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10.高台の教会にて



「ありがとうございます。侯爵家のお嬢様にお心を配っていただき感謝いたします」

「突然訪ねてきたのに快く受け入れて下さってありがとうございました」


 ここは領地で一番の高台にある古い教会だ。広い敷地を活かして孤児院も併設されており、裏手では子供たちが畑を耕しているが、なにしろ斜面なので労苦のわりに収穫は少ない。

 広さはあるが古い建物の修繕まで手が回らないのか、全体的にかなりボロい。


 前の時も、死に戻る前にも。何度か侯爵夫人の仕事として母の慰問に一緒に連れられて来たことがある。


 けれど、どの時でも、ターシャは一言も会話に参加することはなかった。

 ただ黙って母親の後ろに立っていただけだ。


 クレアを失った悲しみに浸り、侯爵令嬢としての務めを果たさない陰鬱な娘。

 領地が大変な時ですら、閉じこもって何もしなかった。

 あれらの態度も、前回のターシャが母から諦められた理由であったのだろう。



 死に戻る前のターシャは人見知りを言い訳にして一言たりとも口を開かずに帰っていったのだ。そんな自分が一人で突然やってきて、きっと神父も吃驚しただろうに。何も言わずに受け入れてくれた神父さまに感謝しかない。


 是非とも、死に戻ったお陰で繋がったこの首の皮一枚を、このまま育てて皮だけでなく骨や肉もがっつり繋げなおすきっかけになって欲しいと切に願う。たのむわー。


 今回、ターシャは通りがかった店で買ってきた毛布を差し入れた。

 本当はお金で寄付するのが一番喜ばれるのは知っている。でも、今回はしないんだな。動かせるお金には限りがあるからね。


「いえいえ。いつでもお出でください。お待ちしておりますよ」

「是非。では失礼いたしますわ」


 にこにこと笑顔で挨拶を交わし、席を立つ。


 そうして、応接室の入り口で躓いてみせた。


「痛っ」

「お、おじょうさまっ」


「クレア、ありがとう。まぁ、こんなところに段差があったのね」


 ターシャが指さした床板は、湿気でねじれ段差ができていた。

 他にも其処ここに段差や不格好に穴をふさいだ跡がある。


「申し訳ございません。何分、古い建物で修繕も行き届かず」


 おろおろする神父に、天然を装い問いかけた。


 ──掛かったな。この会話を待っていたのよ。


「あら。ヴァロー侯爵家からの補助金では足りないの?」


「いやその……寄付が、減ってしまっているのです。お恥ずかしいことに、最近めっきり信者が減ってしまいまして。ここは何分高台にありますし、歳を取ると平地にある教会に足が向かうようです」


 残念そうに神父が言うのを聞いて、ターシャは大きく頷いてみせた。


「それは残念なことですね。敬虔なる神の信者の一人として、是非わたくしにもお力にならせて下さいな」


 さりげなく両の手を組み神父を見上げると、その年老いた瞳が驚きに見開かれた。目尻に光るものが滲んでいた。


「あぁ、お嬢様。そこまで私共のことを考えて下さるなんて。どうか侯爵様によろしくお伝えくださいませ。あぁ、神よ。ありがとうございます。お嬢様をこの地へと遣わしてくださったことに感謝します」

「いいのよ。……その言葉を聞きにここまで来たのだもの」


 ターシャの後半の呟きは、自然と(こうべ)を垂れ神へ感謝を捧げている老神父には聞こえなかったようだ。

 熱心に感謝の言葉を神へと捧げ始めている。


 ターシャは満足して屋敷へ戻った。


 よっしゃ。これで計画が進むわ。




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