DragonSlayer~暗黒の女神~
【pixiv】https://www.pixiv.net/artworks/137314391
【TikTok】https://vt.tiktok.com/ZSyVt2xmG/
【登場人物紹介】左から
・ベス
元帝国軍の参謀。悪魔降臨の器にされた女魔導師。
・アレフ
元帝国軍の将軍。大剣ドラゴンスレイヤーで戦う戦士。
・イノセンス
魔神ネメシスの使徒を名乗る最上級悪魔。
・ダレス
元帝国軍の将軍。聖騎士。
・ザイン
元帝国軍の将軍。最強の剣士。
・ギメル
元帝国軍の将軍。司祭。
・ガイゼリック//故人(説明のみ)
ヴァルハラント帝国皇帝。
・ノワールハイム//黒狼王(説明のみ)
グランベル王。白虎王とアスガルドの覇権を争う。
・ブランシュバイク//白虎王
ローザリア王。黒狼王とアスガルドの覇権を争う。
・レオン(説明のみ)
エスタミル公。皇帝を倒した英雄。
・チンコシコルノスキー
サイラ―ジュの高司祭。
冥界へ続く地下迷宮。
このような悪魔の巣窟である地下迷宮はアスガルド各地にあり、魔神ネメシスが支配する冥界と大陸を繋ぐ回廊とも言われる。
地下1階や2階は冒険者の腕試しとしては丁度よく、迷宮の財宝や悪魔を倒して得られる希少な魔石は魔素の薄い地上で魔法を使用するのに重宝するため、魔石を獲ることを目的とした戦士達で栄え、近くに城塞まで建造された都市もあるほどだ。
だが、地下迷宮の悪魔が地上に現れることは稀であり、大陸内では専制主義による圧政や重税に耐えきれなくなった貴族、上級騎士たちが集い、貴族連合軍を結成するとヴァルハラント帝国に対して解放戦争を挑む。
連合軍は自由と理想を掲げ、人種で差別しないことを公言したグランベル軍に協力する亜人族が参戦し、数で帝国を圧倒する連合軍は開戦当初から優勢となる。
帝国軍も地下に潜む暗黒教団の協力を得て対抗する。
しかし、帝都の最後の砦レフガンディーが陥落すると帝国軍の敗戦は色濃くなり、暗黒教団から派遣されていた造魔人7名で唯一の女性である暗黒司祭ベスを生贄にし、魔神ネメシスを降臨させる禁断の秘術を行う。
魔神ネメシスは降臨しなかったものの、魔神ネメシスの配下たる悪魔王イノセンスを名乗る魔人が降臨。
ベスの肉体を触媒にすると帝国軍に協力する。
連合軍が城門を突破し、城内戦になると王の間では皇帝ガイゼリックが皇剣エクスカリバー、ベスは魔神ネメシスの邪剣とされる闇剣ソウルブレイク、同じく新型造魔人の魔法戦士ヘクター、賢者イングヴェイの錚々たるメンバーで連合軍を指揮するレオン、後に勇者と称されるナーシェルを迎え撃った。
だが、多勢に無勢であり、光剣ラグナロクと光盾イージスを持つレオン、竜槍グングニルを持つナーシェルなどに押され、ベスにこの場を任し、ガイゼリックとヘクター、イングヴェイに王城の脱出を促す。
ベスはここで一気にイノセンスの力を解放し、ナーシェルにソウルブレイクを突き立てる。
ナーシェルはソウルブレイクを死しても離さず、ベスを足止めし、レオンはガイゼリックを追撃。
このときベスはレオンの追撃を許し、ナーシェルにソウルブレイクを突き立てたままワープの術で姿を消した。
ガイゼリック、ヘクター、イングヴェイはレオンと十余名の聖騎士を相手に健闘したが、ガイゼリックはレオンに討たれ、ヘクター、イングヴェイの両名も戦死と言われているが消息は不明。
ここにヴァルハラント王朝は倒れ、2大勢力の最上級貴族である白虎公爵と黒狼公爵の両名が王を名乗り、国が二分することになった。
レオンから皇剣エクスカリバーを献上された白虎国王は驚異的な力を持つ造魔人をレオンと同階級の上級大将で迎えると遇し、聖騎士ダレスと司祭ギメルは応じ、黒衣の将軍と恐れられた戦士アレフは辞退。
新型造魔人最強と謳われる剣匠ザインはイノセンスを倒してから考えたいとした。
対照的に黒狼国王はナーシェルの血を啜る闇剣ソウルブレイクを手にする。
倒した敵のHPとMPを奪うことができるソウルブレイクは魔法騎士のノワールハイムにとって相性の良い暗黒剣であった。
このとき対局する聖剣と魔剣を両公爵が持つことで王を名乗り、覇権を争うのは運命だったのかもしれない。
