紅蓮の記憶
この小説は一部残酷描写を含みます。
苦手な方はページを閉じてください。
「ねぇ、大人になったら何になりたい?」
幼い頃、そう言って俺は親友の顔を見た。
「俺は、まだ何にも決めてないや。お前は?」
「俺はね・・」
いつも夢に見る、幼い頃の思い出。
あの頃は毎日が幸せだった。
父さんも母さんも、祖母ちゃんも祖父ちゃんも生きていたし、母さんのお腹には赤ん坊が宿っていた。
朝起きてご飯食べて、歯磨いて、学校に行って、友達としゃべりながら帰って、放課後は友達と遊んで、いつも家族で食卓を囲んで、宿題して寝て。
平和だけど平凡で退屈な毎日が、この先ずっと続くと思っていた。
俺も、家族も、そしてあいつも、そう信じていた。
だが残酷な運命と現実は何の予告もなく、俺達に襲いかかってきた。
“その日”は突然やってきた。
いつものように俺はゆっくりとベッドから出てきて、階段を下りてリビングに行った。
「早くご飯食べちゃいなさい。」
「はぁ~い。」
ソファでは祖父ちゃんと祖母ちゃんが日本茶を飲みながらテレビのワイドショーを観ていた。
“現在、S共和国の国境付近では、大勢の難民が空爆に怯えながら国境を越えています・・”
「また戦争か。あの国は数ヶ月前に内戦が終わったばっかりだというのに・・」
祖父ちゃんがそう言って溜息を吐いた。
「じゃ、行ってきま~す!」
俺はランドセルを背負い、リビングを出て行った。
「行ってらっしゃい。今日はお父さんの誕生日だから、早く帰ってくるのよ。」
母さんは手を振りながら俺に微笑んでくれた。
「わかってるって!」
それが母さんの姿を見た最後だった。
「おっはよ~!」
学校に行って友達に声をかけると、彼らは笑顔を浮かべながら俺の方に走ってきた。
「なぁ、今度家に遊びに行ってもいいか?この間誕生日に買って貰ったゲームあるからさ、それで遊ぼうぜ!」
「あのゲーム手に入ったのか!?」
友達の1人は、数ヶ月前に発売され、品薄が続く人気ゲームソフトをゲットしていた。
「じゃあ、明日遊ぶってのは?塾は明日休みだし!」
「じゃあ決まりな!」
先生が教室に入ってきたので、俺達は自分達の席に戻った。
「じゃあ次、M君読んで。」
「はい。」
俺の隣にいたMがそう言って椅子から立ち上がって、国語の教科書をボソボソと読み始めた。
「M君、もっと大きな声で読んで。」
「すいません・・」
Mは俯いてさっきよりも少し大きな声で教科書を読み始めた。
「本読みの次は、漢字の書き取りをしましょうね。みんな、漢字ドリルの47ページの問題をしましょう。」
そう言って先生が俺達に背を向けた時、轟音と共に紅蓮の炎が教室を襲った。
俺は咄嗟に机の下に隠れた。
一体何が起こったのかがわからなかった。
俺はゆっくりと机の下から出た。
先生がいた黒板の前は、瓦礫の山と化していた。
「何だよ・・これ・・」
辺りに漂う血の臭いと、同級生の呻き声。
爆発の衝撃と炎で、俺以外の者は瀕死の重傷を負っていた。
俺は隣のMが座っている席を見た。
「M、大丈夫か?」
そう言ってMの方を見たとき、俺は込み上がってくる激しい吐き気を必死に抑えた。
そこにMの姿はなく、肉片だけが散らばっていた。
俺は恐ろしくなり、ランドセルを掴んで教室を飛び出した。
学校を出ると、近所の商店街は紅蓮の炎に包まれ、近くのビルの窓からは黒煙が噴き出していた。
俺はパニックになりながら、何とか家に辿り着いた。
今朝俺が出て行った家―父さんや母さん、祖父ちゃんや祖母ちゃんがいた家は、瓦礫の山と化していた。
「母さん、祖父ちゃん、祖母ちゃん!」
瓦礫を掻き分けながら、俺は必死で母さん達を探した。
だが、母さん達は見つからなかった。
(一体何がどうなってるんだよ!?誰か教えてくれよ!)
あてもなく、俺は街を彷徨った。
みんなはどこにいるんだろう?
それよりと父さん達を探さないと・・。
そう思いながらいつも放課後に遊んでいる公園に入ると、そこには父さん達の姿があった。
「父さん、母さん!」
嬉しくて父さん達の方へ駆け寄ろうとした時、誰かに腕を掴まれた。
「あそこへは行っては駄目だ!お前も殺されてしまう!」
次の瞬間、父さん達と俺が住んでいた街の人たちは、紅蓮の炎に包まれて消えてしまった。
「父さん~、母さん~!」
幸せな日常は突然奪われ、俺の生き地獄は何の予告もなしにこの瞬間、始まった。
「わたしについて来い。わたし達の所で暮らし、お前達の親の仇を討とう。」
俺を助けてくれた男はそう言って、俺に手を差し出した。
俺はその手を、そっと握った。
それから何年か経った。
あの時俺の家族と、平和な日常を奪ったのは、T国の軍隊と、それを操っている政治家達だった。
俺は家族の仇を討つ為、軍隊に入り、過酷な訓練を乗り越えた。
いつでも死ぬ覚悟は出来ている。
俺はあの日、全てを失ったのだから。
(待ってろよ、父さん、母さん、祖父ちゃん、祖母ちゃん・・いつか必ず仇を討ってやるから!)
愛用のAK-47を握り締め、俺は深呼吸をしてロケットを開いた。
中には幸せだった頃の誕生パーティーの時の写真が入っている。
家族や友人の笑顔はもう二度と見られない。
だが、俺は未来を開くことができる。
ロケットを静かに閉じ、俺は戦場へと駆けだしていった。




