分にだけ甘くて。すべてから逃げて、流されついた場所で、死ぬまで恨みを連ねていくばかりだった馬鹿で何もできない弱虫なターシャ・ヴァローが、大嫌いだ。


 そんな私が、バルの隣になんて、立つわけにはいかないのよ。


 なのに。


「あぁそうか。だが、俺はその記憶を持っていることも含めて、お前が、好きだ。愛しているんだ、ターシャ・ヴァロー。だから、婚約を破棄したいなんて、言うな」


 ぎゅっと強く抱きしめてくれるから。

 冷たかった身体に感じるその手の暖かさが幸せすぎて、もう逃がしてあげることすら、できそうにない。


「馬鹿ね。私から、解放される、最後のチャンスだったのに」

「馬鹿だな。俺から逃がしてやるわけがないだろ。逃げられると思うなよ」


 更に強く抱きしめられた。一切の隙間がないほど、強く。


「あいしてる、ターシャ・ヴァロー。卒業したら、結婚して」







ちょっと短め。どうしてもここだけ切り取りたかった。

前回と次回、その分長いので許してくれめんす

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