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15.ぶっとばすわよ★



 ぶっとばすぞ?


「しかも意味も分かっている」


 オイコラ。初対面だし信用がないのは分かるけど、頭の中身をそのまま口に出すとか、商人としてあるまじき行為だろうが。


 本を売って貰えるまでは耐えなければと、震え出す手を握りしめて隠す。


 いくらクレアが優秀な侍女だとしてもメーダ国の本を取り扱っている商人への伝手など限ら得ているに違いない。なんならこの店だけかもしれない。


 ここで無駄に怒らせるのはまずい。我慢一択だ。


 でも、むーかーつーくー!!!!


「……あなたは、私がこの本の文章の意味が分かってると、分かるのね?」


 意趣返しとばかりに煽ってやる。けれど、散々私を煽ってきたくせに、私の質問には笑顔だけってどういうことなのよ。


 それは娼婦(わたし)がやるべき技でしょう?! むかつくわー。


「あはは。いいよ、その本はあなたに上げる。それと、他の専門分野の本も。見つけたら持ってきてあげるよ。どんな分野に興味があるのか教えて?」


「え、この本、私にくれるの?」


「あぁ。嘘なんかつかないよ」


「ありがとう!」


 とっておきの笑顔でお礼を言ってあげた。

 絶対に吹っ掛けられると思ってたのに。うれしいので大サービスだ。


 先行投資というものだろうか。初回はサービスしてあげるから、次から高い物いっぱい買ってね、という奴。まぁいい。他にメーダ国に関する資料が手に入る伝手がある訳じゃないし。お金だってない訳じゃないんだから。


「でも、次からはちゃんと買いますからね。商売なんだから、ちゃんと儲けてね?」


「……わかった。正規の料金に配達料も入れて請求するよ」

「えー、配達料こそサービスでしょう」


「ふふ。いいな、そのがめつさ嫌いじゃないよ」


 いじわるを言ってるくせに。笑った顔が優しくて、思わずドキッとしてしまった。悔しい。


「私は本の中にある知識をつかって、このヴァロー侯爵領を豊かにするの! お金持ちになってみせるわ」


「へぇ。ヴァロー侯爵家じゃなくて、侯爵領を、か。いいね。協力しよう」


「なんだかさっきから偉そうね」


「協力は要らないということかい」


「……是非お願いしたいわ」


 何も言われていないのに、視線だけで素直になればいいのにと言われている気がする。ほんと、ムカつくんですけどー。


 差し出された手を、握る。強く握り返されて、吃驚して手を引っ込める。あれ、離れないわ?


 手を放すどころか、ぐいっと引き寄せられて、耳元で囁かれる。


「それで? ヴァロー侯爵家の三女さまは、どんな分野の専門書をご所望ですか?」


 深窓のご令嬢だったなら、顔の一つも赤らめて大層可愛らしい反応を見せるのだろうが、私は違うのでぇ!


 逆に、ぐいっとさらに顔を寄せて告げてやる。


「薬学の本と、伝統的な保存食に関する書籍が欲しいの」


 体温を感じるほど近くに、赤く色づく唇があった。ともすれば触れ合ってしまうほど。


 ようやく、目の前にある頬が赤く色づいたことに満足して、自然と唇が弧を描く。彼の視線が唇に釘付けになっていることに笑みを深めた。

 にぃっと笑って離れる。


「あぁ、それと保存食の一例として乾燥パスタの現物も欲しいのよ。デュラム小麦も気になるわ。種もみを手に入れることまでは、……無理かしらね」


 その地の特産品となる作物の種の持ち出しは難しい。不可能ではないかもしれないけれど、まぁ私としても、煽り返すために口にしてみただけだ。


「分かった。次に来る時は、デュラム小麦の種籾を持って来よう」


 なのに。あまりにもあっさりと頷かれてしまって、妙に慌ててしまう。


「あのね、無理はしないでいいのよ。本と乾麺さえあれば十分よ」


 本だけで十分なのに。

 無理難題すぎて、次回が遠のくのは困る。とっても困るのに。


「口に出したからには、約束は守ろう。必ず届けるよ」


 ふわりと掬いとられた手の甲へ、柔らかな感触がかすめていく。


「……」


 もっとすっごいことだって、散々してきた記憶があるのに。

 なんでこんなに、どきどきと胸の鼓動がうるさくなるのだろう。


 ぱたん、という音に気が付いた時には、図書室の扉が閉まって、彼はもういなかった。


 崩れるように椅子に座りこみ、机に突っ伏した。


「なによ。名前、聞きそびれちゃったじゃないの」


 クレアから聞き出せばいいのかもしれないけれど、なんとなくできそうになかった。





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