敵対する神がムカつくけど、地球を滅ぼしてしまうので我慢するわ
「ばぁか、だんまりしちゃってキモいんだよ、この冷血女が」
「…………」
「なんか言い返してみろよ、根暗の癖によ」
「…………」
「ほらほら、なんか言えよグレイシア。気に喰わないならかかって来――」
「ぶっ殺す!」
そしてその日、地球は滅びた。
後に残るは荒んだ荒野と、ぼこぼこに打ちのめされるバルカンという神。それを見るにグレイシアは、頭を抱えて息衝いた。
「これで三度めだわ、どうしてこうも頭に血が昇るのかしら。寒さを司る神だというのに、これでは暑さのバルカンと何も変わらない。地球を滅ぼすのはこれで最後、二度とバルカンなんかには近寄らないんだから」
そして去り際、バルカンの身体を蹴り飛ばすと、呻きながらに地を転がる。それと同時に巻き起こる台風。辺りには猛烈な風が吹き荒れて、海山ともに吹き飛ばした。
これがグレイシアの憂鬱の正体。暑さと寒さが近付けば、気流が乱れて天候が荒れる。ましてや彼らはその化身、規模は自然のレベルを優に超える。
その後は遠目に睨み合い、争いは主に口喧嘩となる。
「そんなに睨むとしわが増えるぞ」
「しわなんかないわよ、あんぽんたん」
「今時あんぽんたんなんて誰が使うか、やっぱりグレイシアはババアだな」
「な、なにをぉおおお!」
握り拳はぶるぶると震え、こめかみの青筋が脈動を打つ。その場を立ちあがるグレイシアだが、ふと我に返って踏み止まった。
「ぐぬぬ、これではまた地球が滅びる。あれからようやく回復したのに、この馬鹿のせいで破壊する訳には――」
「はは、だったら座れよグレイシア。ウン十億も生きてんだ、年寄りが無茶しちゃいけねぇよ」
「黙れ! 神としてはまだまだ全然若輩よ! ぴっちぴちの四十五億、そしてあんたも同い歳だわ!」
「そんなだったけか、とっくに数えるのは止めちまった。まったく、これだから細かい女は意地汚ねぇ」
「くきぃいいい! その減らず口、やっぱりこの場で黙らせてや――」
すとんと、グレイシアはその場に腰を落とす。己も何故だが分からないが、急にふらっと眩暈がして。
「おっ、少しは辛抱強くなったじゃねぇか。歳を重ねて落ち着いたか?」
「え、えぇ……まあ今回は、許してあげることにするわ」
「へ? そ、そうかよ……」
その後もバルカンは睨み続ける。グレイシアを馬鹿にしておちょくって、それが唯一の楽しみで、しかしグレイシアは目を伏せがち。
「ばぁか、なにセンチに浸ってんだよ。そんな自分が可愛いってか? 相変わらずキモい女だ」
「うるさいわね……いいから少し黙っててよ」
「誰が黙るかよ。ムカつくお前を罵って、それで気分は晴れるんだ。黙ってたら、むしゃくしゃが溜まってどうにもならねぇ」
「じゃあ、一人で喚けばいいわ」
「グレイシアの……ばぁか……」
バルカンはずっと睨み続ける。もはやグレイシアが見返さなくても、それでもバルカンは見守り続ける。
「まぬけぇ、いつもの強気はどうしたよ。こっちを向いてよ……グレイシア……」
「はぁ……はぁ……」
「なぁ、頼むよグレイシア。お願いだから、死なないで……」
「うぅ……バルカン……暑いの……バルカン……」
地球はそのとき気温が高く、寒さを司るグレイシアは、暑さに参って弱り果てた。グレイシアが弱れば更に暑く。バルカンの願いに反して、地球はどんどん高温に。
弱るグレイシアの傍には近付けない、寄れば地球が滅びてしまう。そんな二人はいがみ合い、罵り合っては距離を置く。そうしなければ、嫌うように仕向けなければ、愛し合う気持ちを止めらない。
そうして思い悩んだ末にバルカンは、一時的に地球を離れることに決めた。暑さを司る自分が去れば、星の温度は再び冷める。そして氷河期が訪れて、地球の恐竜は死滅した。
それからおよそ六千万年、いま再びいがみ合う、神々の姿がそこにあった。
「ばぁか、悔しいんなら言い返してみろ。それともババアともなると、言い返す気も起きねぇか?」
「なんですってぇ!? 私は今をときめく四十六億! 化粧ノリもばっちりよ!」
「それで化粧をしてたのか? 剥がしたらとんだ化物だな」
「くきぃいいい! その生意気な態度、この場ですぐに正して――」
すとんと、グレイシアはその場に腰を落とす。己も何故だが分からないが、急にふらっと眩暈がして。
「グ、グレイシア?」
「い、いえ……なんでもないの、大丈夫……」
昨今の地球では、温暖化が進んでいる。寒さを司るグレイシアは、気付かぬところで弱っている。もし再び悪化すれば、グレイシアに地球の人類、バルカンの天秤が傾くのは――
地球温暖化問題をファンタジー化してみました。細かい年代とかは何卒大目に。