意義あり!
【第1章 卒業パーティー】
『絢爛豪華』
この場所を表すとしたらこの四字熟語が良く似合う。
天井には花鳥風月が描かれた絵が何枚も填められており、そこから吊り下がる五層のシャンデリアの輝きがより会場を華やかに導いていた。
ここはウルガガン王国の王城である。
今日ここで王立学園を卒業する生徒のパーティーが開かれる。このパーティーを終えると卒業生は大人の仲間入りとなる大事な行事である。
そのため、貴族は令息・令嬢の為に自身の財力が許されるくらい豪華なドレスや装飾品を身に付けている。
平民も学園が衣装の貸出しを行って参加出来るようにしている。
何より、今年の卒業パーティーは例年の卒業パーティーと少し違う。
今年の卒業には第一王子、宰相のご子息、騎士団長ご子息と、それぞれの婚約者がいる。
皆が彼らが現れるのを未だか未だかと待っている。
その主役がこれから問題を起こすとは誰も思わない。
「おや、ミスト君も来ていたのか?平民と同じように貸し衣装だったから気付かなかったよ」
話掛けて来たのは同じ男爵令息であるワークスだ。
ワークスの家は商いを営んでおり爵位の割には裕福で、見た目も良い事から複数の平民の女性を侍らせている。
この男には正式な婚約者がいた。
彼女はの領地は数年前の水害による復旧作業に多大なる資金が必要となり、令嬢が婚約と言う人身御供と言う形で男爵家より援助をして貰っている。
それを良いことにワークスは令嬢を蔑ろにして浮気三昧の生活を送っていた。
子爵令嬢は金色に輝く髪に淡いブルーの瞳と見目麗しく学園でも人気者であるが、ワークスはそれが面白くないのか彼女は花として会場を『憐れ』と言う言葉で陰ながら輝かせていた。
「おい、聞いているのか?俺様が話し掛けているのに何を無視している!」
俺様って言っても同じ男爵令息の癖に。
相手にするのも疲れる。
爵位も同じなので無視する事にしよう。
これから重大なイベントが始まるのだから。
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【第二章 意義あり!】
本日の主役の一人が漸く現れた。
マルベール公爵令嬢のアマリス様だ。
私はアマリス様に拍手を贈る。後ろでキャンキャンと吠える鳴き声は無視してアマリス様の様子を伺う。
アマリス様は婚約者にエスコートされる事なく現れたことにより、皆がざわつき、何時もと違う注目を浴びているが、毅然としており流石は公爵令嬢だと尊敬しまう。
続いてグラバース侯爵令嬢リリアンヌ様、ハビリアン伯爵令嬢ティティス様が登場するも皆が一人で登場している。
会場のざわつきが大きくなると、エスコートするべき第一王子マルクス殿下、オーガス宰相のご子息レニール様、ガルガドス騎士団長ご子息ダコニスの三人が一人の令嬢と共に現れた。
会場に現れた第一王子マルクス殿下がアマリス様を睨み付けている。
いよいよ始まるようだ、馬鹿げた断罪劇が。
「アマリス・マルベール!」
卒業パーティーに相応しくない、いや貴族としても相応しくなく大声で叫ぶマルクス殿下とそれを諌めようとしない側近達。
いよいよ始まるかと、男は手に持った飲み物を飲み干すと喉の準備を整える。
「何でございましょう?」
「この性悪女が!お前はここにいるパルダニ男爵令嬢ニーニャに対する数ある嫌がらせを行い、あろうことか階段から突き落とす行為など許される行為ではない。貴様の品格は王家の妃に相応しくない。よってアマリス・マルベールとの婚約を破棄する!」
「意義あり!」
タイミングは間違いなし。
意気軒昂と断罪劇に酔いしれていたマルクス殿下は、思いもしない意義の申し立てに阿保面をしながら声が上がった方を見ている。
主役の七人を取り囲むように出来た人の輪から十戒の如く人の波が綺麗に裂かれ声を上げた男を劇場へと導いた。
「わたくしは、マルゴス男爵家三男オニキスでございます」
「ふん!男爵家ごときが出娑張るな!」
「その男爵家ごときがお隣にもおられるようですが?」
「か、彼女は特別だ!お前に・・・」
マルクス殿下がボロを出さないようにか、レニールが静止する。彼は「ここは私が」と言いたいのだろう。
学年一の秀才かも知れないが、主君を諌める事も出来ない愚鈍だ。