敗戦後に大剣〝ドラゴンスレイヤー〟を背負い一介の戦士としての道を選んだアレフ。
ここで大戦は集結の兆しをみせたが、ローザリア城王の間において突如、魔王を名乗るベスが現れると「アスガルドを滅ぼす」と大陸に宣戦布告したのだ。
ローザリア王は地下迷宮に潜むベスを討つべく、聖騎士団と元帝国将軍アレフ、ギメル、ダレス、ザインに命を下す。
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
迷宮の近くには神殿都市サイラージュを駐屯地として、ブランシュバイクの軍勢が集結していた。
4名が全滅したとき、全軍をもってベスを倒さなければならない。
迷宮は各地にあるが、ベスがいる迷宮はローザリアであるため、ここに第三勢力があるのは後々にノワールハイムとの決戦で不利となる。
皇帝ガイゼリックを倒し、次にベスが魔王を名乗る。ベスを倒せば、ソウルブレイクを持つノワールハイムが覇王になるだろうとブランシュバイクは考える。
まだ、脅威はあった。
アレフとザインも最強の剣士である。アレフには大剣ドラゴンスレイヤー、ザインには神刀バルムンクがあり、2人のうちどちらかが覇を唱えるかもしれないし、グランベルに協力すれば脅威となる。
そして貴族連合司令官であったレオンも裏切るかもしれない。
それこそ、光の系譜であるレオンが皇剣エクスカリバーを持てば、国民の支持が熱い彼は真の英雄王になってしまうだろう。
「レオンめ……。こういうことであれば、レフガンディー攻略後に使者を送ってヘクターとイングヴェイを投降させるべきだった。ワシが造魔人を欲していたからこそ、レオンはガイゼリックのついでにヤツらを間引きおった!」
ブランシュバイクは皇剣よりも優秀な兵士であるエクステンデッドを配下にしたかったのは連合軍では有名だった。
この次の戦いまで見据えていたからだ。
「閣下。ノワールハイムが宣戦布告すれば、盾となって死ぬのはエスタミルで戦うレオンですぞ。神殿騎士はローザリア属の騎士団として忠誠を誓います」
ローザリア王とローザリア騎士に混ざる司祭。
エスタミルの南に位置する神殿都市サイラ―ジュの高司祭であり、次期大司祭候補である。
「貴様もクズを極めた男よ。大司祭を暗黒教団に暗殺させ、その地位を狙うとはな」
「魔王ベスを倒した暁には、どうか私を大司祭に任命してくださいませ」
「ふふふ、ガイゼリックが生きていたら、お前は地獄踊りの極刑になっておったな。戦争の混乱を利用してレオンを殺せば、貴様にエスタミルと公爵の地位をやろう」
「民から搾取し、神殿騎士団を強化しておきまする」
ノワールハイムとの確執から彼と袂を分かちあったローザリア領で公爵となったレオンはこの戦いには参加しなかった。
ノワールハイムの領地の国境沿いであるエスタミルを任されていることを理由にレオンは動かなかったのだ。
国境沿いには砂漠の森と呼ばれるエルフィン族が暮らしており、族長ガイメッツァーは連合軍に参戦した際にレオンの采配で戦友ヴァーレンハイトを討たれ、同じく戦友のナーシェルも王城戦で戦死しているため、グランベルとローザリアが戦えば、真っ先にレオンと戦うという意志を表明している。
先の大戦で多くのエルフィン族の若者がレオンの作戦ミスで失ったと譲らないためだ。
ローザリアは敵であったダレスを上級大将にして聖騎士団長に、同じく敵だったギメルにも上級大将の階級を与え大司教にし、王都にある至高神レイアの神殿の責任者にしている。ギメルは魔神ネメシスを崇拝する暗黒教団が作りだしたのに至高神の司教とは皮肉なことであった。
グランベルよりも早くに帝国の人材を確保するが、ローザリアの経済はグランベルよりも一歩下がっているのはこの人件費である。
一般市民の徴兵や一般企業で働く予備役を抱えるグランベルに対して、ローザリアの軍備増強は生産性に寄与していないためだ。
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
冥界へ続く地下迷宮は地下10階までとされる。
ここまでで多くの悪魔やゴーレム、罠などが彼らを襲った。
