第14話 Pretender to the throne
レイフを殺した相手が……dual sword。
僕は言葉に詰まったが、気持ちを入れ替えるように深呼吸をする。
dual swordだからラドとは、確かに決め付けられない。
ラドの情報が欲しいとはいえ、これでは短絡的だ。
僕とラドはその最期まで共に戦っていたんだ。ラドのはずがない。
「……完敗だったな……あれは」
レイフはそう呟くと苦笑を漏らした。
だが、自分を殺した相手を知っても、彼の表情には憎しみも悔しさも見えなかった。
テーブルにいるレミュを優しく撫でるレイフを、見つめながら考えていた。
同種武器との戦闘よりも異種武器との戦闘は、一瞬で勝敗が分かれる。
ポールアックスのような長柄の武器を持つ相手にバックソードは届かない。一見、長柄が有利に思えるが、長柄の分、相手との距離は取れても咄嗟が効かない。長柄の武器に求められるのは一撃必中だ。それで外せば後はない。
ポールアックスのように重心が上部に傾いているなら尚更だ。薙ぎ倒すように横に振った瞬間の逆側からの攻撃対処は難しく、逆側からでなくても振った瞬間に入り込むように距離を詰められ、バックソードで柄を押さえられれば次の瞬間に首を狙われる。それがdual swordならその攻撃さえも一瞬だ。
だが……レイフが完敗なんて……。
レイフを上回る剣の使い手……レイフの表情に憎しみや悔しさが見えないのも、相手を納得させてしまう程の圧倒的な強さ、か……。
その者がラドじゃないとしても、気に留めない訳にはいかない。
こうしてアンダーワールドでレイフと出会った事も、その者が僕にも関わってくる事になるだろう。僕たちが戦う相手の一人になると言える。
オーバーワールドでレイフと僕は敵対関係になっていない。それだけを考えてもレイフとは、主は違えど同じ側にいたと思える。
「それで、カイ……仲間を見つけるっていっても、どうやって見つける? 俺はこのアンダーワールドを彷徨ってはいたが、お前に会うまで人の姿を見ていない。レディの邸宅に入れるのは『knight』である事が第一条件でもあるだろ……そもそもが殺されている『knight』って訳だが……俺たちは敵を同じくしてるって事だよな。それはレディもね。そうじゃなければ目的が分散するだろ。共に戦う理由にもならないし、それじゃあ仲間とは言えないしな」
「ああ。それは僕も思っている事だ。だが……」
「どうした?」
「レイフにしたって領主を守る為だった訳だろ。領主同士が領地を奪い合うにしては……なんだか事が大き過ぎる気がしてな……」
「ああ」
「奪うにしても結託するってのもな……確かに領地を奪うのは目的にあった事だろう。それは勢力を拡大していく事に大きな意味がある。レイフにしても僕にしても交渉の余地などなく殺されているだろう、僕が仲間に裏切られたというのが本当なら、それも納得がいく。反乱があったという訳だ。捕虜としなかったのは勢力としての結託は出来ないからだろう……対立がある事は明らかだ」
「……まあな」
やはり……権力か。
リディアの言った言葉が大きく意味を成す。
『ただの強者というだけの者の命令で人が死ぬのよ』
テーブルに乗せていた手をグッと握る僕に、レミュがそっと擦り寄ると顔を伏せた。そんなレミュの様子に、僕はレミュの心情を察する。
「レミュ……キミは知っていたはずだね……大丈夫、怒ってなんかいないよ。僕が自分で気づかなくてはならない事だからね。怒りが向くのはレイフと同じ相手にだよ。それが何者なのか、分かっている」
僕は、そっとレミュを撫でるとレイフと目を合わせて頷き合い、言葉を続けた。
「僭称者……王位継承のね」
「……ああ、そうだな。大きな戦いだ」
「今もまだ、戦いが続いているのなら、死者は増える一方だろう。これからアンダーワールドに堕ちてくる者がいるとするなら、それは決定的だ」
「それじゃあ……俺たちの他に人の姿が見当たらないのは、これからアンダーワールドに堕ちてくるknightを待つって事なのか……? 戦いに敗れたknightだぞ……まあそれは俺たちもだが……」
「だが……それは相手側も同じだろう。リディアの邸宅に入れるか入れないか……それが決め手だ。オーバーワールドに戻れる条件が僕たちにはある。言うならば起死回生ってところだろ。リディアの意に適う『|knightly order』の結成……それは今も続いているだろう戦いに必要な勢力になる。それを考えてもおそらく、オーバーワールドで繰り広げられている戦いは五分五分といったところか」
「成程ね……理解出来るな。組む相手で勢力が変わるのは無い話じゃないからな」
「ああ」
(サー……レイフ様……)
「なあ……レミュ。リディアの他に届いた招待状……あれがそうだったんだろう? 他にもいると言っていたしな」
(……はい)
「だけど招待状というよりは……交渉条件。僕を引き込む為のね……それはいい条件が記されていた事だろう、何も分からずアンダーワールドに堕ちた僕を惑わすには十分なものだ」
(サー……どうしてそれを……)
「キミは一瞬でも僕に見せたくなかったようだったしね。確かにあんな状況でそれを見たら、僕は今のような答えを出せなかったかもしれない。リディアに対して疑念を持っていたのも正直なところだ。今はもうそれはないけどね」
(わたしは……どうしてもサーをレディのところへ……サーに選択をさせたくなかったのです)
「分かっているよ。キミは僕を守ると言った。僕の鎧となると」
(それは今も同じ思いです、サー)
僕はレミュと目線を合わせて言った。
その言葉にレミュは、嬉しそうにも僕の肩へと乗り、首周りを柔らかく包んだ。
「だから僕は信じたんだよ、レミュ。キミもリディアもね」