「マルクス様、ここは私が・・・」
レニールはマルクス殿下許可を貰うと、オニキスの方を見る。如何にもインテリらしく眼鏡を人差し指でクイッと上げるとオニキスに向け不適な笑みを浮かべる。
「それで、あなたが言う異議とは?」
「はい、マルクス殿下が言われたアマリス様の罪状ですが、アバウト過ぎます。公爵令嬢を裁くのですからもう少し具体的に述べて頂かないと」
「構いませんが宜しいのですか?男爵令息が軽はずみな行動をとって?象は蟻の事などを気にせず踏み潰してしまいますよ」
「ご忠告感謝致します。私ごときの者を心配して頂けるとは思いもしませんでした。心中では、今回の件でご自身の立場が危うくなるにも関わらずありがとうございます。ですが、私もウルガガン王国にて貴族として教えを受けてきた身、貴族としての矜持として三人の令息が一人の令嬢を責め立てるような卑怯者を野放しにするわけにも行きませんので。それと象は意外と臆病らしく危険と感じるものは避けて歩くらしいですよ」
男爵令息ごときの物言いにレニールの眼鏡を上げる回数が増える。優雅な笑顔が、ひきつっており、感情が丸解りだ。次期宰相と騒がれるわりには全く父親の足元にも及ばない。
「宜しいでしょう。私の方からアマリスの犯した罪を事細かく説明致します。先ずそこにおりますアマリスは・・・」
オニキスはあろう事か「意義あり!」とレニールの話を遮る。レニールは侯爵令息だ。オニキスよりも遥か上の上位貴族である。その上位貴族に対し話を遮るなど、それだけでも不敬罪として処罰されてしまう。
「失礼を働き申し訳御座いません。ですが、不敬な発言には不敬罪は適用されません。アマリス様は公爵令嬢です。呼び捨てにして良い身分の方ではございません。ご自身の感情で罪状を述べるのは私情が含まれていると思われ心象を悪くされてしまいますよ。次期宰相を目指されるなら気を付けた方が宜しいかと」
レニールから歯軋りの音が聞こえ眼鏡を上げる回数が明らかに増えた。
もはや調整をして貰った方がいいかもしれない。
男爵から貴族として当たり前の事を忠告されたのだからプライドが許さないのだろう。
プライド・・・
これからもっと砕かれるのに今から揺らいでいて最後まで持つか心配してしまう。
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【第三章 罪状①令嬢への暴力】
「ご忠告ありがたく承ります。アマリス様は私の婚約者リリアンヌ嬢とダコニスの婚約者ティティス嬢の三人で結託してそこにおりますニーニャ嬢に暴力行為を行ったのです」
「成る程、ニーニャ嬢、先程の話は本当ですか?」
「貴様、ニーニャが嘘を着いていると言うのか?」
マルクス殿下がか弱いふりをした化け猫を庇い一歩前に出る。馬鹿か?人なのだから嘘くらい着くだろう。
「マルクス殿下、これは正当な事実確認でございます。このような場所でこのような事をされてしまったから私もこのような形でお伺いするしかございません。どうかご理解をお願い致します(馬鹿は引っ込んでろ!)」
「くっ!」
「それでは今一度、お伺い致します。先程の話は事実ですか?」
マルクス殿下が庇う事をしないため諦めたのか件の娘の口が開く。
「わ、私、怖かったのです・・・」
「どうだ、これで解ったであろう!」
また、マルクス殿下が一歩前に出て口を出して来る。
本当にウザイ存在だ。
「何がでございましょう?ご令嬢は私の質問に答えてません。『怖かった』では暴力を受けた事にはなりません。今一度お伺い致します。レニール殿の説明された罪状はあってますか?」
「・・・」
オニキスの質問にニーニャは答えることが出来ず、無言となってしまった。
マルクス殿下は何故答えないのか困惑しているようだが、そんな事も解らないのかと呆れてしまう。
ここで「はい」と言って嘘をつけば彼女は罪に問われてしまう。
あくまでも三人が誤解した事にしておきたいのだろうとオニキスは気付いた。
「それでは、ニーニャ様からご説明願いますか?ニーニャ様も誤解されたままではお困りでしょうから」
あくまでもニーニャは悪くないと言うように誘導して自白を狙う。