もちろん、たった4名で攻略できるはずもなく、騎士隊の精鋭らもいるのだが、第7階層から10階層へ続く階段を前にして騎士たちは待機した。
「では、私たちはここを確保しておきます」
額の血を拭い、騎士たちは降りずに留まった。
ここから最下層に悪魔王がいるならば、先は悪魔将クラスがいるかもしれない。
であれば、上級悪魔や最上級悪魔が跳梁している。
地下1階や2階はオルグどものような悪魔に堕ちた人間の慣れ果ての巣窟だったが、3階4階と降りると下級悪魔の強さも格段に強くなった。ただでさえ、悪魔の魔力は強い。
イノセンスの力を得る前からベスの魔力は人を凌駕していた。そして、今は自らを魔王と名乗り、大陸全土に僅かな悪魔たちと宣戦布告をしている。それは傲りではなく、自信だ。
ラグナロクの聖剣やイージスの盾が標準装備でもない限り、自分たちとランクが違う相手だと騎士達はわかっていた。
「魔王を倒す」と宣言した王は安全なところにいる。まさに自由と理想を可視化させた。
その最下層は魔法による暗い明かりが灯される。今までの迷路が嘘のように最下層は分岐がなく、真っ直ぐと伸びている。
まるで、彼らを歓迎するかのようにだ。
闇の光に導かれるまま、4人は通路を進んだ。
行き止まりにある巨大な扉。表面には冥界の魔法文字が隙間なく刻まれる。
司祭がゆっくりと前に出ると至高神の奇跡を祈り、手を触れることなく開門させる。
扉の向こうは、広間。
広間を取り巻く壁には、いくつもの紫の魔法の篝火が揺らめき、暗闇を黒く照らしていた。
そして魔法陣の描かれる床の先に荘厳な玉座があった。
その玉座には血のような赤い瞳、血流を感じさせないほどの白い肌の少女が彼らを睥睨するように座っていた。
自らを魔王と名乗る少女はかつてベスと呼ばれた帝国軍の参謀。
降魔の儀式で召喚された悪魔将イノセンスは彼女を器として、その肉体を自分のものにしている。
立ち上がり、4人に近づいてくる……
「来たな……人形ども……。女神となった私の前に……」
白い悪魔が呟いた。
「ベスは本気でイノセンスになるつもりなのか……」
剣士ザインは神刀バルムンクを両手に持ち直す。
「いいですか……魔素の充満するこの迷宮内では、ベスの魔力は無限と思った方がいい。私が光の壁で援護します」
司祭ギメルが至高神の印をきった。
悪魔が死する際に発生させる魔素は魔力の源であり、全ての魔法がそれを源泉として影響を受ける。
この迷宮と違い、地上で魔導師や司祭がその魔力を完全に発揮できないのはそのためである。
光魔法は闇魔法の上位に位置するが、闇魔法が全ての魔法の原点である。
至高神が魔神から奪ったとも言われるが……
「心臓に聖剣を突き立てれば大抵は死ぬ。悪魔でもな」
聖騎士ダレスが言って、至高神に剣を捧げた。
「ベスッ!! 正気になれ!」
玉座に座る少女に身の丈を超える大剣を持つ黒い甲冑の戦士が言い放った。
彼はベスがイノセンスと戦っていると推測しているためだ。
「……(世界を平和にする)このために生きてきたからだ。悪魔将の魔力を得たおかげで積年の恨みを晴らすことができる。さぁかかってこい人形ども、このイノセンスが粛清しようと言うのだよ!」
少女の表情と言動から彼女がベスであるのか、イノセンスであるのかはわからなかった。
後に司祭ギメルはベスでも悪魔将でもなく、イノセンスという名の最上級悪魔ドッペルゲンガーが悪魔王を語ったのでは?と説を唱える。
ドッペルゲンガーは器とする肉体の記憶に多少なりとも影響を受けるからだ。
「やめるんだ! こんな戦いを繰り返していれば心が壊れて、本当にイノセンスになってしまう。ガイゼリック皇帝の次はネメシス神の傀儡となるのかっ!?」
黒い戦士が問いかける。
僅かに残るベスの魂を呼び戻すために。
「黙れ! そこをどけぇッ!!」
ベスのかざした手から闇の衝撃波が放たれた。
A級闇撃魔法を連続で撃ってくる。
まさに魔王を名乗るに相応しい桁外れの魔力。
「光波防壁!」
司祭ギメルが強大な光の壁を作り出し、闇の衝撃波を完全に防御する。
こちらも莫大な魔力を必要とするS級光魔法であり、光は闇より竦み上で有利となる。
「ギメル! ベスを止めないとっ」
黒い戦士は司祭に懇願する。
