第15話 man at arms
目的は定まった。
このアンダーワールドで出会う残り五人の『knight』……ラドにここで会う事がなければ、ラドは生きている……。
先に倒れた僕に覆い被さるように倒れたラド。ラドから流れる血をその身に感じたが、僕はラドの生死を確認した訳じゃない。
思い起こされたあの時の状況でラドも僕と同じように、アンダーワールドに堕ちているのではと思っていたが、ラドが生きているなら尚更に早くオーバーワールドに戻りたい。
今のこの時点で時がどの程度進んでしまっているのかは、ここでは分からない。ラドが生きているとしても、ラドが負った傷は深い事だろう。
……ラド……。
生きているというなら、それに越した事はないが、今もずっと傷に苦しんでいるとしたら……それは……。
ああ……ダメだ……。
感情が複雑に絡まり始める。
無事であって欲しいと思う気持ちと、その痛みや苦しみを解放してここで僕と共に|knightly orderを……なんて。
そんな正反対の感情をどっちとして否定出来ない。
(サー)
レミュの警戒を示す呼び声に僕は頷く。
「ああ、気づいている」
レミュを肩に乗せたまま、僕はゆっくりと立ち上がった。
「カイ?」
釣られるようにレイフも立ち上がるが、扉へと向かう僕を目で追っていた。
「カイ……どうしたんだ?」
「招かれざる客が来たようだ」
「招かれざる客……?」
扉の前に立った僕にレイフが並んだ。共に手にする武器に力が籠る。
扉の向こう側の様子に耳を澄ますが、待つまでもないようだ。
ゆっくりとしたノック音が響く。
(どうしますか、サー。今、このグレイブは訪問者を拒否し、向こう側から扉を開ける事は出来ません)
「だがそれは、僕たちが出ない限り、ここに留まり続けるしかなくなるって事だろう?」
(はい……そうはなりますが……)
執拗な程にノック音がゆっくりと繰り返される。
そのゆっくりとしたリズムが逆に気を急かせる。
……不快だ。
「向こうが諦めて立ち去るとは思えないな。何の目的があっての事か知らないが、これが僕たちの足止めになるのは困るしね。残りのknightを探せなくなる。これではまるで、僕たちが閉じ込められているみたいだ」
ノック音を聞きながら、僕は気配を探る。
レイフも気配を探ろうと扉に張り付くように、扉の外に耳を傾けた。
「……カイ」
何者かに気づいたレイフが口にする言葉に、僕も同じに被せる。
「「mercenaryだ」」
(サー……レイフ様、よくお気づきに……)
「レミュ」
(はい、サー)
「僕が来る以前に、ここに訪問者はいたか?」
(いえ、いません。この辺りは初めにサーにお会いした者のグレイブがありますが、他者が訪れた事はありません)
「やっぱりそう……か」
(サー?)
「レミュ。あの時、大量に招待状が届いただろ、それは招待状を送れる立場にあるって事だ。招待するならリディアのように領地は勿論、邸宅があるって訳だろう。このアンダーワールドは『オーバーワールドの領土』が反映されていると僕は思っている。招待状もなく、いきなり訪問……ノックするだけまだマシだがな。そもそもリディアの領域でもあるこのグレイブに訪問など……僕とレイフに用があるというなら、なんの用かは凡そ察しがつくよ……なあ、レイフ」
「まあ……向こう側にしてみれば、それも二択ってところだろうが」
「そうだな。だが、その二択のうち、合意する方があるだろう?」
「ああ、勿論だ。俺の答えは決まっているが」
ふっと笑みを見せるレイフに、僕はその答えを聞かずに言葉を返す。
「異論はない、それでいこう」
互いに頷き合うと、レイフが扉へと手を掛けた。
「レミュ、僕の肩にしっかり掴まっているんだよ」
(はい、サー)
「じゃあ……カイ、行くぞ!」
レイフが勢いよく扉を開いた瞬間に、mercenaryの数を瞬時に確認する。
外側に開いた扉にmercenaryが数歩下がった瞬間に、僕とレイフはmercenaryたちの間を抜けて背後に回った。
ざっと数えて二十……背後に回ったがいいが、周囲に潜んでいるかもしれないと背中合わせにレイフと立つ。
mercenaryたちは背後に回った僕たちへと向き直り、一斉に身構えた。
「……カイ。あのmercenary……」
「ああ、重装備だな……プレートアーマーに武器に盾……か」
武器は様々に、随分と揃っている。
「mercenaryはmercenaryでもknightが雇ったmercenary。カイ……これは少し面倒だぞ、色んな意味でな」
「ああ……そのknight……相容れないな」
「同感だ」
「直ぐに襲い掛かって来ないところをみると、交渉でもしたいようだが、僕たちの返答次第によっては襲い掛かって来るだろう」
「重装備で現れている時点で腹のうちを明かしてるようなもんだろ?」
「圧力を掛けているって訳だな」
「圧力、ねえ……mercenaryを雇える程の力があるって?」
「それだけだろ。金で力を誇示する奴程、武器を使いこなせていない。どんなに高価でいい武器を手にしたところで所詮お飾りだ」
「だが、そういった奴程、戦場で生き残る。mercenaryを盾に使うからな」
「自分が捕虜になったらなったで、容易に金も払えるって訳だ。その額が高ければ高い程、自分の地位を誇れる」
「……ふん……気に入らないな」
「ああ」
「レミュ」
(はい、サー)
「リディアは僕に、条件は揃っていると言った。それはレイフも同じだ。このmercenaryたちを見て分かったよ……その条件が欲しいんだろう」
(そのようですね)
オーバーワールドに戻れる条件……か。
「|man at arms《マン アット アームズ》……『knightの従者』は『knight』になれる望みがあるからね……」