「貴女はこちらのご令嬢に話し掛けたがマナーがなっていないと注意を受けたのではありませんか?」
「・・・はい」
「そして、貴女はそれが恐怖に感じてしまった」
「・・・はい」
「それをレニール殿にお話したのですね。例えば「暴力受けたくらいに怖かった」とか、「あれは言葉の暴力みたいなものよ」とか」
「・・・はい」
よし、言質が取れた。
レニールも状況を把握したのか血の気が引いて顔面蒼白となっている。
マルクス殿下は何の事か理解できずにいる。
このような男が婚約者とはアマリス様が可哀想に思える。
「と言う事はレニール殿が上げた罪状はレニール殿達が勘違いされたと言う事ですか?」
「・・・」
「答えられませんか、それでは言い方を変えますね。ニーニャ様はこちらのご令嬢達に暴力を受けた事はないですし、そのように伝えたつもりもありませんね?」
「・・・はい」
会場がざわめく。「何だこの茶番は」や「俺達の大切な時間を返せよ」などの野次がも飛び交う。
「そんな!それでは我々が・・・」
「皆様、お解り頂けましたでしょうか、この件は事件でも何でもありません。一部の者の無病呻吟だったのです。レニール殿、こちらの件に何か言いたい事はありますか?ないようでしたら次の罪状をお願いします」
何も言えないだろう。
等の本人が「何もされていない」と言っているのだから。
これで1つの冤罪は免れた。
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【第四章 罪状②器物破損事件】
「わ、解りました。ニーニャ嬢がお昼から戻ると教科書が破かれておりました。そして、そこにこちらのハンカチが落ちておりました。ハンカチにはマルベール公爵家の紋章が入っておりました」
今度は証拠品があるからとレニールは自信満々に仁王立ちしている。先ほどまで顔面蒼白していた者と同一人物と思えない。
「レニール殿、その事件が起きたのは何時ですか?」
「10月10日ですね」
在り来りの質問。
レニールも予想していた質問のようで、余裕綽々で答えてくれた。
「こちらは教師の方からお借りした紛失届けです。9月30日のこの欄をご覧下さい。ここにマルベール公爵令嬢の名前でハンカチを紛失された事が書かれております」
「意義あり!オニキス殿はその紛失したハンカチと犯行現場にあったハンカチが同じものと言いたいようですが、それが同じ物だとどうやって証明されるのですか?」
最もな意見だ。そんな事は百も承知。
だから、俺はアマリス様に助言していたのだ。
この時の為に公爵家の力を見せ付ける事を。
「アマリス様、ハンカチをお借りしても宜しいでしょうか?」
「ええ。そのような物で宜しければ差し上げますわ」
アマリス様は自身が持つハンカチをオニキスに手渡す。
差し上げますと簡単に言うが、これだけでオニキス家の食卓が一週間は潤うほど価値ある代物だ。
「それでは皆さん、こちらのハンカチをご覧下さい」
オニキスはマルベール公爵令嬢からお借りしたハンカチを広げ、皆に見えやすいように高く掲げる。
天に掲げながらレニールに近付く。
「さぁレニール殿、ここを良く見て下さい」
レニールにはオニキスの意図が解らない。
何故同じハンカチを見せられなければいけないのか。
その為、なかなか気付く事が出来ないレニールにオニキスは「解りませんか?ここですよ」と、指でマルベール家の紋章を指差す。
「・・・・!!」
レニールはある事に気付き己が持つ証拠品とオニキスが掲げている物を何回も見比べて明らかな違いに気付く。
茫然自失としたレニールの手からオニキスが証拠品を抜き取る。
「あっ!」
「レニール殿お借りしますよ。さぁ、皆さんもご覧下さい。私が右手に持つのが犯人が落としたとされるハンカチで、左手に持つのがマルベール公爵令嬢からお借りしたハンカチです」
オニキスは傍観者と化した同級生と教師に近付き二つのハンカチの紋章が縫われている部分を見せ歩いた。
皆が二つのハンカチの違いに気付く。
「皆様もお気付き頂けましたでしょうか。証拠品と提示されたハンカチは紋章だけが縫われておりますが、マルベール公爵令嬢からお借りしたハンカチにはアマリス様のイニシャルが縫われております」
