プロローグ
ひんやりと冷たい石の上。
風が運んでくる海の匂いと、かすかな波の音。
白く温かな光に包まれて、ぼんやりと微睡んでいた。
強張った体をぐぐっと伸ばす。
そのままごろんと仰向けになり、もう一眠りしようかと反対方向へ体を向ける。
こんなに体が軽くて気持ちいいのに、頭がすごくすっきりしている。
今日は、信じられないくらいに調子がいい。
あー、もう少しこうしていたい。
本能で感じる。
ここは安全だ。
見上げると、壁画のようなものが描かれた洞窟の天井が見えた。
そのまま壁に目を向けると、白い石像が7体、ぐるりと丸い洞窟に等間隔に配置されていた。
全て円の中心、こちらに向いて鎮座している。
小さな古代遺跡に包まれてるみたいだ。
白く眩しい光は収まり、かすかに青い光が全体を照らしていた。
ああ、夢か。
見たこともない場所だけど、こんな場所を何度も空想したことはある。
自分で作った、ファンタジー小説の中で。
食事を忘れる程、夢中になって書いていた。
ついに夢にまで見るようになったか。
あーこれ夢だわーって思いながら夢の中で行動する、いわゆる明晰夢はよく見るタイプだ。
幸か不幸か、今は一日中寝ていても咎める人も、社会もない。
石畳はひんやりしているのに、ふわふわの毛布に包まれているような温かさを感じた。
久々に、とても久々に、幸せだという感情を全身で感じていた。
私はこの心地よさに縋るように、そのままごろごろと眠りこける。
四つ足をでろんと伸ばした、だらけきった格好で。