エルフ族との交渉
俺は10匹のファームラビット達を連れてエルフ族達の結界の前に来ている。
エルフ族の所に行くのを希望するファームラビット達の数があまりにも多すぎたので敵対するためにやって来たと思われないようにまずは10匹だけ連れていく事にして他は交渉がまとまってから来てもらう事にした。
前回同様にレギュレートの能力で結界が反応しないようにしたうえで結界に侵入する。
やはり以前侵入に気づかれたことで警戒されていたのか結界に入ってわずかな時間で1人のエルフ族が現れる。
前回は姿を確認すること無く逃げたので実際に見るのは初めてだが現れたのはまるで作り物かの様に整った容姿の女性だった。
どういうわけか目の前に現れた今でも俺の気配察知スキルに対して反応していない…
前回不意打ちをされた事から予想はしていたけれどなぜか幻想級の気配察知でも気が付かないってどういう事だ?
そして何故かファームラビット達には気配を察知する事が出来たみたいなのだ。
ファームラビット達が気が付かなかったらまた不意打ちで襲撃されていたかもしれないけど、こちらもいったいどうなっているんだ?
幻想級の気配察知で気が付かない存在に気づくことが出来るって事は世界級以上の気配察知が無いと無理だと思うのだけどファームラビットにそれらのスキルは無いはずなんだけどな…
転生者スキルに確認したい所だけどまずは目の前のエルフ族の対応をしないと…
「こんにちは。俺の名前はクリスと言います。
結界内に無断で入ってしまっていますがこちらに敵対する意思はありません。」
「人族が何をふざけたことを!
お前たちが我々に対しておこなった事は一度たりとも忘れたことは無い。
前回もそうだがどうやって結界内に侵入した?
しかもそちらはファームラビットではないか。
森の悪魔となぜ一緒にいるのだ?
そ奴らは人間種を目撃すると問答無用で襲撃してくるはずだが。
いったい貴様は何者なのだ?」
俺が話しかけるとやはり長命種なので人族への悪感情が消えているなんてことは無いようで、警戒した感じで立て続けに問い詰めてくる。
「人族がエルフ族に行った事は把握しています。
人族である自分の事を快く思わないのも理解できます。
最初に結界の中に入ったのはただの好奇心だっただけで、特に敵対するつもりは無いんです。
ただあなた方がエルフ族だとわかった為に無用な争いに発展しないようにしようと思いまして、人族があなた方から奪った物の1つをお返ししたく準備してまいりました。」
「我々から奪ったものだと?
殺された同朋は生き返らないし、枯れ落ちた世界樹が再びよみがえる事も無いだろう…
だとすると我々が暮らしていた土地か?
世界樹の存在していないあの場所を返されても全くの無意味だな…」
俺の発言に対して彼女は不快感をあらわにそう返してくる。
「いえ。俺が用意したのは当時の土地の事ではないです。
これを見ていただければ理解していただけると思います。」
そう言って世界樹の果実を取り出して彼女に見せる。
「これは?そんな馬鹿な…
我々は確かに世界樹が枯れ落ちるのを確認した…
枯れ落ちる前に採取していたとしてもすでに存在しているはずは…」
彼女はそう言うと理由を聞きたげにこちらを窺ってくる。
よし。何とか決定的に敵対する前に興味を引くことは出来た。
後はファームラビット達の習性や理由を理解してもらってから、その許可を何とか取ってもらって世界樹の元に案内が出来れば解決したも同然だ…
ただし案内までこぎつけないとエルフ族達が世界樹があるかもしれないのにその場に行けないという事に対して納得するはずがないだろう。
今の彼女の反応を考えてもやはりエルフ族達にとって世界樹の重要性はかなり高いのだろう。
この後も気を抜かないように進めていかないと…
俺は今後の展開を予想しながらそう気を引き締めるのだった。