「そんな馬鹿な!確かに本物のはずだ!」
皆がざわつくなか、ダコニスだけは過剰に驚きを露にしている。
それが自身が自白しているとも思わず。
「ダコニス殿、どうなされました?こちらの証拠品は今偽物ではないかと疑われております。ですが、こちらのハンカチが本物と断言出来るのはマルベール公爵令嬢からハンカチを盗んだ犯人だけのはずです。ダコニス殿、何が『馬鹿な』なのですか?何が『本物のはず』なのですか?」
「あ、いや、それは・・・」
ダコニスはしどろもどろと視線を彷徨わせ如何にも私が犯人ですと語っている。
まぁ、どうでもいい。
オニキスにとって大事なのは無実の証拠であってダコニスの口を割らす事ではない。
「まぁ良いでしょう。ダコニス殿が仰られる通りこちらの証拠品もマルベール公爵令嬢のものでありました。しかし、本日渡されましたハンカチと何故違うのかについて学園長に発言の許可を頂いても宜しいでしょうか?」
「あへ、ああ」
マルクス殿下に許可を貰おうと話し掛けるが、本人の脳ミソでは理解が追い付かずにいるようで、間抜けな顔で返事をされオニキスは危なく吹き出しそうになる。
マルクス殿下からの予想外の攻撃を耐え抜き、学園長に前に出て貰う。
「学園長はマルベール公爵令嬢のハンカチが変わった理由をご存知ですね」
「はい。ハンカチを紛失されたマルベール公爵令嬢はハンカチが何らかの犯罪に使われる可能性があると、御自身が持つハンカチを全て変えられた事を伝えられました」
「それは何時の事ですか?」
「紛失届けを出された翌日です」
傍観者のざわつきが大きくなる。
ダコニスは己が犯人ですと言わんばかりに目を泳がせ過ぎて、レニール殿は金城鉄壁と思われた証拠品が簡単に崩され左半分の力が抜けあれほど気になっていた眼鏡は完全にズレ落ち、呆然とオニキスの方を見ている。
ニーニャ嬢は悔しそうに歯軋りして睨み付けており、三人に是非見て貰いたいほど滑稽な顔をしている。
マルクス殿下は・・・只の馬鹿だから放っておこう。
オニキスはこの罪状に対する仕上げをすることにした。
「学園長、ご証言ありがとうございます。皆様も既にお解りのように9月30日の翌日である10月1日には全て新しくイニシャル入りのハンカチとされています。1枚を覗いて!そう、9月30日に紛失したこちらの証拠品以外はです」
「そ、それはマルベール公爵令嬢が態と落として言い逃れをしようとしているに違いない。それにハンカチを新しくする理由が何処にある?」
やっと、正気に戻ったのかレニール殿が眼鏡をかけ直し、既に勝敗が決まった罪状にしぶとく食らい付いてくる。
仕方がない。
それではトコトン無能さを皆に知らしめるしかない。
「レニール殿が仰られる事をまとめますと、紛失した事にして態とハンカチを残していった事になりますが、何故そのような事をする必要がありますか?」
「えっ!」
「なにも残さなければ、そもそも疑われる事がないのに何故に態々疑って下さいとご自身が不利となるものを置いていく必要があるのですか?」
「あっ!」
「それと、新しくする理由が解らないと言われましたが、彼女は公爵令嬢ですよ。その紋章が入った私物が不届き者の男によって紛失してしまったのです。悪い事に使われる可能性があるのだから当たり前の事では御座いませんか?王家の私物が紛失しても同じことをされるかと思うのですが?このような事は上位貴族なら当たり前の対応だと思い、同じ上位貴族であられますレニール殿ならご理解頂けているかと思ったのですが残念です」
「・・・」
無能だ。
レニール殿は学園一の秀才とされているが、このような所では学校の勉強が出来るかどうかではない。
あれほど優秀な宰相様からどうして、これ程の愚かなご子息が誕生されたのか不思議になってしまう。
そもそも、レニール殿の間違いはニーニャ殿の事を信じた事だ。
宰相と言う者は唯一信じるのは国王陛下のみとし、他の者の言葉は話し半分に受け取り、自身で真実を調べあげなければならない。
そもそも、そう言う考えにならなかった時点でこの男は宰相としての素質がない。
まぁいい、これでこの冤罪も無実が証明出来た。
残すは最後の階段突き落とし事件だ。