「あぁ……だが、ベスに何を言っても無駄だ。可哀そうだが、悪魔として殺すしかない!」
「力では何も解決できない!ベスは操られているんだ! 世界を滅ぼす? そんなのベスの本心じゃない! 止めてみせるっ」
黒い戦士は光の壁が闇の波を押し返すと前に出る。
「ベス! 聞いてくれ。これは本当にお前のしたいことなのか?」
ベスは片手に黒い闘気を燃やしていたが、黒い戦士の言葉に驚愕するような仕草を見せた。
「……だって……私にはこうするしか……生きる意味など……ない……」
血の通わない白い肌。
不釣り合いほど赤い涙が目から溢れる。
「一緒に生きよう……兄さんと一緒に! 憎しみや怒りを捨てて……。戦災で傷付いた子供たちを救済するんだ!」
そう言うと黒い戦士は背負う巨大な剣を床に置いて手を広げたのだ。
「本気かアレフッ!!」
黒い戦士に叫んだのは4人で唯一、光の加護を施した聖剣ティルフィングを装備する騎士ダレスである。
この戦いに一番重要なのは彼の聖剣である。
聖剣は悪魔に特効性があるからだ。
「わ、私の……居場所は――――ここだけだッ!!」
ベスは両手に闇の炎を灯すと4人に向け、詠唱する。
「この力は神が授けたッ! S級闇撃魔法!」
最強の闇魔法が光の壁を破壊し、4人を吹き飛ばした。
司祭の防御壁がなければ、そのまま死していただろう、まさに魔竜のドラゴンブレスの直撃。
「我のエターナルを防ぎきるとは……貴様らは生かしておけば脅威となる……一体何者だ?」
最初に立ち上がったのは盾を持つダレス。
そして、黒い戦士アレフが続く。
ダレスはアレフの前に盾を構えたまま、移動すると「アレフ、グレネードは?」とつぶやく。
アレフの鋼鉄の籠手に装着するランチャーは本来は長距離を攻撃する擲弾を携行武器に改造したグレネードが装填されている。
自傷覚悟の強力な武装は、暗黒教団製ならではである。
今では改良され、銃弩の弾丸として量産されている。
だが、この両手で扱う大型の武装を黒い戦士アレフは片手で扱うことができる。
「残弾1だ……」
道中の悪魔は大剣ドラゴンスレイヤーで戦ったが、岩石で作られたゴーレムは物理攻撃に強く、接近戦でグレネードをぶっ放すことで破壊してきたため、残弾はほぼなかった。
「1発勝負だな」
アレフにはダレスの一言が冷たく響いた。
「ダレス!」
「 やるんだッ!」
特に作戦を打ち合わせることはなかった。
ダレスは盾を構えて、ベスに突っ込んでいったのだ。
聖騎士であるダレスはステータス上、魔法防御が高く、盾で魔法攻撃を半減することもできる。
自らが犠牲となって、ベスに一撃ダメージを与える作戦だったのは走ってすぐにアレフは気付いた。
ベスの闇魔法を盾で防ぎながらダレスはアレフの壁になる。
「ベス! 戻ってくれッ!!」
アレフの願いを打ち消すようにダレスが「あきらめろ!」と雷喝した。
ベスに接近、アレフはグレネードを装着するとダレスから「アレフッ!! このまま撃て!」と合図があったが……。
「うおおおぉぉぉぉぉッ!!」
ベスを狙える位置にいる、わかっていて叫ばずにはいられなかった。
このままベスを撃ち、怯んだところでダレスが聖剣ティルフィングを突き立てれば、この悪魔を倒すことができる。
「お兄ちゃん……」
ベスのつぶやきにアレフは苦悩した。
イノセンスが言わせているのか、ベスが絆をこんなことに使うはずがないと―――
「ベス! 兄さんだ! 戻ってこい! 俺と一緒に帰るんだ! 俺と来い! 」
アレフの叫びは虚しく、ベスは妖艶に笑み、アレフに向かって闇の炎を灯した手をかざす。
ダレスは聖剣が届かないならとアレフの鋼鉄の籠手からグレネードランチャーを奪い取り、ベスに撃ち放った。
怪力を有するアレフでも自傷覚悟のランチャーをダレスは盾を持っていた関係で片手で撃つことになった。
その反動でダレスはダメージを負い、吹き飛ばされる。
すぐにギメルが回復に取り掛かり、次はザインがベスに飛び掛かった。
ベスの右腕が吹き飛ぶ。
血飛沫はない。
だが、ベスは回復魔法を施すこともなく、右腕は蘇生されたのだ。
彼女がイノセンスである可能性があると思われる瞬間である。悪魔は肉体を蘇生する能力もあるからだ。
その一瞬を見逃さずにザインはバルムンクで斬撃をベスに叩き込んだ。
