1.解剖のお話
サブタイには解剖とありますが今回はグロい話はないです
こんにちは、森です。医大生日記ということで実際に医学部に入って経験したあれこれを気軽にまとめていこうと考えています。そんな中で第一回目はやはり医大生が経験する解剖実習についてです。よく医学部受験を躊躇する人の中には「血を見るのが苦手」であったり「解剖実習が耐えられない(と思う)」という人がいます。そんな医学部受験を考える際の代名詞ともなる解剖実習で印象に残ったことを書いていこうと思います。
その前に解剖に関して説明しておきます。実は単に解剖といっても非常に多くの種類があります。まずは今回お話ししたい系統解剖です。これは医療系の大学生が実際の人体の正常な状態を学ぶための解剖となっています(看護とかでは学生が解剖するというよりは解剖されているのを見るという形という話も聞きますが…)。本来は解剖されることはない方だけども自ら医学の発展のためにと思って希望される方々なので我々は頭が上がりません。次に話すのは病理解剖です。例えば病院で亡くなった際に本当に治療が聞いていたのかを確かめたりするときに行います。こちらも系統解剖と同じく承諾を得て行う解剖となっていて違う点は病理解剖はご遺体が病気にかかっており、それがどのような機序で体を蝕んだか、治療によってどれくらい良い効果があったかを調べているという点です。他には法医解剖があります。監察医がいる地域か否かとかいろいろと名前が変わるのですがそこはややこしいので一例をあげると、よく刑事ドラマで見るあれです。これは他殺が疑われるご遺体や死因不明のご遺体などその死のプロセスを知る必要がある場合に行われます。場合によっては家族の承諾なく警察などの判断で強制的に解剖することもあります。というのも家族の中に犯人がいる場合とかだと断っちゃうかもしれないので仕方ないですよね。私は法医解剖にも参加したことはあるのですがその話はまた別の機会に。
さて前置きが長くなりましたが私が一番印象に残っている瞬間をお伝えしたいと思います。それは解剖しているときではなくてその前の話なんですね(具体的な内容を期待していた方はごめんなさい)。医学部での解剖実習は一回で終わりではなくて何十回にもわたって順々にやっていきます。というかとても一回で終われるものではありません。そのため数か月にわたって行われるのですが毎回必ずやることがあります。それは献体(解剖実習で私たちが切るご遺体のこと)の方への黙祷です。別に医大生だから特権があってご遺体を切れるわけではありません。私たちも献体の方と同じ人間です。そのためその追悼、そして身をゆだねてくださる感謝の意をこめて黙祷をします。毎回実習前にそれを終えてそこから解剖をしていきます。
ある日のことでした。午前の授業をさぼっていた人の中に午後からの解剖実習に遅れてくる人がいたんですね。その人たちは黙祷の直後に入ってきたという場面でした。よく学校などで遅刻をしたりすると授業の進行を妨げないようにか怒られたくないわけかそそくさと教室の隅っこを通って自分の所定の席につく人がいるじゃないですか。彼らもそんな感じでささっと自分の担当の献体のところに行ったんですね。そしたら教授がぶちぎれたんですね。そのときの教授の言葉が今でも思い起こされる印象に残った場面なんです。
教授「そこの君ら、なんでそのまま入ってきたんや。」
学生「すみません、少し遅れてしまったので邪魔にならないように静かに入りました。」
教授「違う、ぼくが聞いてるのはなんで黙祷をせずに入ってきたのかということだ。この方々は本来であれば亡くなった後そのまま火葬場に行き、静かに眠るはずの方々だったんだ。それが未来の医師である医学生のためにと自ら献体になることを選んだんや。そして家族の方を納得させて、そして今この場にいるんや。そんな勇気のあるまねできない行動に対して尊敬と感謝の念もなく解剖実習に参加していいと思ってるのか。まず遅刻をすることすら論外、その上黙祷もしないというのは礼儀を欠いている、そこで黙祷しろ。」
私たちが献体の方と会うのは亡くなってからだけども解剖学教室の先生たちは献体になられた方と生前から話し合って承諾をもらってその思いを聞いているんですね。その献体の方を知っているからこそここまで怒り、そして私たちも同じ思いでいるべきだなと感じたんです。私のところでは献体の方がどのような思いで決意されたか、私たちへのメッセージを見ることができますがその文字だけでは伝わらない部分が伝わったように思った瞬間です。個人情報保護の観点からお名前を知ることはできませんでしたが今でもその方には感謝しかないです。
聞きたい内容あれば書きますよ~