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【第五章 罪状③階段突き落とし事件】
「貴様ーーー!!!」
二人の側近が使い物にならなくなったせいか、今まで静かにしていたマルクス殿下が叫び出す。
だが、今までの話の流れは理解できていないだろう。
「訳の解らない事ばかり喋りおって、この私を巧みに騙そうとしても無駄だ!」
8バイトしかない処理能力で理解出来ない出来事に対して出した答えが『巧みに騙そうとしている』と荒唐無稽な答えを算出した分析能力に良く今までこのような無能を王太子としようとしてきたのかこの国の将来が1貴族として頭を抱えたくなる。
「こんな無駄な話しなど意味はない!アマリスがニーニャを階段から突き飛ばしたと言う事実だけで十分だ!ダコニスよ、貴様は見ていたのだろう?」
いよいよ始まった。
断罪劇の最終ステージが。
既に会場にいた文官が数名いなくなっている。
おそらく国王陛下を呼びにいっているのだろう。
マルベール公爵令嬢への冤罪証明まで後もう少しだ。
マルクス殿下に問われ挙動不審となっていたダコニルは慌ててマルクス殿下の問いに答える。
「は、はい。ニーニャ嬢が階段から落とされ階段下にいました私がお支え致しました。そして階段の上を見るとアマリス様が手を前に出して立っておられました。私が支えたから怪我なく済んだがこれは命に関わる危険性があったのでマルクス殿下にお伝えした」
傍観者からの「まさか」「そんな」と疑う声が上がる。
この声に意気揚々としたのかマルクス殿下は胸をはり、威風堂々と立っていた。
「ダコニス殿、今一度詳細にご説明願いますか?」
何故、同じことを話さなければいけないのかと苛立つダコニスに「確認の為です」と再度話すよう言うオニキスに仕方なく再び事件について詳細に話す。
「ニーニャ嬢がハンカチを階段下に落としたので、私が広いに行った所、人影が近付いて来たので見上げるとニーニャ嬢が階段から落ちてきていた。私はニーニャ嬢を支え階段の上を見上げたら手を前に出しているアマリス様がおられた。これでいいか!」
「ありがとうございます。これでハッキリ解った事がございます。ダコニス殿は現場におりましたが証人にはなれません」
「な、何を!?」
「ダコニス殿はニーニャ嬢が階段から落ちた所は見ましたが、マルベール公爵令嬢が突き落としている所は見ておりません」
「だが、アマリス様は手を前に出されていた!」
「皆さん、良く考えて下さい。目の前の女性が突然に階段から落ちようとしていた場合どうしますか?手を差し伸べて助けようとしませんか?」
「あっ・・・」
「お気付きになられた通りアマリス様はニーニャ嬢を助けようと手を差し伸べただけなのです」
「そんな・・・」
「黙れ!アマリスが手を差し伸べてたと言う証拠が何処にある!妄言抜かすではないわ!」
散々、妄言ばかりを語ってきたお前らが言うかと思ってしまった。
「マルクス殿下は可笑しな事を仰られます。アマリス様が無罪の証明をする必要はございません。必要なのはマルクス殿下がアマリス様が明らかに犯人である証拠を提出される事です」
「なっ!」
「ですが、それでは納得いかれないようですので、ニーニャ嬢に聞いて見ましょう。一番の証人は貴女なのですから、ニーニャ嬢はアマリス様に階段から突き落とされましたか?」
「あ、あの、その、突然の事で誰かに突き落とされたようなされていないような・・・」
上手いな。
これで、この娘を裁く事は難しいだろう。
これ程、人を貶める事が出来るのは寧ろ才能としか思えない。このまま処罰するのは勿体ない人材だ。
「上手く逃げましたね。宜しいでしょう、アバール殿、レンドル殿、証言をお願い出来ますか?」
オニキスの突然の呼び掛けに傍観者となっていた者達を掻き分け二人の令息が前に出てきた。
「実はアマリス様は先ほどのハンカチにて冤罪を掛けられる危険性がありましたので、勇姿を集いアマリス様が良からぬ冤罪に巻き込まれないか見張っておりました所、こちらのお二方があの事件を見ておりました。それでは発言をお願い致します」
「私達は通路の向こうからアマリス様がおられる所にニーニャ嬢とダコニス殿が手を繋いで歩いているのを見ておりました」
