凍てつく知らせ。
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翌朝、村は凛とした冷気に包まれていた。
夜の名残を残す霧が、草原の上に白い膜を張るように漂っている。
朝靄の中を、ディランは一人歩いていた。
いつものように村の外れまで見回りをしていたが、どこか胸の奥がざわついていた。
――風が違う。
鳥の声が途絶え、森の奥で何かが息を潜めている。
小さな村に似つかわしくない、重たい沈黙。
それは彼の魔力の感覚を通じて、確かな「不吉」として伝わってきた。
「……来るか」
呟いた刹那、丘の向こうから馬の蹄の音が響いた。
駆ける影――バルゼナ王国の紋章を掲げた騎士の一団だ。
先頭には見慣れた金の髪。
女騎士アルノルト。
彼女の顔には旅の塵と疲労、そして焦燥の色が滲んでいた。
「ディラン殿! 急を要する!」
彼女は馬から飛び降り、まだ息を整える間もなく叫んだ。
「氷葬の将――セリュネが……動いた!」
その名が告げられた瞬間、空気が凍りつく。
春のはずの風が、まるで冬の刃となって肌を裂いた。
「セリュネ……だと?」
「北の氷原が崩れ落ち、雪嵐とともに魔の軍勢が出現した。
氷に閉ざされていたはずの王都セリュネムが……再び姿を現したんだ」
ディランの眉がわずかに動く。
セリュネ――八魔将の一人、“氷葬”の異名を持つ魔女。
その力は大地を凍てつかせ、命の鼓動さえ封じるといわれていた。
「報せは確かか?」
「ああ。バルゼナ王国の北方領がすでに氷に飲まれた。
……陛下は即座に、レグナント王国との共同戦線を要請された」
「つまり――我々が動く番か」
⸻
その頃、領主館ではリリアーネとクラリス、ミュナ、エルシアたちが集まっていた。
朝早く叩き起こされた彼女たちは、まだ事態を呑み込めずにいる。
「セリュネ……それって、また魔将のひとりなの?」
ミュナの声は震えていた。
「ええ。“氷葬のセリュネ”。
彼女は氷と死の魔を司る。冷気に触れたものは、心臓さえ凍りつくと伝えられています」
エルシアが淡々と答えたが、その瞳は深い憂いを帯びていた。
「でも、どうして今……?」
「おそらく――ザハリエルの指示だろう」
扉を開けて入ってきたディランが、静かに言った。
その後ろにはアルノルトと数名のバルゼナ兵。
リリアーネが立ち上がる。
「ディラン様、まさかまた……」
「行く。もう避けられない」
その言葉に、空気が重く沈む。
ミュナが立ち上がり、拳を握る。
「じゃあ、あたしも行く! 放っておけないよ!」
「お前は駄目だ」
「なんで!? 今までだって一緒に戦ってきたのに!」
「今回は……寒さが違う。お前の魔法じゃ、氷の呪いを防げない」
ディランの声は厳しくも、優しかった。
ミュナは唇を噛み、泣き出しそうな顔で俯いた。
「……でも、帰ってくる約束してね。
絶対に、ちゃんと帰ってきて」
「ああ。約束する」
その短い言葉が、静かな誓いとなって残った。
⸻
夕刻。
村の入口では、ディラン、セリナ、そしてアルノルトの三人が馬に乗っていた。
見送りに来たリリアーネが風に髪を揺らしながら微笑む。
「どうか、無事で。……必ず」
「任せろ。俺たちはまだ負けてない」
セリナが軽く手を挙げて笑い、アルノルトも頷く。
ディランは馬の手綱を引き、村を振り返る。
小さな灯がぽつぽつとともり、子どもたちの笑い声が遠くに聞こえる。
――この景色を守るために、俺はまた剣を取る。
空の彼方には、北方の氷嵐がわずかに見え始めていた。
灰色の雲の中、青白い稲妻のような光が走る。
それは“氷葬”セリュネの目覚めを告げる光だった。
⸻
そして夜。
旅立った彼らを見送った村では、エルシアが一人、夜空を見上げていた。
「ディラン様……また、嵐の中へ行ってしまうのですね」
小さく祈るように呟き、胸元のペンダントを握る。
そこには、レグナントの古い紋章が刻まれていた。
その光が、一瞬、青白く瞬いた。
――まるで遠くの氷嵐が呼応したかのように。
久しぶりの最新話です。
まだまだ描きます。




