ラジオから山神様の呼び声
小学生の頃、父親と農業を営んでいる田舎の祖父母の家の畑を手伝いに行った。
その日は、家からかなり離れた畑での作業だったため、重たい農具をトラックに乗せて家を出た。
とても古くオンボロのトラックで、農業用で荷物運びにしか使ってないからか、あまり掃除されていないようで、座席からはツーンと埃と油とカビの混ざった臭いがした。
乗り心地も悪く、エンジンの稼働でガタガタと激しく揺れる。
「機械を運転してるって感じがしていいなぁ!」
父親は昔バイクを乗るのが好きだったという話を聞いていた、やはり、こういうのが好きなのだろう。目を輝かせながら、ぐねぐねとした山道の運転を楽しんでいる様子を見て、こっちも楽しくなった。
運転席と助手席の間の、普通ならカーオーディオが付いている箇所に、見知らぬ機械が付いていた。横長の目盛りとボタンとツマミが付いている。指を指し父親に尋ねた。
「これは何?」
「それはラジオだ。スイッチを付けてみろ。」
言われた通りにスイッチを付けると「ザザザザッ ガーガー」とノイズ音が流れ出した。
「ゆっくりツマミを回してみろ。」
父親の指示通りにツマミを回していくと、目盛りも連動して動いていく。
すると、ノイズしか出してなかったラジオの音に変化が現れた。太鼓や笛等の和楽器の音と、謎の呪文が流れ始めた。
「これは歌舞伎かな?変な電波拾っちゃったな。ノイズが酷くて何言ってるのかわからないな。」
笑いながらも山道を進んで行っていると、突然ラジオの音がクリアになり。
「こっちへ来い。こっちへ来い。こっちへ来い」
と何度も連呼し始めた。
突然の変化に驚いていると、父親が叫び出した。
「止まらない!止まらない!」
次の瞬間、大きな衝撃が襲いかかったと思ったら、そのままの勢いでガードレールを乗り越え、山の中に突っ込んだ。その先は1メートル程の高さの小さな崖になっており、私達は地面に叩きつけられた。
父親は激しく打ち付けられたようで、両腕、骨盤等数ヶ所骨折という大怪我を負ったが、私は幸いほぼ無傷。かすり傷と打ち身が少しあっただけだったため、携帯で助けを呼び、事なきを得た。
後に、私達は親子が落ちた崖には、山の神を奉る小さな祠があり、トラックで押し潰していたことを聞いた。
車のラジオから「こっちへ来い」と聞こえたこと、急に車が操作不能になったことを祖母に伝えると、「山神様に呼ばれたのじゃねぇ。よく帰ってこれた。」としみじみとした言葉が返ってきた。
それに父親はムスッとした顔で声を荒げた。
「最近の山神は、ラジオを操ったり、車を制御したり、現代文化にかぶれてるな!」
私はトラックの整備不良が原因だと思っている。