第11話 black knight
僕はレイフにこれまでの事を話した。
リディアの事、ナイトの条件の事、柩の部屋の事……。
レイフは驚く事なく、僕の話に理解を示していた。
「そっか……じゃあ、その柩の部屋の扉を開く事が出来れば、俺の体はそこにあるって事か……ああでも、レディの邸宅に入れるかどうかが先か」
「ああ。抵抗がなければ、直ぐにでも向かうが」
「まあ……正直なところ、こんな状態で自分と対面するっていうのは不思議な感じになるだろうが、俺、その邸宅に入れるだろうか」
「レイフなら心配ないと思うけどな」
「カイがそう言うなら……ま、行ってみればいい事だな」
「ああ」
話が纏まったところで僕は席を立つ。
「レミュ。キミも一緒に行くよ」
(でも……)
戸惑うレミュを肩から下ろし、両手で抱き抱える。
「リディアはレミュの事も待ってるよ。言っただろ? 今度は連れて行くって」
(はい。サー)
レミュの頭をそっと撫で、肩に乗せるとレイフと共にグレイブを後にする。
リディアのところへ向かう中、バラバラになった甲冑を横目に見る。
靄は現れる事はなく、どうやら再び襲って来る事はなさそうだ。
レイフが立ち止まり、甲冑に近づいて屈んだ。
「どうかしたのか? レイフ」
僕は、レイフの隣に並んで屈み、同じに甲冑に目線を向ける。
「カイ。この甲冑さ……武器持ってなかっただろ。盾もないけどさ」
「ああ……それは僕も思っていたよ。体術で挑んできたからな……」
「掲げる『coat of arms』は持っていないと言えるが……サーコートもないしな。出自を隠してるとも言えなくもない」
「誰が誰だか分からないっていうのも一つの手……僕の剣に触れたのもそういう事か……」
僕は深く息をつき、立ち上がると呟くように言った。
「……mercenary……」
僕の呟きにレイフも立ち上がり、続けるように言う。
「用済みのってところか……」
「……だろうな」
僕たちは甲冑から離れ、歩を進め出した。
mercenary。臨時にも雇われる兵士で仕える主を持たない……傭兵だ。
忠誠などなく、それこそ金品の上で成り立っている関係だ。
歩を進める中、互いに無言になった。
おそらく、考えている事は同じだろう。
「……カイ」
レイフが沈黙を破るように口を開いた。
僕は、レイフの話を黙って聞いた。
レイフが部分的にも僕に話していた事を、全て明かすと僕は気づいていた。
だから……レイフは。
「俺も……『mercenary』だったんだ」
ここに現れたんだ。
「カイ……装備の充実は兵士の身分を示すようなもんだろ……武装は初めは自身で整える。あんなプレートアーマーだってそうそう身に付けられないが、オーダーメイドよりはまだ手に入れる事は出来る。だが、体に合わないプレートアーマーは動きを制限され、攻撃よりも大幅に防御に傾く。そもそも武器を奪うにも防御は絶対だろ……」
「武器を……奪う、ね……」
「……」
レイフの言葉を拾った事で、それが強調になった事だろう。
無言になったレイフに僕は言う。
「そのポールアックス、大事にしてるよな……レイフ」
「……」
レイフは僕の言葉に答えず、僕たちは互いに目線を向ける事もなく歩を進めていた。
僕は、前を見たまま言葉を続ける。
「何体もの甲冑を一撃で倒せる程、ポールアックスの扱いに慣れている。アンダーワールドに堕ちて、既にポールアックスを手にしていたと言ってたよな……」
僕は、レイフを横目で見ながらこう言った。
「主の為に『mercenary』になったんじゃないのか。『mercenary』でいる事にした……そうだろ」
僕の言葉に少し間を置いて、レイフは苦笑を漏らすと口を開いた。
「一度は敵対していた相手でも、相手側の『knight』として戦地に赴く。そんな事は特に珍しい事じゃないだろ。主が倒れれば新たな主に仕える。利害の一致は存続の為の条件だ」
……存続の為の……条件。
『例え扉を開こうとも条件が揃わないと……』
リディアの言葉がレイフの言葉に重なった。
『ナイトの条件よ』
「だから裏切った、と?」
その言葉にレイフはまた苦笑すると、僕へと目線を向ける。
「カイには敵わないねえ……最初から見抜いてた?」
ちらりと向けた目には笑みが浮かんでいた。
「まあ……仲間って言わなかったからな……」
「そっか」
レイフはニッと笑みを見せ、決心するかのように深呼吸すると思いを吐き出す。
「主を守る為に敵地に潜入した。それは命令なんかじゃなく俺が決めた事だ。だが……knightとして赴けば俺の守るべき主が変わってしまう。それだけは出来なかった。mercenaryなら忠誠など誓わなくてもいいからな……」
一呼吸置くと、レイフは話を続ける。
「敵対する相手は中々に堕とせない相手を堕とす為に結託を結ぶ。一つの領地を狙うのは一つの相手とは限らないだろ。利害の一致は存続の為の条件……それは何処にだってある。一度は退けられても、結託した勢力は倍以上だ。そうなる前に結託を阻止したかった……まあ、結局、一人の力じゃどうにもならず、こんなザマだ」
「それでもレイフが忠誠を誓った主は、お前を取り戻してくれたんだろ……そのポールアックスがそれを証明している」
「……そうだな」
笑みを見せてはいるが、寂しげな様子は隠せない。それは僕も同じ思いだ。
「……そういえば……」
「どうかしたか? レイフ」
「ああ……俺と同じような奴がいたな……って」
「へえ。そうなんだ」
「サーコートも着けてなかったし、プレートアーマーで顔は分からなかったが、雰囲気的にそうなんだろうなと思っただけなんだけど」
「ふうん」
目的地に辿り着いた僕たちは、廃墟同然の邸宅を眺める。
レイフは迷いなく扉へと手を掛けた。
眩い光が開いた扉から溢れ出した事に、僕は笑みが漏れたが。
レイフは、中へと歩を進めながら僕に言った。
「凄い奴だったよ。武器一つ使いこなすのだって苦労すんのに、中々いないだろ……」
……え……。
「『|dual wielding』なんてな」
dual wielding……二刀流の事だ。それって……。
……ラド。




