時計は知っていた ―迷宮探偵・驚天動地郞のワンダフル推理―
「時計の謎はすでに解けました」
探偵は高らかに言い放った。
探偵・超次元ヶ原驚天動地郞。常人の想像を遥かに越えた超絶推理で謎に挑む。
誰が呼んだか、その名も“迷宮探偵”。
「1時間ではありません」
死体は、誰も入らなかった部屋の中に突如現れた。
奇妙な点がひとつ。
男の腕時計は1時間だけ進んでいた。
「もっと大きく狂っていたのです。そう……数百年以上」
「数百年だと?じゃあ」
「彼はこの時代の人間ではありません」
探偵は答えた。
「彼は時間旅行者ですよ。時を越えて、ここに現れたのです。僕には一目で分かりました」
頭にちょんまげを結い腰には刀、獣の皮をまとって棍棒を握り、何やらあちこちに未来的な装置をつけた被害者の男。その正体をあっさりと見破った探偵の洞察力に、一同は声もない。
「犯人もまた、時間旅行者なのです」
ざわつく一同。あるいはこの中に、他の時代から時を越えてきた人間が……?
「節堂さん」
一人の男に呼びかけた。
「あなたはこの時代の人間ではありませんね?恐らく……江戸時代の人間だ」
「な、何を言うでござる。拙者は」
「そしてウンバボさん。あなたは原始時代から来た」
「ウンバボ!」
ちょんまげで着物姿の男と、毛皮をまとったほとんど裸の男は驚きの声を上げる。
「では彼らのどちらかが」
「いいえ三雷寺さん。もちろん未来人であるあなたも容疑者ですよ」
「なっ……」
機械だらけの宇宙服のようなものを着た男は、すっぽりかぶった丸いフードの奥で目を見開く。
「いくら現代人のふりをしても僕には通じません。これはそう……探偵の勘、という奴です」
隠していた正体を鮮やかに見抜かれてしまった時間旅行者たち。恐るべきは迷宮探偵の推理力。
探偵は、残る二人に目をやった。
「というわけで佐藤さんに高橋さん、お二人はお帰りになって結構です。ああ念のため捜査一課の本骨警部に連絡を」
「いや待て探偵そいつは」
「ロボットだとでも思いますか?」
青くて丸い高橋を見つめる。
「彼はただの着ぐるみですよ。僕は見てしまったんです決定的瞬間をね」
不敵に微笑んだ。
「ロボットは、どら焼きを食べたりはしないんですよ」
改めて二人を促す。高橋は隅にあった勉強机を腹部のポケットにしまい込むと、佐藤と共に出ていった。
「さて」
探偵は残る三人を見回した。
「ではこの中の誰が、恐るべき犯行を行ったのか──」
迷宮探偵・超次元ヶ原驚天動地郞。
今日もまた、ひとつの謎が迷宮の奥底へと消えていく。