集結
楽しんでみてください!
レグナント王国の王都――ラグランジェ。
陽光に煌めく白壁と黄金の尖塔、その姿は長い戦乱を越えてなお威厳を保ち、人々に安堵をもたらしていた。
だが今、その街はかつてないほどの緊張と期待に包まれていた。
通りを行き交う人々が皆、空を仰ぐ。
王都の東門に、見慣れぬ紋章を掲げた行列が現れたからだ。
――砂漠の王国、ザルハンの紋章。
そして、その旗の中央を歩くのは、黒衣の男と、薄紅のヴェールを纏った王女だった。
「見ろ、あれが“闇の賢者”だ……」
「ディラン様だ! 本当に……戻ってこられたんだな!」
民の間に歓声が走る。
戦乱の時代、彼が一度去った辺境から生還し、そして今度は異国の王女を伴って戻る――それはすでに伝説の一幕であった。
ディランは馬上から人々に軽く手を上げ、微笑んだ。
「……ずいぶん賑やかだな」
隣で手綱を握るリィナが、わずかに頬を染めた。
「皆、あなたを信じていたのね。あなたが帰ってくるって」
「いや、帰るべき場所が残っていたからだ」
ディランの視線の先、王城の塔が見える。その上空に、王国の象徴――黄金の竜の旗がはためいていた。
その後方には、いつもの顔ぶれもいた。
セリナが馬上で荷を抱え、村の代表として明るく手を振る。
「ディラン! 私たち、やっと戻ってきたね! ……あっ、あの屋台まだある!」
「お前、どこ見てる」
「商人魂は抑えられないの!」
軽妙なやり取りにリィナが小さく笑う。
エルシアはそんな二人を静かに見つめ、遠くの王城へと視線を向けていた。
彼女の瞳に、古の記憶が揺れている。
「……王の血が、また集うのね」
その呟きは、風に溶けて誰にも聞こえなかった。
⸻
王城へ到着すると、迎えの兵士たちが整列し、一斉に槍を掲げた。
「闇の賢者ディラン殿、そしてザルハン王女リィナ殿のご帰還をお迎えします!」
荘厳な声が大広間まで響き、黄金の扉が開く。
そこに待っていたのは、かつての仲間であり、盟友たちであった。
玉座の間には、ディアナ王妃がいた。
深紅の礼服に身を包み、柔らかな笑みを浮かべてディランたちを迎える。
その隣に立つのは、成長したレオニール王子。
そして、少し緊張した面持ちで微笑むセレナ姫の姿も。
「ディラン……本当に、よくぞ戻ってくれました」
ディアナ王妃の声には、抑えきれない安堵が滲んでいた。
「貴方の知らせが途絶えた時、皆、不安に押し潰されそうでしたのよ」
「ご心配をおかけしました、陛下。ザルハンの封印は、ひとまず成功です」
ディランの言葉に、玉座の前の一団がざわめいた。
その中には、もう一つの国の王家の姿があった。
バルゼン四世。
堂々たる体躯に、鉱石を模した王冠を戴く男。
隣には、白金のドレスを纏う王女イリス。
そして、その後方には、銀鎧を纏った一人の女性――
バルゼナ王国騎士、アルノルトが控えていた。
「再び会えて光栄です、ディラン殿」
アルノルトが一歩前に出て、凛とした声で告げる。
「バルゼナの地で共に戦ったこと、誇りに思います」
「俺もだ。……あの戦いが、今を繋いでくれた」
短い言葉の中に、深い信頼があった。
バルゼン四世が玉座の前に進み出て、低く声を響かせる。
「レグナントの王妃殿下。この会談、我が国も全力で協力する所存です。
我ら三国の絆こそが、再び世界を闇に飲まれぬ礎となるでしょう」
その言葉に、ディアナ王妃が頷く。
「ええ。……今日、この日こそ、血と意志を結ぶ新たな始まりです」
⸻
会談の準備が進む中、
ディランは静かに大広間の壁に掲げられた古の地図へと目をやった。
そこには、八つの印が刻まれている――オクタヴォス。
すでに二つが消えた。
紅蓮王イグナド、飢獣オルグラ。
だが、まだ六つの印が赤く光を放ち続けている。
そのうちのひとつが、まるで生きているかのように脈動していた。
“幻奏リュシフェル”。
彼はまだ動いている。
そして――この世界のどこかで、次の災厄が芽吹こうとしている。
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