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第14話 推しヒロインの居場所





「な、七瀬さん? 大丈夫……?」



 うずくまっている七瀬に対して声をかける。


 彼女は体育座りするように膝を抱えながら小刻みに震えていた。


 そもそもどうしてこんなところに……?


 ちらりと教室の様子を確認する。


 どうやら天馬と一花は気づいていないらしく、笑顔で俺に手を振ってきた。



 こちらもぎこちなく振り返し七瀬のそばに腰を下ろす。



「……もしかしなくても、さっきの話、聞いてた?」



 恐る恐る問いかけると七瀬はこくりと頭を動かした。



「……とりあえず、ここから離れよう。立てる?」



 そう聞くと再び頷いたので、俺は出来るだけ七瀬の顔を見ないようにして彼女の手を掴んでこの場を去った。



 当てもなく行き着いたのは体育館裏。


 この時間になるとここを使う部活動はない為、基本的に人は居ない。



「……隣、いい?」


「……うん」



 七瀬がぐすっと鼻をすすりながら承諾してくれたので、ひとまず隣に座った。


 ……泣いてる理由、聞いてもいいのかな? いやむしろ聞いた方がいいのか?



「ありがとね……私の味方になってくれて」


「……え?」


「……自分でも分かってる。きっと一番なのは私が頑張って2人と前みたいな関係に戻ることだって……でも、それでも文くんは私のことを一番に考えてくれてる……それが、すごく嬉しくてなんか涙が出てきちゃった」



 七瀬は困ったように笑った。


 それが、彼女の泣いていた理由。



「……七瀬はどうしたい?」


「私は……」

 


 まだ迷ってるのだろう。七瀬は俯いたまま何も言わない。



 改めて問われる選択。



 一花が自分のことを本当に大切に思ってくれていることは痛いほど分かっているはずだ。


 七瀬にとっても一花は親友であり、大切な存在。


 しかし、それと同時に今後は配慮しないといけない存在。

 


「二人のことはちゃんと祝福したいし、天馬と花ちゃんともう関わらなくなるのは寂しいと思う……でも、怖いよ」



 この先、付き合い始めた二人の状況は変わっていく。男女のABCとか……色々なことが。


 もし、このまま以前の様な関係を望むのなら……それら全部を受け入れなきゃいけない。


 それは誰だって相当キツいことだ。俺も同じようなことがあったから分かる。


 好きだった女の子が友達と付き合い始めて、エッチしたことを知った時は脳が破壊されてマジで寝込んだ。



「……私が、二人と友達に戻りたいって言ったら……支えてくれるんだよね?」


「ああ、支える。これまで以上に」


「そ、そっか……」



 俺がそう断言すると、七瀬は頬を赤くさせて目を逸らす。そして、しおれた花のように俯いた。



「そう言ってくれるのは本当に嬉しいよ? でもね……頑張れるって、自信がない。正直、自分でも無理かもって思う。それなのに私を支えてなんて、そんなワガママ。言えないよ……」



 きっと、七瀬は俺のことを気にしてくれている。

 頑張ったその先、もし上手くいかなかったら……そんな『もしも』のことを考えてしまっている。



「いいよ」


「……え?」



 七瀬は俺の言葉に驚いて顔を上げた。



「俺にはワガママになっていいよ」



 俺は七瀬に微笑みかける。



「もし、七瀬が頑張って、やっぱりダメだった時は……カフェでも、通話でも、映画でもいくらでも付き合うし」


「……っ」



 七瀬は今にも泣きそうな顔をして、俺を見つめる。



「それに七瀬の味方は俺だけじゃない、月見さんと芹澤さんも居る……大丈夫。七瀬がどちら選ぼうと、どんな結果になろうと……俺たちが絶対に後悔させないから」


 

 俺一人で七瀬のことを支えられるなんて思ってはいない。七瀬が居て、芹澤さんが居て、月見さんが居て……ちょっと離れたところに俺が居る。



 それが今の七瀬の居場所なんだ。



「そういうこと」



 っ!?


 慌てて声がした方向へ振り返る。


 すると、そこには月見さんと芹澤さんが居た。



「正直、私はあの二人とはもう関わらない方がいいんじゃないかって思ってる。だけど、それを決めるのはひよりだから。どっちを選んでも、何があっても支える……私たちはひよりの味方だから」


「二人と同意見……なんたって私たちはひよりの味方だから、ぶい」


「……ほしのん、みーちゃん」



 腕を組む月見さんとピースする芹澤さん。そして、ちらりと見て面白がるような表情でこちらを見てきた。


 ……あの、これ以上俺のセリフをイジるのやめてもらっていいですか。死ぬほど恥ずかしくなるので。



「ひより、とりあえず当たって砕けよう。チリも残らないくらい粉砕しよう」


「え、う、うん」 


「それで、ちゃんと二人と向き合おう。ひよりの誕生日パーティまでには仲直りできたらいいね」


「……うん」


「仲直り出来たら……誕生日パーティ神藤と綾部さんも誘ってみる?」


「うんっ……」



 なんか最終的にいい感じになった七瀬と芹澤さんの会話を眺めながら、俺はススっと月見さんの隣に忍び寄り



「えと、どうして二人がここに?」



 さにげなく、耳元で呟きながら聞いてみる。



「ひよりから先に帰ってくれていいってメッセージが来て気になって教室に戻ろうとしたら、移動中の二人を見つけて、後をつけたの。あんたが泣いてるひよりを連れ回してたし」



 月見が俺にジト目を向けてくる。

 いけない、この目は大切な友達を傷つけられた人の目だ。



「いや、ちょっと待ってほしい。月見さんは誤解してる。確かに連れ回していたのは事実だけど七瀬さんを泣かしたのは俺……」



 だったわ。うん。俺が泣かせたんだった。


 俺は月見さんの視線から逃れるようにそっぽを向く。


 あ、ちょっとやめて、ネクタイを掴まないで、ひっぱらないで。



「……そこの二人、いちゃついてないで行くよ」


「「いちゃついてないから!!」」 



 芹澤さんの言葉に思わずハモってしまった。

 何で月見さんとはいつも言葉がハモってしまうんだろう。


 そんな俺と月見さんに芹澤さんがクイっと眉を上げる。


 あ、多分今ちょっと不機嫌になってる。


 どうしようかと考えていたら、七瀬がおずおずと俺たちに話しかけて来た。



「あ、あのさ……よかったら、これからなんだけど……みんなでどこか行かない? 今後のことで相談乗ってほしいし」


「あ、なら……フルーツタルト食べに行きたい。気になってた店がある」



 芹澤さんがスマホを弄りながら手を上げる。



「ふーん……ま、いいんじゃない?」


「じゃあ、そこにしよう。文くんもそれでいい?」


「……え、俺も?」


「いや、あんたが一番いなくちゃいけないでしょ」



 ジト目の月見さんに突っ込むように横から小突かれる。



 え、あ、そ、そっか……そうだよな。うん。


 ……女の子達(美少女)と一緒にフルーツタルトか。


 かなり場違いな気がするがそうも言ってられない。



「……文くん?」


「あ、ごめん。今行くから」



 俺は覚悟を決めて、3人娘の後を追った。



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