エレノア・アーク
休息日明けの学園の授業、俺は休息日の後半の鍛冶仕事の手伝いのおかげで気分よく教室にやってきた。
「おはようソフィアさん。何だか休息日明けから疲れた様子だけど大丈夫?」
教室には先にソフィアさんが来ていたので、挨拶をしたのだが何だかいつもと違ってかなり疲れた感じだ…
「あ。おはようございますクリスさん。いえ、大丈夫です。
昨日は突然の来客があってすこし気疲れしてしまっただけですので。
お気遣いありがとうございます。」
ソフィアさんが気疲れする来客か…
しかも急な来客って事は公爵家の令嬢に事前に予定をすり合わせないで面会できる相手って事だよな…
あまり深く聞かない方が良いな…
「そうだったんですね…
そうだ。知り合いに教えてもらって初めて知ったのですが。
俺の事でソフィアさんにはご迷惑をおかけしてしまっているみたいで申し訳ありません。」
「え?いえ。クリスさんの関係で迷惑に思うなどという事はあり得ません!」
話題を変えようと思って昨日のグレース達の情報について話を振ったら思いのほか強く否定された。
「えっと。そっか。迷惑じゃないんだったらよかった…
ソフィアさんのおかげで面倒ごとに巻き込まれるのを防げているって聞いたから、何か迷惑になっていないかなって思って…」
「いえ。全然問題ないです。クリスさんのお役に立てているのであれば嬉しいです。」
ソフィアさんはそう言ってとても魅力的な笑顔を浮かべる。
「あ。そろそろ授業が始まるみたいですね。それではまた後程。」
ソフィアさんの笑顔につい見とれてしまっていたのだが、その時ちょうどセオさんが教室に入ってきたので、お互いのグループの方に移動する。
本日のグループ授業をいつも通りにこなして、いつも通りにソフィアさんの借りている学園の設備に向かうと予定外の事が待っていた。
「えっと?どちら様ですか?」
練習用の設備の中には見たことの無い少女がいて、どこから用意したのか高級そうなソファーに腰を下ろして紅茶を飲んでいたので俺はつい質問していた。
「あれ?これは失礼しました。私はエレノアと申します。
ソフィアさんとは小さいころから仲良くしてもらっています。
貴方がクリスさんですね?
ソフィアさんに異性のお友達が出来たと聞いて、紹介してほしいとお願いしたのですが、断られてしまったので直接遊びに来させていただきました。
会えてうれしいです。どうぞよろしくお願いします。」
何だかただ挨拶をされただけなのだが、観察されている感じがして落ち着かない気分になる。
「初めまして。クリスと申します。
ソフィアさんとは学科が一緒でともに練習をしたりさせていただいております。
よろしくお願いいたしますエレノア様。」
ソフィアさんと昔から仲が良いとか、今朝ソフィアさんが言っていた突然の来客の事を考えると、かなり身分の高い人だと予測できるので出来るだけ無難な回答をするように心がける。
「私は9歳なので、クリスさんの方が年上になるので、呼び捨てにしてもらえばいいですよ。」
「それではお言葉に甘えさせていただき、エレノアさんと呼ばせていただきますね」
「うーん。まあ、それでいいです。それで今日来たのは…」
「ちょっと待ってください!
何であなたがここにいるんですか!昨日はそれじゃあ諦めて帰るって言っていたじゃないですか。」
エレノアさんが本題に入ろうとしたところで、やっと正気に戻ったソフィアさんが口をはさんできた。
「昨日は諦めて帰ったじゃないですか。何も嘘をついていないし問題なんて無いです。」
「それに何ですかさっきの自己紹介。
エレノアとしか名乗らないなんて、自分が王族であることを隠す気満々じゃないですか。
騙されちゃ駄目ですよクリス君。この子はエレノア・アーク、王族の第三王女であり書物を愛し、王都にある本は全て読み終えたと言われるほどの書物好きです。」
ソフィアさんによってできれば知りたくなかったエレノアの身分が明らかにされる。
「ちょっと。私が何かを企んでいるみたいな言い方はやめてくださいよ。
私はちょっとクリスさんにお願いがあって来ただけなんですから。」
王族からのお願いか…
どんな難題が出てくるか不安だけど、ソフィアさんが断ろうとしても、無視して直接会いに来るくらいだから、断っても諦めない気がする…
あまり無茶な内容でない事を祈ろう。
「それでどんなお願いなのでしょうか?」
「私のお願いは、どんな方法でも良いので強くなりたいのです。」
第三王女エレノア・アークは俺の目を真っ直ぐに見てそう言い放った。