第12話 seating arrangement
中へと歩を進めたが、レイフは彼女が来るのを待った方がいいのではと、エントランスホールで足を止めて話を続けた。
「それもバックソードを両手でね。バックソードは片手剣だけあって両手剣より比較的軽いが、剣を両手に持つ奴はいない訳でもない。そうは言っても、倒れた兵士の剣を拾って咄嗟に防御に使うくらいの程度だ」
……両手にバックソードを……。
「だけど彼は違う。右でも左でも攻撃も防御も出来ていた。その動きは目を引いたが、おそらく、それに気づいているのは一部の奴だけだ。一斉に突撃すれば、目の前の敵にしか目がいかない。戦闘中に他人を気にしている余裕なんか普通はないだろ。そもそも、突撃兵に連携は重要じゃないからな」
「ああ……そうだな……」
レイフの話を片耳に聞きながら考えていた。
『|dual wielding』……。
両手に武器を手にしても、大抵は利き手がメインの武器だ。利き手の剣が相手の剣を受け止め、防御になった時、ダガーのような短剣をもう片方の手で使い、相手のガラ空きになった部分を攻撃するやり方だ。
だが……『dual sword』……レイフの言うように、両手に持った剣を使いこなす者は中々いない。
それもそうだ。武器の使い方や戦い方は訓練しても、dual swordまでの訓練はしない。それは、それを教えられる者もいないという事だ。
実戦の中で身についた、天才的な剣捌き……。
レイフの見たmercenaryがラドなら……いや、バックソードを両手で扱える者なんてラドしか……。
だけど……ラド……どうして……。
レイフと同じように潜入した……? だが、それはいつの事だ?
僕は、常にラドと共にいた。このアンダーワールドに堕ちる瞬間まで……。
レイフの話は気になる事が多過ぎて、当然、聞きたい事は色々あったが、その人物がラドであるという確信に自分の思考だけが先に立った。
「レイフ……」
頭の整理はついてはいないが、深く話を聞こうとしたところでリディアが現れた。
「ようこそ。アンダーワールドへ」
レミュが戸惑っているのが分かるが、大丈夫だとそっと撫でる。
ラドの事は気になるが、今はレイフの事だ。
リディアの目線がレイフに向いた後、僕の肩に乗るレミュへと移る。
穏やかな笑みを見せるリディアに、レミュは安心したようだ。
「カイ……ありがとう。一緒に来てくれたのね。レミュ。会いたかったわ」
そっとレミュの頬を撫でるリディアは、嬉しそうだった。
(レディ……)
思いを募らせるレミュは、上手く言葉が出ないようだ。
そんなレミュの思いもリディアは分かっている。リディアにしてもレミュを抱きしめたい事だろう。
だけど今は、思いに浸る訳にはいかないと抑えている。
「カイをお願いね。あなたの力が必要だわ、レミュ」
(はい。レディ)
「良かったな、レミュ」
(ありがとうございます。サー)
ダイニングルームへと案内するリディアについて行く中、柩の部屋の扉に目を向ける。
……まだ……アルファベットは浮かんでいないな……。
ダイニングルームに入るとリディアは席を勧める。
大きく長いテーブルには、変わらず豪勢な料理が並んでいた。
「カイ……あなたはそちらへ。あなたは……」
どうやら僕の席は決まったようだ。初めに座った席と同じ席をリディアは再び勧めた。
「お好きな席にお掛けになって」
リディアと僕は長テーブルの向いの席にそれぞれ座る。
『knight』は七人。
両側の席は、三席分ずつ並んでいる。
リディアは、楽しむかのように頬杖をつきながらレイフの様子を眺めていた。
レイフは迷う事もなく、僕から直ぐ近くの左側の席に座った。
グラスにワインが注がれる。僕の時と同様、そこにワインを注ぐ姿はない。
「どうぞ、お好きなものを召し上がって」
やはり、リディアは同じ言葉をレイフに向けた。
「いや……結構だ」
レイフはワインが注がれたグラスをテーブルの奥へとスッと下げると、リディアの言葉を待つ。
「ふふ……殊勝だわ」
ゆっくりと席を立ち、部屋を出るリディアに僕たちも席を立つとついて行く。
向かうのは柩の部屋だ。
ダイニングルームを出る時に、僕はテーブル席を振り返った。
(どうかしましたか、サー)
「いや……」
座る席に意味があるのだろうか……。
そうだとすれば、席につく事があの部屋の鍵になっている……?
リディアは、一つの部屋の前で足を止めた。
ああ……そういう事なのか……。
部屋の位置は、テーブル席と逆位置だ。
一番奥の突き当たりの部屋は『K』……僕の体がある部屋だ。ダイニングルームは僕の部屋から見て右に抜ける廊下があり、柩部屋が並ぶ間取りには並ばない。柩部屋だけの間取りから見ればここは長方形だ。
そして部屋は左右に三部屋ずつある。ダイニングテーブルに配置された椅子のようだ。
足を止めたのは僕の部屋から見て左側の部屋の前……扉に浮き彫りになってくるアルファベット。
『R』……Rafeのイニシャルだ。
席の位置が部屋の位置、か。
僕に目線を向けるレイフに僕が頷くと、レイフは扉を開いた。
中へと進み、ベッドへと近づく。
レイフは、ベッドに眠る自分の姿を冷静に見ている。
僕とリディアは、レイフの様子を見守るようにも見つめていた。
少しするとレイフは、肩に寄り掛けていたポールアックスを自身の肉体の傍に置き、自分に語り掛ける。
「眠るのにはまだ早いだろ……レイフ・リッジウェイ。お前はまだ果たせていない事があるんだからな……」
レイフの表情は見えないが、詰まらせる声に思いが伝わる。
レイフは気持ちを入れ替えるようにふうっと大きく息をつき、ポールアックスを手に取るとリディアを前に跪いた。
その瞬間に、ふわりと揺れたような空気の流れを感じる。
それは僕がリディアに忠誠を誓った時と同じ感覚だ。そして今もその感覚を僕は得ている。
その感覚が今、目にはっきりと映った。
レイフは、はっきりとした声でリディアに言う。
「『knight』である事を誇りに、果たせなかった思いを果たす為に共に戦う。その機会を与えてくれたあなたに忠誠を誓う。『レディ』」
……そうなんだ。ふわりと身に纏うあの感覚は。
『|coat of arms』を掲げた外衣……マントだ。