彼の剣技とスピードはアレフやダレスを遥かに凌駕する。
加えてバルムンクは持つ者の速さを底上げする加護が付与されている。
最強のエクステンデッドとしてこの世に生を受けたザインは圧倒的な反射速度と敵の行動を先読みする予知能力に優れる。
試験的に作られたアレフは魔法が使えないが、無双の攻撃力と体力があり、全ての魔法を使えるベスにサポートされることで実力を発揮できる。
ザインも魔法を使うことができない。しかし基礎ステータスを極限に高めることで敵の攻撃を避け、必殺の一撃を与えるシンプルな思想はアレフでは実現できなかった原点にして頂点だった完成がザインである。
しかし、どれだけ斬撃を入れようとも、ベスは秒で身体を蘇生させ、ダメージを与えることはバルムンクではできなかった。
「この完全自己治癒を施した肉体にバルムンクなど通用しないわ。大陸最強の剣士が聞いて呆れるわね。ザイン!」
「くっ! エクスカリバーかラグナロクだったら!お前など!」
ザインは自身に最強の剣がないことを呪った。
戦わずに遠くにいる王が最強の剣を帯剣している現実。
バルムンクも斬れ味で比べれば、エクスカリバーやラグナロクに劣らない。
だが、ことに相手が悪魔王や悪魔将であれば、別問題である。
悪魔に特効性もあるエクスカリバーでイノセンスにこれだけの斬撃を与えていたならば、勝機はあった。
「重力空間魔法!」
イノセンスが唱える魔法の多くは闇魔法だが、無限とも思われる魔力で連続を使ってくる。
「闇の霧ッ!!」
重力空間で動きが重くなり、更に視界まで闇の霧で閉ざされてしまう。
技と速さが売りのザインを無力化するには恐ろしい魔法である。
「参れ!! 黒龍ッ」
続けて、ダークドラゴンを召喚し、イノセンスとドラゴンを同時に相手にしなければならない。
迷宮内で悪魔たちを従えてはいるものの、たったひとりで大陸を滅ぼそうとする実力は計り知れない。
速さが特徴のザインも重力を与えられ、動きに精彩を欠き始める。
ダークドラゴンのドラゴンブレスが彼を捕らえる―――
―――シュッ
ダークドラゴンの目にアレフが大型のナイフを投げ込むことで、ドラゴンブレスをザインは躱すことができた。
だが、完全には躱しきれずに吹き飛ばされてしまう。
しかし、この状況下では全滅を待つだけである。
ダークドラゴンは前衛のアレフ、ダレス、ザインをその圧倒的な力でぶちかまし壁まで押し飛ばす。
悪魔王とダークドラゴンの両方を相手では古の勇者が4人いても勝てるはずはない。
更には重力の闇魔法が動きに精彩を欠かせている。
地下迷宮は悪魔にとって最高の戦場なのだ。
尽きることのない魔素で、高度の魔法をいくら連発してもイノセンスは疲弊することはない。
だが、3人が戦っているときにギメルは残る魔力を完全に使い切り、とある魔法陣を空に描いていた。
地上のドラゴンは闇の生物ではないため、戦わなければならないが、ことにイノセンスが召喚したドラゴンであれば、それは魔素の集合体である悪魔と同じ。
「魔法解除!」
ギメルが光の魔法である魔法解除の奇跡を唱えると、重力の空間は元に戻り、闇の霧は晴れていく、そして、召喚されたダークドラゴンも影響を受けたのか、苦しみに悶えた。
その瞬間を3人は見逃さず、各々を剣で必殺の一撃を放ち、ダークドラゴンは消滅した。
この召喚魔竜に魔法解除が通じるのに対して地上のドラゴンに通じない。
地上のドラゴンやモンスターが暗黒神ネメシスではなく至高神レイアの使徒である有力な瞬間を改めて、ギメルは考える。
「終わった……」
ギメルは呟く、そう、魔力がきれたのだ。
魔力の回復の水薬は多く持ってきていた。
だが、ここまでの迷宮とイノセンスの高度な暗黒魔法による猛攻により、ついに力尽きた。
後は手にする錫杖が有する回復の奇跡のみ。
「10秒だ! イノセンスも10秒は魔法が使えない! ここで倒さなければ、アスガルドは終わる!」
ギメルは祈った。
今の自分にできることはそれだけになったからである。
「ああぁぁぁあぁぁぁっ!!」
突然、悪魔将が叫び声をあげた。
そして、胸を押さえる。
眼からは大量の血の涙が流れ落ちた。
魔法解除の影響を受けたのだろうか?
