第17話 Choosers of the Slain
「あなたたちには分かるでしょ……敵味方問わず最期を迎えさせるのが、この手である事を」
……『僕たちには分かる』
そういう事か……だから、なのか。
彼女の言葉に、彼女の存在が何であるかに気づき始める。
戦闘で深傷を負っても死に至らず、苦しむ者を楽にする為に一撃で殺す……慈悲の一撃……『ミゼリコルド』
この死者の世界『アンダーワールド』でそれを使うとは……。
死者の世界での死。オーバーワールドには戻れない事を決定付けているようなものだ。
肩に乗るレミュが、小さく猫の鳴き声をあげた。僕に何か伝えているようだ。
その声にレミュとの会話が頭に浮かんだ。
『死者の世界での生死ってあるのか?』
『生死というよりも、存在か消滅かと言った方がいいかもしれません』
『今の僕のような状態が存在って訳か。はは。それなら存在というより、残存って方が合ってるな』
この女……まさか……。
彼女が何者であるかにはっきりと気づく僕は、小さくも息を飲んだ。
間違いない。
彼女にリディアが重なって見えたのは、リディアが言っていた『条件』に関わりがあると感じたからだ。
やはり僕たちは、彼女の気配を全く感じ取れなかったんだ。
それもそうだろう。
彼女は敵味方問わず、戦場で生きる者と死ぬ者を選ぶ女。死の精霊と言われている……。
『Valkyrie』だ。
僕とレイフがこうして肉体から離れながらも姿を現せているのも、リディアの邸宅に僕たちの肉体があるのも彼女が関わっているからだろう。
柩の部屋の扉は、その者が来るまで開く事は出来ないと、リディアが言っていたのが頷ける話になった。
Valkyrieは戦場で死んだ者の半分を死者の館に連れて行くという。
リディアの邸宅は死者の館、まさにそれだ。
僕たちの肉体……それが半分なのだろう。
そして……。
僕たちは既に、リディアの邸宅で彼女に会っている。
……ワイン。
姿がないのにグラスに注がれた。
ワインを注いでいたのは彼女だ。
レイフも気づいている。
僕とレイフは彼女に目線を向けてはいたが、言葉を返さなかった。返せなかった。
それが却って彼女に言葉を伝えたのだろう。
彼女が何者であるかを察した僕たちを、その表情で読み取っている事は彼女が見せる笑みで分かる。
ここはアンダーワールドだ。何が現れても不思議はないんだ。
レミュにしても、今の僕たちにしたってそうなのだから今更、驚く事などない。
だが……何故、今、姿を見せたのだろう。
倒れたmilitia たちが靄のように白く浮き上がったが、スウッと消えていく。
立ち昇りながら消えていく靄を背後に彼女は、静かに笑みを見せるとミゼリコルドを仕舞った。
二度目の死……生き返る事などないと思わせるようだ。これが消滅とも言えるのだろう。
彼女が僕たちの方へと歩を進め始め、間を抜けたところで立ち止まる。
肩越しに互いを振り向くと、彼女は言葉を置いていく。
「早く見つけてね。残りの『knight』これから始まる戦いの為に」
「待ってくれ」
過ぎ去って行こうとする彼女を僕は呼び止め、彼女と向かい合う。
彼女は、興味深そうな表情で小首を傾げ、僕の言葉を待った。
「探しているのは……あんたの方じゃないのか」
「それは私が『Valkyrie』だからそう言っているの?」
やはり……僕が察した事を分かっている。
どのみち彼女に隠し事は無駄だろう。
「ああ。僕を見つけたのは……あんたなんだろ」
「そうね……カイ・ウィットフォード。私があなたを見つけたのよ。リディアが望んでいる事でもあったしね。あなたはあの邸宅に迷い込んだと思っていたようだけれど、そこに辿り着く事は決まっていたのよ。だって、あなたの『半分』はリディアの邸宅にあったんだから。あなたは無意識にも自分の半分を追い求めて辿り着いたって訳。リディアにも言われたでしょう? 本当は気づいているんじゃないかって」
「ああ、そうだな。だが……」
「それは勘違いしているわよ」
彼女は僕の思考の先を読む。他のknightも、と言おうとした僕の言葉を遮って彼女は、はっきりとした口調で言った。
「私が見つけたのはあなただけ。あなたが見つけた『knight』の『半分』を私が見つけたのよ」
彼女の目がレイフへと動いた。
「カイ……あなたが『knight』に相応しいと選んだ『knight』だから私は探してリディアの邸宅に連れて行ったのよ」
……僕が選んだ……『knight』だから。
その言葉は、彼女が見つけ出しているなら他のknightを僕が探す必要も、意味もないんじゃないかと思い始めた心を消した。
「リディアの邸宅に足を踏み入れる事が出来るのは『knightの部屋』にその半分……その者の肉体がある事よ。カイ……あなたがknightを選んだ時点で私はその『半分』を見つけ出して邸宅に連れて行くわ。例え……その判断が間違っていたとしてもね」
「例え判断を間違っても? リディアがそれを許すとは思えないな。それはあんたも同じじゃないのか? だから『条件』があるんだろ」
「ふふ。それだけの『使命』があるという事よ、カイ」
彼女はそう言うと、闇の中に溶け込むように消えていく。
そして僕たちに、こう言葉を残していった。
「もう……同じ事を繰り返したくないのなら……間違えないで。あなたもよ……レイフ・リッジウェイ」
……同じ事……間違いって……僕たちが殺された理由を言っているのか。
「……間違えるはずがないだろ。そもそも僕たちは間違ってなどいない。死んだ人間が生き返る事は」
彼女の姿はもう見えなかったが、リディアの言葉を口にした僕の声を、きっと聞いている事だろう。
「奇跡なんかじゃないんだろ」
『死んだ人間が生き返る事を奇跡と呼ばないで。私からしてみれば当然の事よ』




