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第44話 推しヒロインの気持ち





「……よし、これで終わり。かな」


「だね〜」



 放課後、俺とひよりは学級委員長として先生から頼まれていた雑務をこなしていた。


 一通り終わったので帰る準備をするために教室へと戻る。



「なんというか、文くんとの学級委員長も板についてきた気がする」


「……確かに、そんなに経ってない気がするのにね」



 俺の同意にひよりはうんうんと頷く。



「でしょ? 私たちの名コンビさにも磨きがかかってる気がするしっ」



 名コンビって……まぁ、ひよりが風邪で休んでいる間、みんなひよりのことを俺に聞いてきてたからな。


 あ、そういえば。



「ひより、同じクラスの小鳥遊さんいるでしょ? 彼女が」


「なんでここで小鳥遊さんの話が出てくるのかな?」



 ……え。



「文くん……小鳥遊さんと仲良かったっけ? それとも、私が休んでいる間に仲良くなったのかな?」



 驚いてひよりを見ると彼女の視線はじっと俺と見ていた。なんとなく、空気が重くなったように感じる。


 不思議だ。別に声も変わらないし、怒っている様子もなければ不機嫌そうな感じでもない。


 だけど、空気がピリついている。



「あ、いや……この前、小鳥遊さんにひよりと言ったら俺ってくらい俺たちは一緒にいるって言われたから……その……」



 完全に気落とされ、モショモショと喋りになりながらひよりを見る。



「そ、そうなんだ……」



 あ、あれ? ピリついてた空気が一瞬でなくなったぞ。


 困惑しているとなぜか急にご機嫌になったひよりがとたとたと自分の席へと走り出す。


 帰る用意をしているひよりをぼんやりと眺めながら、ふと思い出した。


 夕方の教室。


 傾いた陽の光が窓から差し込み、教室をオレンジ色に染め上げている。


 黄昏に染まるこの空間。


 ……七瀬ひよりはここで天馬に告白して、振られた。



「どうしたの? 文くん」 


「へ?」



 ぼんやりと見つめていたことをひよりに気付かれた。不思議そうに俺の顔を覗き込んでくるひより。



「私の顔じーと見つめて……なにかついてる?」


「あ、いや……なんでもないよ」



 少し、気まずさを感じてしまい、思わず顔を逸らした。



「そういえば、みーちゃんとのなんちゃって恋人はいつまで続けるの?」


「とりあえず、夏休みが終わるまでらしいよ」


「ふぅん……」



 夏休みの終わりか……と、いつもよりほんの少し低い声でボソっと呟くひより。



「……文くんは、気になる人は出来た?」


「え? なに急に?」


「うーん。恋バナかな。それで、好きな人までは言わないけど、気になる人くらい出来たんじゃない?」


「あ、いや……まだそんな……全然だよ」


「みーちゃんは?」


「なんでここで美鈴の名前が?」


「うーん。その言葉が出ると言うことは、問題なさそうだね」



 どこか安心したように微笑むひよりに困惑しつつ、俺は口を開く。



「なんというか基本的に好きな人って無理に作るんじゃなくて、色んなイベントや多くの時間を共有して、好きを育てるというか…………」


「あは、なんかそれわかる」


「……その、ひよりこそ気になる男子とか出来たの?」



 なんとなく話題を振るとひよりはどこか神妙な顔つきで俺を見つめた。



「思い出すよ。ここで天馬に告白して振られたんだよね……不思議。あの日からまだそんなに経ってないのに、すごく昔みたいに感じる」 



 じっと黒板の方を見つめるひより。そして、教壇に向かってゆっくりと歩き出し、教卓にこしかけた。



「ひより……?」


「………………」



 ひよりは祈るようなまなざしで、何かを決心したように俺を見つめた。


 …………まるで天馬に告白した時のように。






「好きだよ」



 …………


 ………………


 ……………………え?



「だから、好きって言ったの」



 完全に混乱している俺に対して、ひよりはもう一度言った。


 完全に頭が真っ白だ。


 好き? ひよりが? 俺のことを?


 …………………………なんで?



「お、俺は……」


「……って、天馬に告白したんだよね」



 え、あ、うん?



「それで、見事玉砕して……思わずここから逃げ出しちゃった」



 そう、困ったような、悲しいような……力の抜けた笑みを浮かべる。


 あ、あー!! なるほど、天馬の告白シーンの再現ね!!


 あ、危なかった……!! あと少しで変なことを口走りそうになるところだった……!!



「振られた瞬間はすごく辛かったけど、文くんのおかげで立ち直れて」


「え、俺?」



 思いかけず出てきた名前に思わず聞き返す。



「あの時、天馬に告白しても振られることが分かってて、それでも踏み込めて良かったよ。そのおかげで、文くんとの繋がりができたんだから」


 ひよりは白い歯をのぞかせながらニコリと笑った。



「……ねぇ、文くん。夏祭り、みんなで回ろうよ」


「え? ああ……うん。いいね」


「文化祭は二人で回って、修学旅行も二人で行きたいところに行こう。あ、ハロウィンパーティもしたい!」


「お、おう……」


「あと……クリスマス……も。予約っ」



 頬を赤くしながら小指を差し出す。



「別に予約なんて必要ないと思うけど……」



 我ながら悲しいことを言っているなと思いつつ小指を差し出し、指切りをする。


「だって、みんなとパーティするかもしれないしっ」


「……あっ、二人きりで!?」


「そう!! 私以外と会わないでってこと!」



 お、おお……マジか。


 父さん、母さん、ポチ。


 俺、初めて女の子(美少女)とクリスマスの約束をしたよ。


 ……半年くらい先だけど。



「……意味、わかる?」



 目を潤ませながら聞いてくるひより。



「え? クリスマス一緒に遊ぼうってことでしょ? それ以外になんの意味が?」



 そう言うと、ひよりはがくりと肩を落とした。



「……まぁ、文くんだからね」



 なんだろう、褒められてはいない気がする。



「……あれ? 年末年始は?」


「……年末年始はいいの」


「なんで?」



 首を傾げて聞いてきた俺に、ひよりは優しい笑顔を向けてきた。





「予約なんてしなくたって一緒に過ごせるようにするから」




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