「ベス!」
アレフが悪魔将に掴みかかった。
それは賭けだった。
ベスを呼び戻す。失敗すれば、イノセンスに命を吸い取られてしまうほどの肉薄。
「戻ってこい、ベス! 俺と一緒に来い! 俺を独りにするなあぁぁぁぁッ!!」
「あっぁっ……暖かい熱……光……?」
苦しそうに言葉を発する。
ベスがイノセンスの洗脳と戦っているのだろうか?
「そうだ、兄さんと帰ろう!」
「こ、こんなものが……いくら積み重なっても……そう……なにも……」
ベスの目から血の涙が消え、その白い肌に血が戻るように色を帯びた。
ダレスとザインは慎重に剣を構え、2人を挟むが攻撃はしない。
7体の人体兵器として造られ、言わば義兄弟のよう関係である。
「その熱がお前の命を暖めているんだ!」
必死にベスを呼び戻そうとするアレフ。
「アレフの思いが伝わらなければ……」
ダレスが言う。
だが、聖剣をベスに向け、いつでも攻撃はできる体制は崩さない。
今攻撃すれば、アレフは必ず妹を守るためにダレスに剣を向けるだろう。
「何を言おうが今更……」
ザインはベスの後ろを陣取る。
回復力があっても、頭や心臓ならば、僅かに蘇生する時間は遅れるはずだと。
「アレフの思いが伝わった……? 」
降魔の儀でベスを生贄にしたときから自ら育てた闇に光は滅ぼされると確信した。
しかし、光を滅ぼしたのは同じ光だった。
ギメルは神に祈る、ベスを助けてほしいと。
「もはや……止めるすべなどない……光は滅ぶ……滅びべくして……」
「イノセンス! 俺と勝負しろ! ベスから出てきて俺と一対一で戦え!」
「じゃ、邪魔をするなあぁぁぁぁッ!!」
悪魔が身をよじり、アレフから離れる。
明らかにベスの身体から闇の瘴気が立ち上り、その正体を現そうとしていた。
「私は今、神話を目の当たりにしている」
魔神を降臨できるはずはない。
だが、ベスの身体は何かから解放されつつある。
ギメルもベスに駆け寄り、至高神の奇跡を唱える。
「光が恐れる予言の日だ、光こそ闇の福産なのだと!」
遂にベスが倒れ込み、アレフが抱きとめた。
その背後には悪魔将イノセンスが姿を現す。
その姿はベスに擬態したままだが、明らかに闇の勢力であることはわかった。
そしてその手には魔剣。
「このイノセンスが本気を出した以上、この大陸は今日、滅亡する!」
姿を現した悪魔将。
実体を晒したからには首を跳ねるか、心臓を刺すかで悪魔と言えどもダメージを与える。
「「今だっ!!」」
ダレスとザインの斬撃がイノセンスを襲った。
イノセンスは両手から伸びた爪で剣戟を受け止める。
ベスのときとは違い、イノセンスは魔剣で剣を受け止め弾き返したのだ。
「時間がない! イノセンスの魔法力が解放されるぞ!」
ギメルは渾身の力でドラゴンスレイヤーを拾い上げた。
ベスを救助できた以上、彼は全力で戦えるだろう。
――貰った!