「手を繋いで!?」
マルクス殿下が証人の「手を繋いで」と言う証言が気になりダコニスを睨み付けると、ダコニスは再びしどろもどろし始める。
マルクス殿下が声をあげようとしたが、証言中の邪魔されては困る為、「証言中です。お静かに」と、マルクス殿下を黙らせた。
二人は話の続きをする。
「するとダコニス殿は階段下に駆け出しましたが、アマリス様は二人が後ろにいるのを気付いていないらしく、背を向けたままでしたが、ニーニャ嬢が階段から落ちようとした時にアマリス様は気付かれ、ニーニャ嬢に駆け寄っておりました」
完璧だ。
これでマルベール公爵令嬢の無実が確定した。
後はメインディッシュの到着を待つばかりであった。
オニキスにも、やっと余裕がうまれ視線を壁の花に向ける。
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【第六章 豪華なメインディッシュ】
「巫山戯るな!どうせアマリスが金でも掴ませたのに違いない!貧乏貴族の発言など証拠にはならんわ!」
「それでは、その証拠を」
「あへ!?」
だから、阿保丸出しの返答するのは反則だろ。
どうにか笑いを我慢してマルクス殿下に問う。
「本来なら犯罪を犯した証拠を提示されなくてはいけないのはそちらでございます。ですが、こちらは皆様の為に証人を用意致しました。その証人が不正と仰られるのでしたら今度こそ、その証拠を提示して頂きたい」
「そ、それは・・・」
「そもそも、王家に遣える貴族を信用出来ないと言う発言は如何なものかと。寧ろ、マルクス殿下の側近をされてますダコニス殿のような婚約者がおられるのに他の令嬢と手を繋ぐ者の方が信用出来ないと思いますが?」
傍観者の皆が頷いている。
この場は既に100対0だ。
「不敬だ・・・どいつもこいつも不敬罪で処刑してやる!刃向かうやつは皆処刑だ!」
とうとう禁句を言ってしまった。
これでマルクス殿下の将来はない。
「マルクス殿下、処刑の判断は国王陛下しか出来ません。如何に王族の方でも口にして良い事では御座いません」
「五月蝿い!五月蝿い!五月蝿い!五月蝿い!!!!
黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!だ」
「黙るのはお前だ!」
やっとメインディッシュが現れた。
マルクス殿下の保護者であるウルガガン王国ディークス国王陛下だ。
だが、オニキスの想像を越え本日のメインディッシュはかなり豪華であった。
ディークス国王陛下の後にオーガス宰相、ガルガドス騎士団長も姿を現した。
メインディッシュは豪勢な盛合せとなった。
ディークス国王陛下の登場により、皆が敬服し頭を下げる。国王陛下のお言葉により頭をあげると国王陛下は眉間に皺を寄せ額に手を宛て溜め息をついていた。
「ち、父上、本日は学園の卒業パーティーで当事者と教師以外は参加出来ませんが?」
頭痛の原因に話し掛けられ国王陛下の眉間の皺がより深くなる。
国王陛下が来なければならないような大事を犯した当事者が何を言っているのか。そもそも、ニーニャ嬢も1学年下のため、今日ここにいることが可笑しいのに。
「はぁー、お前にはつくづく失望した」
「あへ!?」
ここに来て意表をつく攻撃が炸裂した。
傍観者達も国王陛下がいるのにクスクスと笑い声が聞こえてくる。
三回目のあへ攻撃は改心の一撃であった。
国王陛下の後ろで立っているオーガス宰相とガルガドス騎士団長は二人して顔を背け肩を揺らしている。
オニキスも勝利を確信して緩んでいるなかでの改心の一撃に笑いが今にも零れそうになる。
オニキスは無駄に咳払いを繰り返し、笑いの衝動から逃げ仰せる事が出来た。
「不甲斐ないお前でも、周りがしっかりしていれば王を継ぐ事も出来るかと思い、マルベール公爵に頭を下げご令嬢と婚約を結ぶ事が出来た。また、側近にと丁度オーガス宰相とガルガドス団長のご子息が同じ年齢と言うこともあり願い出たのだが・・・」
「「申し訳御座いません」」
オーガス宰相とガルガドス団長が共に国王陛下に頭を下げる。
「いや、あやつの馬鹿が移ってしまったのだろう。オニキスよ、お主の言う通りになったな」
国王陛下の発言に皆がざわつく。
