久しぶりの再会
学園に通うようになってからの俺の日常なのだが、授業がある日は学園で同じグループの皆と魔法関係のスキルの鍛錬をして、一日の授業工程が終わってから、ソフィアさんへの進化の魔眼対策のための指導、それらが終わって寮に戻ってからは自身のスキルの考察や実験をしながらその日一日の出来事を振り返って問題点や改善点が無いかの確認をする。
そして学園の授業が無い日(1週間の内学園の授業は6日間あって1日は授業が無い休息日になっている)なのだが、この日はソフィアさんへの指導も休息日にさせてもらっている。
休息日の方が使える時間が多く取れるのでソフィアさん自身は指導を希望してきたのだけど、常に何かしらの事を学び続けなければいけない状況が続くけば心の余裕がなくなって、しなくても良い失敗や間違いをしてしまう事もある。
なのでそれほど焦らなくても魔眼対策のスキルの取得も順調に進んでいるし、鍛錬は数をこなせばいいわけでは無くその質が重要になる事。
そしてしっかりと休息をとる事も鍛錬のモチベーションを保つのに重要だと伝えて説得した。
まあ。焦る気持ちも分かりはする。
彼女は進化の魔眼が暴走すれば命を落としてしまう。
対策は順調に進んでいるし、実際に進化の魔眼の危険性が上がっていくのはまだ先の事だが、それでも不安を感じるなという方が難しいだろう。
少しでも危険を少なくするために多くの時間を使いたいのだろう。
俺の場合は前世でスキルが無かったために出来る仕事も限られていたので金銭的に余裕がなく、最低限ながら生活は行えていたのに金銭的な余裕を求めて、怪しい仕事に手を出した挙句に殺されてしまったからな…
生活水準の問題で休息の取りようがなく、心の余裕がなくなって判断を間違ってしまった前世の俺と違って、ソフィアさんの場合は順調に進んでいるので安心させてあげたいのだけど…
何かしらの方法で進化の魔眼への対策が順調な事を自覚してもらえると良いのだけど、こればかりは実際に進化の魔眼の能力が追加されてからでないと、その制御に問題が起こらないと把握してもらうのは難しそうだな。
そんなわけで休息日は特に予定が決まっているわけでは無いので、俺の場合は冒険者としての仕事や王都内でまだ見て回っていない範囲の散策などをしている。
学園生活が始まってからはそんな感じで日々を過ごしていたのだが2か月ほどたった休息日の朝の事。
俺に対して突然の来客が訪れた。
「久しぶりねクリス。大きくなったわね。
王都に来ているって連絡は届いてはいたのだけど、学園を卒業してすぐに職場での配属先関係での挨拶や顔見せなんかで時間が取れるのが遅くなっちゃって。」
そう言って挨拶してきたのはグレースだった。
グレースが王都の学園に通う為に村を出て以来なので4年ぶりになるがグレースの方こそ成長していた。
以前は近所の少し年上のお姉さんって感じだったのが、この4年でずいぶん大人っぽい雰囲気になっている。
「久しぶりクリス。
やっぱりクリスの近くだと精霊さん達もいつもより元気になるね。
私の方もお仕事が忙しくて遅くなっちゃった。ごめんね。」
そういってグレースの横に立っていたエミリーが挨拶する。
エミリーとは1年ぶりくらいだ。
1年ほどではあるがエミリーも以前よりも綺麗になっている気がする。
服装もおしゃれになっていてとても似合っている。
「二人とも久しぶり。
グレースは俺と入れ違いで学園を卒業して仕事を始めたばかりで忙しかっただろうししょうがないでしょ。
エミリーも確か警備系の仕事って話だけど、精霊使役が必要になるような警備ってどう考えても、貴族とか場合によっては王族だよね?