ザインは弾き返された勢いをそのまま利用し、回転してイノセンスの首を狙う。
だが、バルムンクはイノセンスの伸びあがった鋭い爪で防がれてしまう。
バルムンクではイノセンスにダメージが与えられない。
「し、しま―――ッ!?」
そして、その爪で斬り上げられたザインは宙を舞った。
「これで神刀とは笑わせる! 剣というのは―――ッ」
イノセンスの魔剣に闇の光が閃光する。
「ま、まさか……ソウルブレイク!?」
ダレスは距離を取って盾を構えた。
イノセンスの持つ剣は暗黒教団が秘術で作り出した闇剣ソウルブレイクに酷似していたからだ。
「模造品との違いを見せてやろう! この秘宝ソウルスティールは魂を引き抜く!」
その魔剣はダレスの盾を紙切れのように斬り裂いた。
「うおおおぉぉぉ!」
ベスをギメルに預け、ドラゴンスレイヤーを受け取ったアレフが渾身の力で大剣を振りかぶる。
「俺の命をみんなに貸すぞ!」
アレフは自らの身体を犠牲にして相打ちを狙う作戦だった。
もちろん、ドラゴンスレイヤーの一撃でイノセンスは倒せない。
だが、ダメージを与えれば、その再生能力はやや鈍る節があった。
そこにダレスのティルフィングでイノセンスの腕を斬り落とす。
一瞬で蘇生するが、聖剣であれば、ソウルスティールを落とすであろうと。
ソウルスティールは死んでも離さない。
後はザインにソウルスティールがあれば、イノセンスを倒せると。
ザインにエクスカリバーを与えれば戦争は勝てたと後日談で語られるほどなのだから。
ドラゴンスレイヤーがイノセンスの肩口に食い込んだ。
「そんなことで、この私が倒せるものか!」
上級悪魔もドラゴンも屠る大剣の一撃がイノセンスには通じなかった。
だが、目的はイノセンスの魔剣を奪うこと。
そして、ソウルスティールはアレフの心臓を狙う。
「―――お兄様ッ!!」
だが、ベスがアレフの前に躍り出る。
イノセンスの魔剣がベスを貫く。
―――奪った……っ
ベスはソウルスティールを掴み、離さない。
皮肉にも暗黒司祭のベスは魔神ネメシスに心の中で祈った。
(あなたの従僕に、力をお与えください……ネメシス様……)
「ベス!」
アレフがドラゴンスレイヤーを離し、倒れるベスを支えた。
そしてダレスがイノセンスの両腕を斬り落とす。
瞬時に蘇生するが、やはり一瞬の身体から斬られた腕から魔剣は離れ、ベスを貫いた魔剣を手放すことになる。
「守りたい世界があるんだッ!!」
次は首だとダレスは聖剣を斬り上げた。
「ぐうぅっ」
イノセンスは爪で聖剣を振り払うとダレスを横薙ぎに振り払う。
血飛沫を上げたダレスが吹き飛ばされ、床に転がった。
「……魔剣で……イノセンスを……」
ベスは崩れ落ち、床に伏す。
アレフは魔剣をベスから引き抜く、鮮血が舞う。
英雄が聖剣を引き抜く英雄譚は数多く存在するが、現実はあまりにも残酷だった。
アレフはイノセンスをソウルスティールで突き抜く。
「うおおおぉぉぉッ!!」
心臓を貫く。
悪魔といえど、首と心臓は唯一の弱点。
それを魔神ネメシスの剣で貫かれたのだ。
イノセンスが悪魔将だろうと、命は奪われる。
イノセンスは魔剣に貫かれたまま、大の字に床に倒れた。
「ネメシス様……」
そして、悪魔らしく黒い硝煙となって消えた。
悪魔が死ねば、そこに魔石が現れるが、墓標のように床に突き刺さったソウルスティールがイノセンスの魔石なのであろうか。
ソウルスティールは消滅せずに残ったのだ。
この死して魔石を残さなかったイノセンスが魔人王なのか魔人将なのか、ドッペルゲンガーなのかは議論されることになる。
ただ、魔人将以上の悪魔が死するときは魔石ではない何かになることが確認されることは十数年後。
「ベス! イノセンスは倒した。ベス! 目を覚ませ! ギメル、早く!」
アレフはベスを抱き起す。
彼女の眼は開くことはなかった。
目じりに浮かぶ涙は血の色ではない。
命を魔剣に奪われ、眠るように天に召されたのだ。
ギメルが駆け寄り、癒しの奇跡を唱えるが、ソウルスティールに裂かれた傷は消えたものの、ベスが蘇生されることはなかった。
「ベス……俺の命で生き返るのなら……っ」
アレフがぎゅっとベスを抱きしめた。
そしてベスは悪魔を宿したからなのだろうか、イノセンス同様に黒い硝煙となって徐々にその姿を消したのだ。だが、彼女が魔石になることはなかった。
ギメルも兄妹の邪魔になってはいけないと思ったが、一言だけ言葉が漏れた「まさに暗黒の女神……」と。
