第16話 coup de grace
「はは。カイ……まさか|man at arms《マン アット アームズ》にって訳じゃあないだろう?」
「まさか。例えknightになろうとも、主に忠誠を尽くせない者と組む気はない。表向きに忠誠を誓ったとしてもそれは封建に狙いを定めての事だ。領地を与えられれば、欲が芽生え、それが反乱の元ともなるだろ。そこから侵略が始まる。確か……訊くまでもなく、答えは同じだったはずだが……? レイフ? まさか一致していない、なんて今更言うなよ?」
ちらりと横目にレイフを流し見し、ニヤリと口元を歪ませ、笑みを漏らす。
僕のその仕草を感じ取るレイフは、ははっと笑うと答えた。
「ああ、勿論、一致しているし信じてるよ、カイ」
「 ほら、見てみろよ。向こうも答えが出たようだ。ふん……双方に利点がなければ交渉など成立しない。そもそも、選択肢を持って交渉しに来るなど、脅しに来たも同然だろ。信じろというのは無理がある」
「それは尤もだな」
レイフの笑みの含んだその声に、同時に足を踏み込む。
それは向こうも同じだった。
mercenaryが一斉に僕たちに武器を向ける。
多勢に無勢といったところではあるが……。
周囲にも警戒していたが、どうやら潜んではいないようだ。
長柄の武器が多いな……。
ロングソードやハーフソードを持つ者もいるが、斧と槍、鉤を組み合わせた形状のハルバードを持つ者、柄の先に鎌のような刃、そこからフックが伸びているウェルシュフック……か。
そして、持つ盾はストラップ式で腕に固定されているだけあって、両手が使える状態だ。
完全防備の上に打撃、斬撃にも向くハルバード。下手すれば剣を折られる。ウェルシュフックにしても、あのフックに引っ掛けられれば動きを乱される。
相手の数から考えれば、こっちは確かに劣勢だ。
向こうにしても数を考えての事だろう。
knightが揃う前に抑える気でもあったか……。
やはり僕たちの事を知っての事、か。
「カイ」
「ああ」
声掛けを合図に僕とレイフは突撃する。それは向こうも同じだ。
数に飲まれてしまいそうだが……ここは。
剣を握る僕に向かって来るのは剣を握るmercenaryだ。
どうにも短絡的だな……。
走る僕の肩にしがみついていたレミュが柔らかにも光を放ち、肩や胸などを防御するハーフプレートアーマーに変わった。
……レミュ。
『大丈夫です。今度はわたしがあなたの鎧となります。サーに傷を負わせたりはしません』
思わず、ふっと笑みが漏れたが。
目前に迫ったmercenaryが剣を振り翳そうとする瞬間、僕はmercenaryの間を擦り抜け、長柄武器を持つmercenaryに向かう。
不意を突かれた剣のmercenaryの一瞬の隙を狙って、レイフが剣を叩き落としていく。その音を耳にしながら僕は下方に剣を構え、長柄武器を僕に向けるmercenaryの柄を次々と斬り落とした。
武器を失ったmercenaryは攻撃手段を体術へと切り替えてくるだろう。直様に僕は、剣が生かせる距離を取ってプレートアーマーの首と胴の隙間を狙い、レイフはポールアックスを振って薙ぎ倒し、mercenary全てを倒した。
僕とレイフは倒れたmercenaryをじっと見つめていた。
(サー、レイフ様)
レミュは猫の姿に戻り、僕の肩に乗る。
「レミュ、ありがとう」
そっとレミュを撫でながらも、mercenaryに目線を向けていた。
疑問があった。
それはレイフも感じた事だろう、レイフから漏れる呟きに僕は頷いた。
「……弱いな。本当にmercenaryか……?」
「……ああ、そうだな。militia ……民兵と見た方がよさそうだ」
「切羽詰まってんなあ……一体、何処から集められたんだ……?」
「集められたんじゃなくて、集まったのよ」
……誰だ?
間を割って流れた声にレイフと共に振り向く。
いや……それよりも。
気配もなく、僕たちの背後を取った。
だが、僕もレイフも全く気づかないなど……。
それとも……声と共に今、現れたばかりか……。
一つに束ねられた長い髪……その黒髪と気の強そうな雰囲気がリディアを思わせるが、彼女は身体的にも強さが備わっていると感じた。
ハーフプレートアーマーに身を包んだ彼女は、|female knightのようだ。
敵意はなさそうだが、この女……。
彼女がゆっくりと僕たちに歩を進めて来るが、僕とレイフの間を抜け、倒れた一体のmilitia へと近づいて行く。
そのmilitiaの手が僅かにも動きを見せた。
「おい!」
レイフが警戒を呼び掛けるが、彼女は動きを止める事はなかった。
僕とレイフは彼女を追い、遠ざけようと手を伸ばした瞬間。
彼女の手が上から下へと、militia目掛けて大きく振り下ろされた。
militiaが動きを見せる事は、もうなかった。
「お前……」
僕は、伸ばした手を彼女に触れる事なく、そっと下ろす。
彼女の行動は……彼女が背負ってきたものなのだろう。
彼女の手に握られているのは、細身の長剣『ミゼリコルド』だ。
ミゼリコルドは刃が薄くて鋭く、プレートアーマーの隙間を突ける。
戦闘で深傷を負っても死に至らず、苦しむ者を楽にする為に一撃で殺す……慈悲の一撃と言われるものだ。
「……あなたたちには分かるでしょ……」
彼女は僕たちへと体を向けると、引き抜いたミゼリコルドを抱くように胸に抱えた。
まるで、ミゼリコルドが彼女を支える軸であるようだ……。
彼女の表情が悲しげに揺れる。
そして、発せられたその言葉が、抱えた思いの決断に迷わせない事を知る。
「敵味方問わず最期を迎えさせるのが、この手である事を」