そりゃあなかなか時間も取れないでしょ。
特に精霊使役なんてそうそう取得できるスキルではないんだから代わりの人材なんてあまりいないだろうからなかなか休みを貰えないのも仕方ないよ。」
「そう言ってもらえると助かるわ。」
「ありがとう。詳しい内容は言えない契約になっているけど、出来るだけ護衛対象の近くで活動できるようにって、礼儀作法とかも覚えなきゃ行けなかったりで…」
二人とも仕事を頑張ってるんだな。
しかしエミリーは礼儀作法が必要って、護衛対象は貴族なんだろうけど何だか思っていたよりも大変そうだな。
「それで二人は今日はこの後も時間はあるの?」
「ええ。私とエミリーの行きつけのお店があるのよ。
落ち着いた雰囲気のお店で食事もとても美味しのよ」
「グレースに教えてもらってからよく行くようになったの…」
二人とも相当気に入っているお店なのか今日一番の笑顔だ。
「わかった。俺もまだ朝食食べていないから。ちょうど良かった」
そう言って二人に連れられてお店に向かうことにした。
「ここ?グレースがエミリーに教えたって言っていたけど、こんなに入り組んでいる場所よく見つけたね?」
二人に連れられてやってきた場所は細い路地をいくつも通った先にあった。
ここにお店があるとあらかじめ知っていないとなかなかやって来ないような立地になっていて、お店の外観もぱっと見ただの家っぽいのだが入り口に立て看板があってお店であることがわかる。
「クリスも知っているでしょ?
私いろいろな所を見て回るのが好きなのよ。
ここも散策していたらたまたま見つけて気になって入ってみたら超大当たり。
さっそく入りましょう。」
そう言って店内に入っていく。
店内はグレースの言っていた通り落ち着いた雰囲気をしている。
店主のセンスが良いのか、調度品も高級なものなのだろうが品が良く、見る人に圧迫感を与えない物になっている。
「いらっしゃいませ。グレース様にエミリー様。
そちらの方は初めましてですね。
私は店主のアルバートと申します。」
出迎えてくれたのは気品のあるおじさんで、将来はこういう年の取り方をしたいなと思わせてくれる雰囲気の人だった。
「おはようございます。アルバートさん今日は知り合いにこのお店を紹介したくて。」
「おはようございますアルバートさん…。多分クリスもこのお店が気に入ると思って。」
「俺はクリスと言います。グレースとエミリーと同じ村の出身で、本日はグレースがどうしても紹介したいお店があるって言うのでついてきました。よろしくお願いしますアルバートさん。」
店主のアルバートさんの挨拶に対して三者三様に答える。
「そうでしたか。
よろしくお願いいたしますクリス様。
グレース様もエミリー様も当店をよくご利用してくださっています。
クリス様にも気にいっていただけると何よりです。
では御席にご案内いたします。
カウンター席と個室とございますがどちらにいたしますか?」
「今日は個室でお願い。」
グレースが伝えて個室に案内される。
「こちらでございます。御用の際はこちらのベルを鳴らして下さいませ。」
そう言ってアルバートさんは去っていく。
グレースのおすすめという事で、日替わりランチと飲み物を注文する。
エミリーもお気に入りのメニューらしく同じものを注文している。
「さて。クリスにも教えておくけど、アルバートさんは情報屋もしているの。
その関係上このお店の個室は完璧な盗聴対策を取っているわ。
だからこの場で話した内容はここにいる人がしゃべらない限りは外部に漏れる心配はないわ。」
注文後、食事が提供されるまでの間にグレースがそう伝えてきた。
「そうなんだ?盗聴対策までしているって事は、かなり有名な情報屋なの?」
「ええそうよ。そして私やエミリーは仕事の関係上アルバートさんにはお世話になる事も多いわ。
私は未開地の探索や情報収集が仕事になるから、アルバートさんから情報を買う事も売っても問題ない情報を売る事もしているわ。」
「私は護衛対象者の安全確保の為にアルバートさんに頼んで、情報の収集とまとめをお願いしてるの。
私ってそういうの苦手だから…」
ふむ。二人は仕事の面でもアルバートさんにお世話になっているようだ。
アルバートさんってすごい人なんだな。
「そうなんだ。二人が信用している人みたいだし、俺も将来冒険者になった時にお世話になろうかな。」
「ええ。そうね。冒険者も情報が大事な仕事の一つだし、アルバートさんは信頼できる人だから頼ると良いと思うわ。
それでね。本題なのだけど…」
グレースはそこで一呼吸おいてから。
「クリス。あなた目立ちすぎよ?
このままだと厄介ごとに巻き込まれる可能性があるわよ。」
と告げてくるのだった。