21.図書室にて
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薄暗い図書室の一角に灯りをもって閉じ籠る。
午前中、姉さまたちが学園に通うようになってから、私が同じ家庭教師から授業を受けるようになった。そのおさらい、という口実だが、実際にはひとりで考え事をするだけだ。
基礎はあっても遠いメーダ国のマナーばかり覚えている私には丁度いい。
死に戻る前の私は、女家庭教師の顔すら見れなくて授業どころじゃなかったっけ。
なにをどう話しかけられても、怖いとしか思わなかった。敵だとすら、思ってた。
酷い生徒だ。やりにくかっただろうなー。こんなんでも侯爵令嬢だもんね。どんなに貧乏でも雑に扱う訳にもいかなくて困らせた自覚だけはある。
だから今は、名誉挽回するために頑張っている。
クレアは本を読まないので、図書室へは私を連れてきてくれるだけだ。
今の方がずっとずっと大好きだし、私の大切な専属侍女だけど、前の時ほど依存しないようにしているので、私が図書室に閉じこもっている間はクレアの自由時間となる。
とは言っても、クレアは隣の部屋で待機してくれているみたいだけど。
図書室薄暗いからね。横で刺繍とか時間潰せる何をするにも向かないし、何もしないと寝ちゃうんだろう。さすがに職場でうたた寝をするのはまずいみたい。
私はそれでもいいんだけどね。
「では、隣の部屋にいますので。お腹が空いたらお声がけください」
「そんなことしないわよ!」
「冗談です。疲れすぎないように休憩はちゃんと取ってくださいね」
くすくす笑ってクレアが出ていく。
扉が完全にしまったことを確認して、あのノートを開いた。
「このヴァロー侯爵邸が耐えられたんだから、同じくらい堅牢な建物だったら大丈夫な筈なのよ」
だから、とりあえず高台にある教会を建て直した。孤児院も建て直しができて、倉庫も工場も作った。
問題は、私たちが口出しできない宿泊施設や商業施設の建設申請についてなのだ。
さすがに民間施設を教会並みに頑丈に建てろということはできない。
支払いはオーナーになる平民だもん。
「でも、建ててすぐ倒壊するのはダメージ大きいよね」
一応、ぎりぎりまで引き延ばすために街道や水路や防壁の整備を優先させて引き伸ばしは試みたのだ。
けれどそれももう限界だ。
私が仕事を増やせば、その分その仕事関係者が増えていくのだ。テント村だって限界だ。
「どうしよう」
頭を抱える。
そもそも、こんなに人口が増えてしまうなんて想定外すぎるのだ。
避難所にする場所を作ったからといって、その建物がハリケーンに耐えられるのかも分かんない。
職人さんたちが頑張って建ててくれたのは分かるけど。でも侯爵邸ほど頑強に作ってるか、といえばそんなことはないと思う。工法だって違うだろうし、部材だって違うはず。
「あー。ハリケーン来るの、来年だよ。でもこのままテント村で寝ているところにハリケーンが来ちゃったら……」
こわい。怖すぎる。
ハリケーンという恐ろしい災害がくると分かっていたのに、何の役にも立たないままになる可能性が。
通りすがりの侯爵令嬢に、親しげに手を振ってくる領民から笑顔を奪ってしまうかもしれないことが。
情報を活かせず、両親がまたあんな風に金策に走りまわり、笑顔をなくす未来が。
「ハリケーン対策なら、かなり進んでるし大丈夫なんじゃないの?」
突然の声に顔を上げると、そこには彼が立っていた。
「バル」
当たり前のようにヴァロー侯爵邸を出入りするようになった商人見習い。
ん? 見習いなのかしら。平民は働きだすのは早いというし、もしかしたらもう自分のお店を持っていたりするのかしら。
何も知らない、初恋の人(今回)
いくらクレアの紹介で取引を始めたからって、案内すらない状態で侯爵邸を自由に闊歩するのはどうなのかしら。でもまぁ問題が起きたこともないし、いいのかな。
それよりも、今は会話に集中しなくては。
「かなり進んでいるって何のことかしら」
緊張が伝わらないよう、軽い口調で訊ねるつもりだったけど、耳に届いた自分の声は堅くて、緊張しているのが丸わかりだ。
それなのに、バルは軽い口調のまま、核心を突いてきた。
「だってターシャ嬢は、この領地を襲うハリケーンから領地を守りたくて頑張っているのでしょう?」