闇の中に光輝くという意味で漏れた言葉であった。
「ベスはイノセンスと必死に戦い……世界を救ったんだ」
ダレスも胸を押さえながら、消えゆくベスを見つめ、至高神の印をきり黙祷した。
聖騎士の鎧は光の加護がある。
爪で抉られた生々しい甲冑は悪魔将と戦った証となるだろう。
そしてザインは魔法陣の中央部分に突き刺さったイノセンスの墓標となったソウルスティールを引き抜いた。
手から血が滴り、魔剣の刃に垂れるとその血は刃に舐めとられたかのように消える。
「ザイン……その剣を破壊する。それは剣であり、魔石ではなく秘宝と呼ばれる危険なものだ。そのままにしておけば、第二のイノセンスが復活してしまう。ネメシス神に返還する」
ギメルの言葉にザインは俯いたままであった。
そして――――――
「俺はベスに憧れていた。イノセンスを降臨させてからのベスの圧倒的な力にだ」
ザインの言葉に3人は耳を疑う。
結果的にイノセンスに操られてしまったベスがうらやましいのかと。
「圧倒的な魔力は、まさに悪魔王そのものだった……ネメシスの傀儡とは思えん」
「貴様……まさか……」
ダレスは聖剣を握り込む。
ザインがソウルスティールを自分のために使うと確信したためだ。
ザインが本当に神刀を手にいれた瞬間。
バルムンク以上の剣を手にすれば大陸のパワーバランスが崩れるとまで言われるザインの強さ。
「俺はアレフのように戦う理由がなく、お前やギメルのように至高神レイアを崇拝する気もない」
ザインの表情からソウルスティールに魅入られている様子はなかった。
だが、エクスカリバーやソウルブレイクを超える剣を手にした大陸最強の剣士は続けた。
「俺は教団によって造られた人造の悪魔だ。戦うために造られたが、結局は(戦争に)勝てなかった……」
「もぅ過去のことだ! イノセンスを倒した勇者が……無様な真似をするな!」
ダレスはじりじりと距離を詰める。
勝てないことはわかっていたが……
「俺にとって、あの戦争はまだ続いている……」
「戦争だと? ヴァルハラント(帝国)は負けたんだ! 俺たちはローザリアに忠誠を誓った。民主主義に、だ!」
「……アンタを殺したくないんだ」
ザインは後ろにいるダレスに呟く。
兄弟同然に育った彼らを殺したくない。素直な気持ちを吐露した。
「仲間にならないなら……殺すしかない」
「……ガイゼリック皇帝の論理だな……独裁主義だ。私の使命を果たす」
「果せるかな?」
そう言ってザインはソウルスティールを横薙ぎに振るう。
その斬撃は闇の衝撃波を作り出し、瞬時にダレスを壁まで吹き飛ばしたのだ。
剣風でA級闇魔法であるダークマターを放ったのである。
ギメルは倒れるダレスに駆け寄った。
「ザイン……目的はなんです?」
ギメルが問う。
「こんな世界は滅ぼした方がいい……」
ザインはソウルスティールを見つめる。
「ベスはイノセンスごときに操られたが、俺は違う! この剣があれば、戦争の抑止になる!」
暗黒教団に伝わる転生の術。
それは魔石の中に秘宝と呼ばれる希少な魔石がある。
その秘宝に己の命を捧げると魔神ネメシスの使徒に転生する。
「ザイン……ソウルスティールがある以上、それだけで誰もお前に勝つことはできない。悪魔を従えるつもりなのか?まるで第二のイノセンスですね」
「俺にはその資格がある」
「ネメシス神の下僕になるだけだぞ、ザイン……」
「ザインか……7番目に造られたからザイン……。俺こそ世界に真の平和を取り戻す! 永遠に戦争のない世界を作って見せる!」
――――シュッ!
ザインはなんとソウルスティールで自らの首を裂く。
「ザインッ!!」
「かつて秘宝を使った一匹のオルグがヘカトンケイルなる悪魔王になったという……」
ギメルが駆け寄るが、ザインの肌は血の気が引いたように白くなり、血の涙が垂れる。
「俺は魔王になった……アスガルドの真の帝王になるべくして!」
真の魔王が誕生した瞬間だった。
そして魔王が魔剣を振りかぶる。
「神に背きし、剣の極意……その目に焼き付けるがいい」
ソウルスティールの斬撃。
アレフ、ギメル、ダレスの視界が闇に染まった。
大戦が終結し、大陸は白虎王と黒狼王の支配下に二分されたが、魔王ザインの誕生から、皮肉にも大規模な戦いは起きていない。
アスガルドを憂う者として第三勢力となった悪魔王ザインと上位の悪魔たちは闇から大陸を操る存在として歴史に刻まれていく。




