第7話 mysterious revelation
『knight』なら会える……か。
ラド……お前ならきっと……。
「……そうだな」
彼女言葉に僕は、自分に納得させるように頷く。
ラドが今、どうしているのか、心配は消えはしないが必ず会えると信じている。
その場所が何処であったとしても……。
「ふふ……レミュはあなたに懐いたようね」
「レミュ? ああ、懐いたって、ケット・シーの事か?」
「ええ。可愛いでしょう? あの子。ふふ……ケット・シーなんて、ね。猫の妖精はみんなそう呼ぶわ。あの子にもちゃんと名があるのよ」
そうか……そうだよな。
「じゃあ、僕もレミュと呼ぶ事にするよ」
『ケット・シーと呼んでくださって構いません』
名前があるのにそれを僕に告げなかったのは、彼女が名付けたからなのだろう。
彼女に会いたいのに会えない……レミュの彼女に対して申し訳ないと思う後悔が、名を告げる事を自分で許さなかったんだな……。
これを聞いたら、喜ぶだろうな。レミュ。
「ありがとう」
彼女の顔に穏やかな優しい笑みが浮かんだ。
……こんな表情も出来るんだな。
気の強い態度と口調、妖艶な美しさ。
まあ……それが却って僕は怪しむ事にはなったのだが。
『knight』の条件が揃っていても彼女の美しさに惑わされば、彼女の意に沿う者ではない……条件は満たされないと見做すのだろう。
強気な態度でいるのも、それは彼女の夫である『knight』への思いの深さにあるんだと感じた。
確かに、気を強く持たなければこんな現状を受け止められはしない。
彼女が希望、か。
レミュの言った通り、彼女のこの存在がなければ、僕がここに来る事もなかっただろう。
それに、なんの手立ても浮かばなかった。
会話を続ける中、打ち解けられていく事で彼女に対しての疑念は消えていく。
「レミュに会いたくはないのか? 連れて来るつもりだったんだけど……な……」
レミュの思いは分かっているが、それを彼女に伝えるのはなんだか余計な気遣いになるようで、僕は言葉を濁した。
だが、彼女には分かっているのだろう。それは彼女の表情でも分かる。
「あの子にはあの子なりに抱えたものがあるのよ。その思いは認めてあげないとね……離れていても通じ合えるなら、心配はないわ」
「通じ合えるって……それであの量の招待状かよ……」
「あら。ちゃんと分別出来ていたでしょう?」
「はは。そのようだな。他にも招待状が来ていたって、突き返していたよ」
「当然よ」
彼女の表情が険しくなった事に、僕は眉を顰める。
やはり……いるのか。
『サーのお力を利用しようとするだけの悪意をもった招待状は、お返しさせて頂きました』
過去を思い出しているのだろう、その思いを重ねるように彼女は言った。
「それを見誤ったら……ただの強者というだけの者の命令で人が死ぬのよ」
ただの強者の命令で人が死ぬ……か。
納得のいく言葉だ。
それは物理的な力でもあるが、権力でもあるだろう。権力が物理的な力を大きく、強くする。
傲慢である事は確かだ。
権力は正しさに比例するとは限らない。
ただ、その強さに屈服しているだけだ。
席を立ち、歩を進める彼女。何も告げずに僕の脇を過ぎて行くが、僕は彼女の意を察し、ついて行った。
向かったところは、僕の肉体が置かれている柩の部屋だ。扉のイニシャルは、はっきりと浮き彫りになっている。
『K』
扉を開け、彼女と共に中に入った。
自分の肉体をこんな形で見るのは、やはり微妙な思いだが、二度目ともなれば受け止め方も変わってくる。
まあ……慣れはしないが。
だが……。
これは……。
明らかな変化だ。
僕は小さくも息を飲む。
胸の辺りで両手を組むその手には、抱えるようにも剣があった。
僕の……剣だ。
「カイ・ウィットフォード」
僕の名を呼ぶ彼女に目線を移す。
彼女は真剣な目を向け、僕に訊いた。
「あなたは今、この剣を手にしたいと思う?」
僕は彼女の目線を無表情で受け止めたまま、少し言葉の間を置いてこう答えた。
「僕の剣であっても、今の僕には剣を振るう理由がない」
僕の言葉に彼女は表情を変えずに、再び問う。
「このまま眠らせていても構わないって事かしら?」
「眠らせていいかどうかは、あんた次第じゃないのか」
「ふふ……私に選択を委ねると言うの? それはあなたの意思になるのかしら?」
僕の真意を探るような目線に、僕は少し呆れた顔を見せる。
「今更何を言っている。その為に僕をここに呼んだんだろう?」
「断る事も出来たでしょう? 来たのはあなたの意思よ」
意思、ねえ……随分と強調するが。
望んではいるが、強制はしないといったところか。
従わせるといった態度はとりたくないのだろう。
まあ……それも正しい選択だな。
信頼関係が築けなければ、目的を果たすにも確実さに欠ける。
僕の意思を尊重するのもあるのだろう。
そして、その目的は互いに共感を持って挑まなければ、果たす事は出来ない事だ。
僕の目を真っ直ぐに見る彼女は、僕がどう答えるのかを待っている。
「だったらそうだな……」
溜息混じりにそう呟きながら、自分の体へと近づき、ベッドに腰掛けた。
僕のその動作に、彼女の表情が暗くも落ちる。
「カイ……やっぱりあなた……」
ベッドに腰掛けた僕だが、自分の体には背を向けて座っている。
きっと彼女には、僕が自分の体に背を向けて剣にも触れなかった事に、この状況を受け入れられていないと思っただろう。
「何か思い違いをしていないか?」
ふっと笑みを見せて言う僕の言葉に、彼女の沈んだ表情が変化する。
「カイ……あなた……」
どうやら僕の意図を察したようだ。
真っ直ぐに互いを見つめるその目には、互いの信念が浮かび上がっている事だろう。
会いたいと願う者がいる。
その思いは僕も同じだ。
僕も彼女もこうして残存しているのは、理不尽な死であるに違いない。
戦う理由はそれで十分だ。
僕は、自分を振り向き、剣にそっと触れた。
柄頭……ポンメルの装飾を見れば、この剣の由来が分かる。
ただ力を誇示する為に、この剣を振るっていた訳じゃないという事が。
グリップに手を掛ければ、手に馴染むこの感触に思いが募る。
「『k』を無くした『night』……確かに今の僕はそうだろう」
グッとグリップを強く握り、剣を手にした僕は彼女の前に跪いた。
ふわりと身に纏うような感覚に包まれる事に、なんだか自分を取り戻したような気がした。
「カイ……」
彼女は、僕の行動に驚いたようだ。
僕は顔を上げると、はっきりとした口調で答える。
「必ず探し出してみせる、あなたの『knight』を僕自身と共に。まだここに来ていない、あなたが望む残り六人の『knight』も僕が見つけ出す」
「……カイ……」
僅かにも涙で震える彼女の声。僕は安心させるように穏やかに答えた。
「無くしたものを取り戻す事をここに誓う。それが僕がこの剣を振るう理由だ。それは僕の使命、だろ? なあ……」
そして僕はふっと笑みを見せると、素直に彼女をこう呼んだ。
「『レディ』」




