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第21話 推しヒロインのズル





「えーと、突然ですが……今からこのクラス学級長を決めたいと思います」



 授業を全て終えた後のHR、先生が突然、そんなことを言い出した。


 え〜、という声がクラス中に起こる。



「いやー先生としたことがうっかり忘れてて……ということで男女一名ずつなんだけど、我こそはって人〜」



 先生の呼びかけに誰一人手を上げる人は居なかった。


 まぁ、学級長と聞こえはいいが、実際のところ雑用係のようなものだ。体育祭や文化祭といったイベントごとの進行役、授業の準備や後片付けなど面倒事のオンパレード。



「……ちなみに学級長が決まるまで今日は帰らせませんよー」

 


 それでも、誰一人手を上げる生徒は一人もいない。



「……はい。そんな反応をすることは先生予想済みです。ので! くじ引きを用意しました! 男子は白の箱、女子は赤の箱からくじを引いて『あたり』を引いたらめでたく学級長ということで!」



 また、え〜言う声が聞こえるが、クラスの空気的にはまぁしょうがないかといった感じだ。


 このまま決まらず時間がただ過ぎるのよりかはマシだからだろう。


 まぁ、クラスの男子人数を考えると『あたり』を引いてしまう確率は低い。


 端っこの生徒からくじを引き始める。クラスの表情がいつにもなく真剣だ。


 みんな、ハズレを引いた瞬間、ほっとしたような顔をする。


 まぁ、部活とかしている人とかは余計に忙しくなる上に部活の時間が減ることになるから当然だろう。


 たった一人。クラスの犠牲者になる男子は一体誰か……





『あたり』




 俺だった。



「お、その反応。入江くん『あたり』だね?」


「いえ、あたりじゃありません」


「無駄な抵抗はやめな?」



 『あたり』くじを没収され、黒板の文字に『入江文学』と書かれた。



「へー文くん。『あたり』引いちゃったんだー」



 絶望を抱きながら黒板を見ているとぬっと七瀬たちがやってきた。



「……運がないやつ」



 無事、はずれくじを引き終わった月見さんが気の毒そうな顔をしてこちらを見る。



「………………」



 なぜか黒板に書かれた俺の名前をじっと見つめる芹澤さん。その表情は真剣なものだった。 



「わたし、本気出す……絶対『当たり』を引く」


「え? ま、まぁ、芹澤さんが一緒にしてくれるのなら心強いけど」


「任せて」



 彼女はふっと右手でサイムズアップしながらくじを引きに行った。

 こんなやる気に満ち溢れている芹澤さん、今まで見たことがない。



「お、芹澤はハズレだな」


「……先生。もう一回」


「いや、くじは人数分しかないから」


「そこをなんとか」


「ダメです」



 芹澤さんが肩をがくりと落としながらこちらに帰ってくきた。



「……くっ、こうなったら『当たり』のくじを譲って貰うしかっ」



 そこまでの価値はないと思うけど……



「あ、先生。『あたり』引きました〜!」



 七瀬が手を上げながら先生に当たりくじを見せる。その瞬間、男子がざわめき始めた。


 どうやら七瀬が『あたり』を引いたらしい。



「あれ? この丸……」


「先生。これ、当たりでいいですよね?」


「え? あ、ああ。うん。そうですね」



 なぜか敬語の先生と満足そうに頷く七瀬。


 俺の名前の隣に『七瀬ひより』と書き足される。



「ということで〜よろしく文くんっ」



 どこか嬉しそうに肩をぶつけてくる七瀬。そんなやりとりを羨ましげな目で見つめる男子たち。


 まぁ、男子にとってこの結果はまさに『あたり』だろう。



「なぁ、入江。お前、学級長とかやりたくないだろ? 俺が変わろうか?」



 ハズレくじを引いて一番喜んでいた鈴木くんが俺の元へと駆け寄って来た。



「……え? ああ、えっとー」


「はいはい鈴木くん。わたしのパートナに変なこと言うのはやめてよねー」



 俺が答える前に割り込んできた七瀬が笑顔で言った。



「くじ引きの結果は絶対だから、文くんのパートナーは私だし、私のパートナーは文くんなの。ね? 文くん」


「え? あ、はい。そうですね」

 


 七瀬の放つ圧に俺と鈴木くんはだじろいだ。その様子を見てか、男子たちはどこか諦めムードになる。



「……絶対に、渡さないから」

 

「七瀬さん? ごめん。声が小さくてよく聞こえなかった」


「……なんでもないよっ」



「学級長、早速だけど仕事だー」



 仕事という名の書類運びを依頼され、俺たちは職員室へと向かう。書類の束を持ちながら教室を出ようとした瞬間、先生に呼び止められた。



「おい、入江」


「はい?」


「お前と七瀬って付き合ってるのか?」


「……はい? なんですかいきなり」


「いや、だって……これ」



 先生が俺に見せたのは丸が書いている3枚の『あたり』くじだった。



「え、なんで3枚もあるんですか……? あれ? このあたり……」



 よくみると1枚だけ、ボールペンで書かれてる『あたり』がある。残り2枚はマジックで書かれた丸なのに。



「実はこのボールペンの『あたり』くじ、七瀬から渡されたー」


「文くーん? 早く行こーよ!」


「あ、ごめん。今いく」


 

 今度は七瀬に呼ばれ、急いで彼女の元へ向かう。

 


「文くん? どうしたの?」


「……いいや。なんでもない」

 


 まさか……な。





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