たかが男爵令息が国王陛下と知り合いで、此度の件について事前に報告していた可能性があったからだ。
「はい。つきましては、以前にお話致しました通り、三人のご令嬢の要望を聞いて頂きたいのですが」
「良い、申してみよ」
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【第七章 断罪① 歪んだ騎士】
国王陛下の許可を得られ、先ずはハビリアン伯爵令嬢ティティス様が要望を話す。
「ダコニス様は婚約者以外の令嬢と手を繋いで歩くなど目に余る行動が多く頭を悩ませておりました。
そして階段の事件ですが、マルクス殿下との噂が多き令嬢と婚約者であるアマリス様を二人にするなど騎士としてはあるまじき行動。それに二つ目の罪状にはダコニス様が関わっている節がございます。私はダコニス様を騎士として認める事は出来ません。つきましては私は婚約を白紙にして頂けませんでしょうか」
ハビリアン伯爵令嬢の申し出にガルガドス伯爵はダコニスを睨み付けている。
「折角だからお前の言い分も聞いてやろう、いいたい事があるなら言ってみろ!」
「わ、私は婚約を白紙にしたいとは思っておりません」
「そうか。だが、其は叶わぬ願いだ。何故ならお前は今日より廃嫡され平民となる。平民が伯爵家令嬢と婚約出来る訳がなかろう」
「そ、そんな・・・」
「黙れ!それと貴様には窃盗罪と偽証罪の嫌疑が掛けられている。衛兵、この者を捕えよ!」
ガルガドス伯爵の指示によりダコニスは衛兵に連行されていった。
彼の罪が明らかになるかどうかは解らない。
もし、明らかになれば窃盗罪は片手が切り落とされ、偽証罪は舌を切り落とされる。
そうなれば彼は平民となっても生きて行けるだろうか。
「ティティス嬢、此度は愚息により多大な迷惑をかけた。婚約白紙の件、私共の有責で承諾した。だが、残念だ。私も妻もティティス嬢が我が家に来ることを楽しみにしていただけに残念でならない」
あの猛将と言われたガルガドス団長から涙が零れ落ちる。
一人の歪んだ騎士によって、これ程までの悲しみが生まれてしまうとは、本人には解らない事だろう。
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【第八章 断罪③ 才能なき秀才】
次にグラバース侯爵令嬢リリアンヌ様が要望を話す。
「オーガス侯爵様、私も普段よりレニール様から蔑まれる発言に辟易しておりました。そして、此度の私どもへの罪の擦り付けによりレニール様を信用する事は出来ません。つきましてはレニール様との婚約を白紙にして頂けませんでしょうか?」
「わ、私は断罪したのはマルベール公爵令嬢でリリアンヌと婚約破棄しようなどとは思っておりません」
「ほう、ならば何故にリリアンヌ嬢の名前を出した?」
「えっ!」
「ここに来るまで文官から詳細を聞いている。お前はマルベール公爵令嬢の罪状を問う際にリリアンヌ嬢の名前も口にしたそうだな?」
「それは、あの場にリリアンヌもおりましたので・・・」
「ならば聞くが、あの場でもしマルベール公爵令嬢が有罪だとなれば、その場にいたリリアンヌ嬢はどうなった?」
「そ、それは・・・」
「お前は、お前の行動でリリアンヌ嬢と婚約破棄したいと言ったも同然だ。なのに何故に今更になって婚約破棄をしたいと思わないなどと嘘をつく?」
「・・・」
「無言か、ここでの無言はお前の不利にしかならんぞ。勉強だけ出来ても無能な者だな」
「父上・・・」
「お前は公爵令嬢に冤罪をかけた罪を償わなければならない。オーガス侯爵家は此度の不祥事を起こしたレニールを廃嫡とする。よってリリアンヌ嬢との婚約はオーガス侯爵家の有責で白紙としたい。グラバース侯爵家には後日話を伺いたい」
「畏まりました。父上に相談したいと思います」
リリアンヌ嬢の婚約解消も確定した。
レニールは冤罪の件にて詳しく話を聞く事になり、ダコニス同様に衛兵に連れて行かれた。
─────────────────────
【第九章 断罪③ 馬鹿王子】
マルベール公爵令嬢が要望を話す。
「国王陛下、度重なるマルクス殿下に掛けられる罵詈雑言や此度の冤罪によりマルクス殿下を支える事は不可能に感じております。つきましてはマルクス殿下との婚約を白紙に戻して頂けませんでしょうか?」
