デス・シヴィライゼーション 人は最後の日をどう迎えたか
太陽系外から突如現れた巨大宇宙生物。
初めて観測されたその物体は隕石と間違えられる。
発見されてから30年が経ち、その軌道は地球へと向かっていた。
その物体が明らかになり、アメリカ合衆国大統領は世界に向けて、緊急声明を発表した。
その巨大生物が何であるのかは解らないが人類を襲うかも知れないと……
アイダホ州キャリーに住む少女リヤは、このニュースをテレビで知る。
そこに映し出された謎の生命体の静止画像に釘付けとなった。
「マーヤ・ガーヤ……」とリヤは呟いた。
これと同じ現象は世界中の一部の子供達に現れた。
「マーヤ・ガーヤ」
この言葉を聞いた親達は皆、首を傾げた。
そして火星の軌道に近づいた巨大生物は惑星の影に隠れ消失した。
火星の軌道衛星を使い捜索が行われたが発見する事はなかった。
この現象が何だったかは解らないが地球は救われたのだった。
――それから8ヶ月が経ち、アメリカ南部で不思議な現象が起こる。
メキシコから不正入国した4,000人の子供達が見つかった。
犯罪組織の仕業かと思われたが全員が身元不明である。
言葉を話せる者に訊いてみたが、皆が皆、記憶喪失でどこから来たかも不明であった。
それから10年間で世界中に3億人もの記憶喪失の子供達が保護された。
この謎を追っていたひとりの女性ジャーナリスト。
名はキャロライン・ブルック。偶然にもリアの姉である。
彼女はこの保護された子供達のデータベースを作っていた。
子供達を調べていくうちにある事に気づく。
別々の国で見つかった子供達のうち、顔と背格好が似ていて性別と年齢が異なる子供達がいる。よくある事と思っていたが、やがて疑問に思い、その子供達のDNA情報を調べる事にした。
数年掛けて調べた結果、皆同じDNA情報である事を知る。
この事に背筋が寒くなった彼女は慌てて調査に協力してくれた知人に相談した。
しかし、原因が解らず何も結果を得る事はできなかった。
だが、彼女は諦めず子供達を詳しく観測していく事を決めた。
それからも子供達全員のDNA情報を集め続けた。
その結果、世界中に散らばる子供達のうち5人単位でDNA情報が同じ事が解る。
しかし、この怪現象を取り合ってくれるメディアは存在しなかった。
――そのあと5年が過ぎ、この時点では謎の記憶喪失の子供達が保護される事は無くなっていた。
過去に保護された子供達の中には一部、成人した者もいる。
また、キャロラインがこの5年間で観測していた例の子供達の中に特定のDNAが同じで、とても優秀である子供がいる事に気づいていた。
これについて何かの因果関係があるのだろうか。
彼女なりに調査をしたが元となる人物を見つけられなかったうえ、何も関係性を見つける事が出来なかった。
――さらに8年が経ち。
当初、観測対象にしていた子供達も立派な大人となり、それなりの成功を果たした者もいた。
一部の者は国家機関のトップに、また、一部の者は優秀な政治家や起業家、スポーツ選手に芸能関係者など文明のあらゆる分野で目覚ましい活躍をしていた。
この時点でキャロラインは、彼ら彼女らがエイリアンである事を突き止めていたのだが、あらゆるメディアを通して人類に警告を発し、批難したが社会に認知される事は無かった。
また、ある国だけは彼女と同じくこの事を知っており、秘かに彼ら彼女らを暗殺していた。その巧妙な手口に気づかれる事は無かったが。……既に遅かった。
――機は熟した。
世界中で経済・政治・宗教・文化といった人類の文明のリーダーになっていた例の記憶喪失で保護された子供達は、一斉に謎の言葉を唱え出して暴走した。
そのうち生き残り、逮捕された彼ら彼女らは、何かに取り憑かれたように3日間、この言葉をひたすら唱え続けた。
「マーヤ・ガーヤ、マーヤ・ガーヤ、マーヤ・ガーヤ……」
そして、4日目の朝を迎え、彼ら彼女らは全員、心臓発作で亡くなった。
この狂気な事件は謎を呼び、世界中を混乱に陥れた。
この時点でも多くの人類は気づいていなかった。
彼ら彼女らが、あの巨大宇宙生物が作りだしたホムンクルスであると。
人類文明の終わりだ…… キャロラインはネット上で、そう叫び続けた。
しかし、彼女の声は誰にも届かず、全てのアカウントはBANされた。
それから3日後、世界各地の主要な国に、あの巨大宇宙生物が同時に何の前触れもなく煙のように姿を現した。
「マーヤ・ガーヤ」
これが人類が滅亡を迎えた日だった。
人智を越える高度な知識を持つ巨大宇宙生物。
人々は狂気する。人類上のどんな兵器、核すらも彼らには傷をつける事はできなかった。
地を焼き払い、海を蒸発させ、大陸の地形を壊した。
地上にいる全ての生命を根絶やしにして、彼らは再び姿を消した。
新たな生命を探しに宇宙へと消えたのだった。
これが文明のタイムアウト。
天の川銀河を太陽系が一周すると訪れる災厄の巨大宇宙生物。
順調に発展と進化をしていれば、人類はこの生物と戦い勝つ事はできた。
人類の運命には、二つの選択肢があったのだが、それに気づかなかった。
これは、この広い宇宙で起こった僅かな出来事である。
――それから数日が経ち。
キャロラインだけは、こうなる事を予見していた。暴走事件が起こった日のあと、妹のリアの家族を連れてフォークランド諸島に渡り小型潜水艇で避難していた。
彼女に唯一、味方してくれた国の手配で助かったのだ。
だが、その国も消滅してしまっている。
残っている人類が自分達だけで無い事だけを祈る。
巨大宇宙生物の被害は、地球の地軸をも変えた。
今ではオーストラリアが南極の位置にある。
南極の氷は全て溶け周辺に新たな海を作り上げた。
その海にフォークランド諸島も存在する。
それから、キャロラインたちは数日掛けて南極に渡り上陸した。
ここが新しい人類の生活圏となる。
キャロラインは南極から見える海を眺めて思う。
……人類の運命は決まっていたが、人の希望は変える事ができる。
諦めない気持ちがあれば、与えられた人生を精一杯生きて行けるだろう。
常に考える事が正しいと自分は間違えて無かったと感慨にひたる。
「さあ、これからも頑張って生きよう!」
こんばんわ。ラシオです。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
※マーヤ・ガーヤ……造語で「ヤバイ」という意味と思って下さい。