第7話 Mysterious Revelation
『knight』なら会える……か。
ラド……お前ならきっと……。
「……そうだな」
彼女言葉に僕は、自分に納得させるように頷く。
「ふふ……レミュはあなたに懐いたようね」
「レミュ? ああ、懐いたって、ケット・シーの事か?」
「ええ。可愛いでしょう? あの子。ふふ……ケット・シーなんて、ね。猫の妖精はみんなそう呼ぶわ。あの子にもちゃんと名があるのよ」
「じゃあ、僕もレミュと呼ぶ事にするよ」
「ありがとう」
彼女の顔に穏やかな優しい笑みが浮かんだ。
……こんな表情も出来るんだな。
気の強い態度と口調、妖艶な美しさ。
まあ……それが却って僕は怪しむ事にはなったのだが。
『knight』の条件が揃っていても彼女の美しさに惑わされば、彼女の意に沿う者ではない……条件は満たされないと見做すのだろう。
強気な態度でいるのも、それは彼女の夫である『knight』への思いの深さにあるんだと感じた。
彼女が希望、か。
レミュの言った通り、彼女のこの存在がなければ、僕がここに来る事もなかっただろう。
「レミュに会いたくはないのか? 連れて来るつもりだったんだけどな……」
レミュの思いは分かっているが、それを彼女に伝えるのはなんだか余計に距離を作ってしまいそうで、僕は言葉を濁した。
だが、彼女には分かっているのだろう。それは彼女の表情でも分かる。
「あの子にはあの子なりに抱えたものがあるのよ。その思いは認めてあげないとね……離れていても通じ合えるなら、心配はないわ」
「通じ合えるって……それであの量の招待状かよ……」
「あら。ちゃんと分別出来ていたでしょう?」
「はは。そのようだな。他にも招待状が来ていたって、突き返していたよ」
「当然よ」
彼女の表情が険しくなった事に、僕は眉を顰める。
やはり……。
『サーのお力を利用しようとするだけの悪意をもった招待状は、お返しさせて頂きました』
「それを見誤ったら……ただの強者というだけの者の命令で人が死ぬのよ」
ただの強者の命令で人が死ぬ……か。
納得のいく言葉だ。
それが物理的な力であるか、権力か。
どっちにしろ、掲げるものが意味を深めるが、傲慢である事は確かだろう。
席を立ち、歩を進める彼女。何も告げずに僕の脇を過ぎて行くが、僕は彼女の意を察し、ついて行った。
向かったところは柩の部屋だ。扉のイニシャルは、はっきりと浮き彫りになっている。
『K』
扉を開け、彼女と共に中に入る。
自分の肉体をこんな形で見るのは、やはり微妙な思いだが、二度目ともなれば受け止め方も変わってくる。
だが……。
これは……。
明らかな変化だ。
僕は小さくも息を飲む。
胸の辺りで両手を組むその手には、抱えるようにも剣があった。
僕の……剣だ。
「カイ・ウィットフォード」
僕の名を呼ぶ彼女に目線を移す。
彼女は真剣な目を向け、僕に訊く。
「あなたは今、この剣を手にしたいと思う?」
僕は彼女の目線を無表情で受け止めたまま、少し言葉の間を置いてこう答えた。
「僕の剣であっても、今の僕には剣を振るう理由がない」
僕の言葉に彼女は表情を変えずに、再び問う。
「このまま眠らせていても構わないって事かしら?」
「眠らせていいかどうかは、あんた次第じゃないのか」
「ふふ……私に選択を委ねると言うの? それはあなたの意思になるのかしら?」
僕の真意を探るような目線に、僕は少し呆れた顔を見せる。
「今更何を言っている。その為に僕をここに呼んだんだろう?」
「断る事も出来たでしょう? 来たのはあなたの意思よ」
意思、ねえ……随分と強調するが。
望んではいるが、強制はしないといったところか。
まあ……それも正しい選択だな。
「だったらそうだな……」
溜息混じりにそう呟きながら、僕は自分の体へと近づき、ベッドに腰掛けた。
僕のその動作に、彼女の表情が暗くも落ちる。
「カイ……やっぱりあなた……」
ベッドに腰掛けた僕だが、自分の体には背を向けて座っている。
きっと彼女には、僕が自分の体に背を向けた事に、この状況を受け入れられていないと思っただろう。
「何か思い違いをしていないか?」
ふっと笑みを見せて言う僕の言葉に、彼女の沈んだ表情が変化する。
どうやら僕の意図を察したようだ。
真っ直ぐに互いを見つめるその目には、互いの信念が浮かび上がっている事だろう。
会いたいと願う者がいる。
その思いは僕も同じだ。
僕も彼女もこうして残存しているのは、理不尽な死であるに違いない。
戦う理由はそれで十分だ。
僕は、自分を振り向き、剣にそっと触れた。
柄頭……ポンメルの装飾を見れば、この剣の由来が分かる。
ただ力を誇示する為に、この剣を振るっていた訳じゃないという事が。
グリップに手を掛ければ、手に馴染むこの感触に思いが募る。
「『k』を無くした『night』……確かに今の僕はそうだろう」
剣を手にした僕は、彼女の前に跪く。
ふわりと身に纏うような感覚に包まれる事に、なんだか懐かしさを感じた。
「カイ……」
彼女は、僕の行動に驚いたようだ。
僕は顔を上げ、彼女に答える。
「必ず探し出してみせる、あなたの『knight』を僕自身と共に。まだここに来ていない、あなたが望む残り六人の『knight』も僕が見つけ出す」
「……カイ……」
僅かにも涙で震える彼女の声。僕は安心させるように穏やかに答えた。
「無くしたものを取り戻す事をここに誓う。それが僕がこの剣を振るう理由だ。それは僕の使命、だろ? なあ……」
そして僕はふっと笑みを見せると、素直に彼女をこう呼んだ。
「『レディ』」