「巫山戯るな!私の方から婚約破棄するのだ!お前は大人しく従え!」
「巫山戯ているのはお前だマルクス。お前とマルベール公爵令嬢との婚約は王命で結ばれたものだ。私に相談なく破棄する事などありえん。それにお前は勝手に処刑と述べていたな?処刑の処罰の権限は国王のみ与えられた権現であり、王家の者に与えられた権現ではない」
「ですが、私は次期国王として・・・」
「そうか、お前は我が椅子を狙っていたと言うことか?マルクス・ナタ・ウルガガンは国王の座を狙うと言う反逆罪として捕えよ!」
国王の命によりマルクス殿下が衛兵に捕えられる。
「父上!何故私が捕えられるのですか?」
「そんな事も解らん愚か者とは・・・お前は危険すぎる。マルクスの王位継承権を剥奪する。また、マルクスの愚鈍は危険分子となるため断種の刑とし、王家から廃嫡とする」
「そんな、私がいなくなれば誰が父上の後を継ぐのですか?」
「そんな事、次の王位継承権が持つ者に決まっておろう。私の息子はお前しかおらんが王家の血は違う。マルベール公爵婦人は私の妹だ」
そう、マルクス殿下にとってアマリス様は従妹となる。
そして、現王には子供が一人しかいないためアマリス様が継承権二位であった。
と言う事は・・・
「アマリス・マルベールよ、本日より王位継承権一位とし、卒業をもって王太子とする」
「そ、そんな・・・」
マルクス殿下は膝から崩れ落ちる。
断罪するばずのアマリス様が王太子となり、王太子であったマルクス殿下は断種され平民へと放り出される。
断罪される側が断罪され、婚約破棄する側が婚約破棄されると言う珍事件は幕を閉じる事となった。
──────────────────────
【第十章 人生は奇なり】
問題を犯した三人の高貴なる令息は拘束され、明日から平民となる。
そして件の令嬢も衛兵に連行されたが、おそらく令嬢を裁く事は難しい。
それどころか、令嬢をこちら側に取り入れようとするはず。
そして、大活躍となったオニキスはオーガス侯爵家、ガルガドス伯爵家が治める領地の一部とマルクス殿下預かりとなっていた領地を褒美として授かる事となった。
それだけではない、今回は王家と貴族間に亀裂が入りウルガガン王国は危急存亡となっていた。
それを防いだ功績を称えられ伯爵の爵位を授かる事となった。
バックでマルベール公爵家が大きく動いてくれていたらしい。
後日、オニキスの伯爵位を祝うパーティーにてオニキスは花束と隠し持っている指輪を携え、壁際に立っている一人のご令嬢の前に跪く。
オニキスはフゥーと一呼吸すると指輪を取り出す。
「ファニベル・サマーリュ嬢、私は一目みた時から貴女の美しさに心を奪われてしまいました。貴女を壁の花にするなど何て勿体ない。ファニベル嬢には私の隣でファニベル嬢の笑顔を咲かせて貰えないだろうか?
ファニベル嬢、私はファニベル嬢の事を愛しております。指輪を受け取って頂けませんか?」
突然の告白劇に静まり返る。
「はい。喜んで」
一斉に歓声が上がる。
ファニベルは指輪を填めてオニキスに見せてくれた。
オニキスの夢が叶う。
全てはこの日の為に断罪劇を利用したのだ。
伯爵と領地と言う予想外のおまけがついて来たが。
「意義あり!」
皆が賑わうなか、大声で叫んでいたのは男爵令息のワークスであった。
「貴様は何を勝手に人の婚約者に話し掛けている。ファニベルも勝手に了承するな!この尻軽女め!」
そう、彼女はワークスの婚約者だった子爵令嬢であった。だが、既に過去形となっている。
「ワークス様、私達の婚約は貴方様の有責で破棄されました」
「はぁ!?我が男爵家の援助なくてはお前ら子爵家が潰れてもいいのか?」
「ああ、その件だったら俺の方で援助しておいたよ。何せ此度の件で大量に報酬を貰えたからね。なんなら、裁判を起こしてもいいけど、無駄だと思うよ。ここにいる皆が君の不貞の証拠を見ているのだから」
オニキスの一言に皆がワークスを睨み付ける。
ここにはワークスの居場所はない。
何せ今回のプロポーズを見せ付ける為に呼んだだけなのだから。
彼女のギャフンの為に。
用が済んだのでワークスにはお帰り頂いた。




