傷心配信してたら常連視聴者の中に幼馴染がいた話 ~3分後に解ける誤解と恋の結末
『たけし。動画配信しながら墓参りって不謹慎じゃね?』
コメント欄に常連達のメッセージが流れている。
たけしは俺の配信名だ。年の瀬だってのに、俺は配信をしている。
雪の上に設置されたカメラは撮影用。
そばに置かれたスマホは、コメント確認用。
現在地は地元の墓場で、時刻は日没前だ。
「ほら俺って寂しがり屋でさ。おまえらに見ててほしくてさ。ぼっちで墓参りとか鬱過ぎるだろ? 彼女もいないし、配信でもしなきゃやってられねぇよ」
『彼女いると思ってた』
『狙ってる子もいないのか?』
「好きな幼なじみはいたんだ。でも、月始めに遊びに行く約束をすっぽかしちまって……クリスマスに、そいつ、ほかの男と歩いてた」
『今好きって言った?』
「まあその話は置いといて!」
はっと吐く息が、白い。
雪だるまは海苔の眉毛が落ちかけて、泣きそうな顔だ。
『なんで雪だるま作ってるの?』
「雪だるまを墓に供えてほしい、とばあちゃ……ババアが言ったから。俺、偉いだろ」
普段は「ばあちゃん」と呼んでいるが、なんとなく「ババア」と言ってしまうこの心理はなんだろう。自分でも疑問だ。
『場所特定した』
『怖いから止めろw』
常連視聴者の『ねここ』が冗談書いてる。いつも通りだ。安心する。
『ババアの話して』
「ババアは……俺、ちょっと苦手だったな」
『辛辣。死者は敬ってやれよ』
「いや、昔は優しかったんだぜ? でもボケちまって、自分が中学生だと思いこんでいたんだよ。俺のことも分からなくなって、自分の中学時代に流行っていたアニメの話ばかり繰り返してさ」
『忘れられるのはつらいよな』
『きっっつ』
『昔はおばあちゃんっこだったのか』
去っていく視聴者もいるが、共感してくれる奴もいる。ありがとう!
しんしんと降る雪の中で、俺はばあちゃんのスマホを取り出した。
『ババアのスマホ? 中身見れる?』
「見られるわけ……そういや、パス、掛けてないんじゃないか?」
『バッテリーがないかも』
『配信用モバイルバッテリーで充電して中身見よう』
ばあちゃんは、スマホを使うのが苦手だった。
でも、苦手なりに何か弄ってた。何をやってたんだろうな?
自分の好きなアニメについて検索してたり?
実はネットに友達がいたりして?
SNSでやべー発言してたりして? ひえっ、気になるぜ。
充電して電源を入れると、面白がった視聴者が「あれをしろこれをしろ」と指示してくる。サンキューカッス。
そして、俺たちは見た。
『あっ』『アッ……』
「……検索履歴、俺のチャンネル名がある」
ばあちゃんは、俺のチャンネルを登録していた。
そういえば、俺が動画配信してるって話したことがあったかもしれない。
まさか俺のチャンネルを探し当てていただと?
というか、そのアカウント名には見覚えがあった。よく日本語があやしいコメントをくれていた視聴者だ。
「視聴履歴は……うわ、全部俺の視聴履歴じゃねぇか。最後は……あ」
『もしかして、その日に?』
「いや、翌日だ。けど……そっか、倒れる直前まで……」
喉が詰まったように、言葉が出て来なくなる。
配信中だ。何か言わないと。
スマホの画面でコメントが流れていく。読まないと。
……でも、俺の頭は真っ白で、何もできなくなってしまった。
落ち着かないと。トークしないと。
俺が何か言おうとしたとき、声がかけられた。
「見つけた、たけし」
きゅっと雪を踏む靴音がして、ふっと影が差す。
人の気配だ。誰かが俺の前にいる。
視線を移すと、幼馴染の女がいた。
手に紙コップを持っている。近くに出ていた店で買ったのか、湯気をあげていて、中身は温かい飲み物のようだった。
まっすぐ伸ばした黒髪をしっとりと雪に湿らせていて、白いマスクをしていて。
弾んだ息で、眼鏡を曇らせている。
「なんで、ここに」
ぽかんと問えば、彼女は笑った。
「特定したって書いたじゃん」
こいつ、常連のねここだったのかよ……!
「おばあちゃん、好きだったんだよね?」
動揺する俺の前で、彼女はやさしく笑って雪だるまの眉毛を直してくれた。
「約束の日に救急搬送されたって、なんで言ってくれなかったの」
「言ったら、なんか変わったのかよ。どうせおまえは……」
クリスマスの日にと、声には出さずに呟いた。そんな心の声を見透かしたように、彼女は笑う。
「一緒に歩いてたのは親戚だよ、会ったこと、あるはずなんだけどな……?」
紙コップが渡される。
甘い香りと温もりのホットココアは、美味しかった。
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