表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/37

凍てつく知らせ。

読んでいただきありがとうございます。

できればブックマーク登録してこの作品を追っていただけると嬉しいです!また、感想もいただけるととても励みになりますし、著者が喜びます。ぜひ気兼ねなくコメントいただけると嬉しいです。

翌朝、村は凛とした冷気に包まれていた。

 夜の名残を残す霧が、草原の上に白い膜を張るように漂っている。

 朝靄の中を、ディランは一人歩いていた。

 いつものように村の外れまで見回りをしていたが、どこか胸の奥がざわついていた。


 ――風が違う。


 鳥の声が途絶え、森の奥で何かが息を潜めている。

 小さな村に似つかわしくない、重たい沈黙。

 それは彼の魔力の感覚を通じて、確かな「不吉」として伝わってきた。


 「……来るか」


 呟いた刹那、丘の向こうから馬の蹄の音が響いた。

 駆ける影――バルゼナ王国の紋章を掲げた騎士の一団だ。

 先頭には見慣れた金の髪。

 女騎士アルノルト。

 彼女の顔には旅の塵と疲労、そして焦燥の色が滲んでいた。


 「ディラン殿! 急を要する!」

 彼女は馬から飛び降り、まだ息を整える間もなく叫んだ。

 「氷葬の将――セリュネが……動いた!」


 その名が告げられた瞬間、空気が凍りつく。

 春のはずの風が、まるで冬の刃となって肌を裂いた。


 「セリュネ……だと?」

 「北の氷原が崩れ落ち、雪嵐とともに魔の軍勢が出現した。

  氷に閉ざされていたはずの王都セリュネムが……再び姿を現したんだ」


 ディランの眉がわずかに動く。

 セリュネ――八魔将の一人、“氷葬”の異名を持つ魔女。

 その力は大地を凍てつかせ、命の鼓動さえ封じるといわれていた。


 「報せは確かか?」

 「ああ。バルゼナ王国の北方領がすでに氷に飲まれた。

  ……陛下は即座に、レグナント王国との共同戦線を要請された」

 「つまり――我々が動く番か」



 その頃、領主館ではリリアーネとクラリス、ミュナ、エルシアたちが集まっていた。

 朝早く叩き起こされた彼女たちは、まだ事態を呑み込めずにいる。


 「セリュネ……それって、また魔将のひとりなの?」

 ミュナの声は震えていた。

 「ええ。“氷葬のセリュネ”。

  彼女は氷と死の魔を司る。冷気に触れたものは、心臓さえ凍りつくと伝えられています」

 エルシアが淡々と答えたが、その瞳は深い憂いを帯びていた。


 「でも、どうして今……?」

 「おそらく――ザハリエルの指示だろう」

 扉を開けて入ってきたディランが、静かに言った。

 その後ろにはアルノルトと数名のバルゼナ兵。

 リリアーネが立ち上がる。

 「ディラン様、まさかまた……」

 「行く。もう避けられない」


 その言葉に、空気が重く沈む。

 ミュナが立ち上がり、拳を握る。

 「じゃあ、あたしも行く! 放っておけないよ!」

 「お前は駄目だ」

 「なんで!? 今までだって一緒に戦ってきたのに!」

 「今回は……寒さが違う。お前の魔法じゃ、氷の呪いを防げない」


 ディランの声は厳しくも、優しかった。

 ミュナは唇を噛み、泣き出しそうな顔で俯いた。


 「……でも、帰ってくる約束してね。

  絶対に、ちゃんと帰ってきて」

 「ああ。約束する」


 その短い言葉が、静かな誓いとなって残った。



 夕刻。

 村の入口では、ディラン、セリナ、そしてアルノルトの三人が馬に乗っていた。

 見送りに来たリリアーネが風に髪を揺らしながら微笑む。

 「どうか、無事で。……必ず」

 「任せろ。俺たちはまだ負けてない」

 セリナが軽く手を挙げて笑い、アルノルトも頷く。


 ディランは馬の手綱を引き、村を振り返る。

 小さな灯がぽつぽつとともり、子どもたちの笑い声が遠くに聞こえる。

 ――この景色を守るために、俺はまた剣を取る。


 空の彼方には、北方の氷嵐がわずかに見え始めていた。

 灰色の雲の中、青白い稲妻のような光が走る。

 それは“氷葬”セリュネの目覚めを告げる光だった。



 そして夜。

 旅立った彼らを見送った村では、エルシアが一人、夜空を見上げていた。

 「ディラン様……また、嵐の中へ行ってしまうのですね」

 小さく祈るように呟き、胸元のペンダントを握る。

 そこには、レグナントの古い紋章が刻まれていた。


 その光が、一瞬、青白く瞬いた。

 ――まるで遠くの氷嵐が呼応したかのように。

久しぶりの最新話です。

まだまだ描きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