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第6話 ピノペンディンテン村

翌朝イコルたちは目を覚ました。イコルは耳毛と鼻毛で編んだハンモックで寝ていたが、フエルテは毛布にくるまっている。サビオは一晩、寝ずの番をしていたようだ。

 サビオはカバンを取り出すと、パンと塩漬けの肉をたき火で焼いた。そして葡萄酒のビンも出して、コップに注ぐ。

 香ばしい匂いが漂い、サビオとフエルテは焼いた肉をパンの上に乗せて食べた。だがイコルは手を出さない。肉には手を出さずパンを手に取ると、小瓶から素揚げしたゴキブリを乗せる。

 生きたゴキブリを油に入れて揚げるのだ。東アジアなどではよく食べられていたという。エビのような食感と味にイコルは満足していた。

 サビオは口笛を吹き、感心している。フエルテは珍しいものを見たが、それ以上の感想はないようだ。


「君ってエビルヘッド教団の地神派かな。4本足の動物は食べてはいけないというタブーがあるそうだし」


 サビオがパンを頬張り、葡萄酒を飲み込む。ちなみにゴキブリは町の中で捕まえた物を使う。その際に1週間ほど絶食させるのだ。ゴキブリ自体に害はないが、病原菌を拾う場合がある。ちなみにゴキブリは50グラムで260カロリーがある。豚ロース100グラムで260カロリーなので、意外にゴキブリは栄養価が高いのだ。


「蟲人王国は昆虫食が盛んだよ。虫は栄養価が高いからね。特にフィガロはサソリやタケムシの幼虫、オオグソクムシやミールワームなど色々だ。ただし他の国では敬遠されているがね」

「だろうね。ゴキブリの素揚げは人前では食べない方がいいよ。エビルヘッド教団でなくても嫌悪の大賞になるだろうからね」


 サビオの言葉に、フエルテはうんうんと頷いた。


 さてイコルたちは森から出た。途中で騎士たちがヤギウマの牽く馬車で迎えに来た。彼らは昨晩サビオの命令で待機していたという。なんでもサビオはイコルの話を聞いて足跡を探り、森の中に入っていったという。敵がいたらどうするのかと止めたが、エビルヘッド教団なら人が大勢いるところで襲うだろうと気にも留めなかったという。

 サビオは普段は大人しくひ弱そうな印象がある。しかし時には大胆な決断を行う場合が多い。幼少時はこっそり妖精王国の軍艦に忍び込むなど、大人顔負けの行動を起こしていた。

 騎士たちはイコルを見ても目をパチパチしただけで自分の仕事に戻った。

 イコルは馬車に乗せられた。数時間後にたどり着いたのはピノペンディンテという村である。ヤギウシを多く育てている村だ。フエゴ教団が布教して30年経っている。昔はよそ者を嫌っていたが、現在は村長を含め多くの旅人を受け入れていた。亜人の経営する店にも普通に受け入れている。

 とはいえイコルの顔が受け入れられるとは限らない。村に入った途端村人はイコルに対しての目は厳しかった。


「なんだあいつは……。あんな恐ろしい顔の人間がいるなんて……」

「ああ、きっと多くの人たちを殺したに違いない、そうに決まっている」

「最近のモノオンブレどもが騒ぐのはあいつの仕業じゃないか?」


 村人はほとんど人間で、イコルに対する白い目と嘲笑する目嫌悪の目が突き刺さる。だがこれは慣れたものであり、望んでいたものでもあった。

 そこにサビオが左腕を組んできた。


「この人はね~。ボクが愛人にしたんだよ~。怖い顔をしているけどボクがメスの喜びを教えてあげたんだ、すごいでしょ」


 サビオは無邪気に答えた。イコルは真っ青になる。いくら自分で同性愛者にはされたくない。

 村人たちはイコルとサビオに対してゴミクズを見るような目つきになった。当然である。


「おい、何勝手なことを言っているんだ!」

「いいんだよ。これで」


 サビオはイコルの耳元でささやいた。さらに尻を撫でて、ふっと息を吹きかけるのが気持ち悪い。

 サビオ曰く、イコルのためだという。なぜなら彼はスキル持ちだ。レスレクシオン共和国では野良のスキル持ちはいない。歌姫ボスケや舞姫オーガイは生まれつきスキルを持っていたが、教団の教育で使いこなせるようになったのだ。

 それ以外にスキルを持つ人間は、エビルヘッド教団しかいない。一般人はエビルヘッドを憎んでおりイコルは狙われる可能性がある。

 なのでサビオがイコルを飼いならすという設定で押し通すべきだと説明した。


「サビオはデンキウナギと犬の合い子だからな。俺たち人間とは違うんだろうよ」

「あああいつはこの世の人間じゃないんだ。異常者なんだ」

「司祭でなければ殺すのにな。まったくむかつくぜ」


 村人たちはサビオに対して憎悪の目を向けていた。イコルに向ける嫌悪は薄い。イコルはサビオも似たような人種だと思った。わざと人々を煽り、力を増すためだと判断する。

 司祭の杖ほどではないが、体内電気を自在に操ると聞く。見た目と態度に反してこの男はできる人間だと思った。


 ☆


「初めまして。私はこの村を管理するヴァカ司祭だ」


 ヴァカはバファローの亜人であった。50歳で赤い司祭の服を着ていた。

 バッファローは水牛の別名である。偶蹄ぐうてい目ウシ科の哺乳類で。大形で、体毛は少なく、水辺で暮らし、水浴・泥浴を好んでいる。

雌雄とも半月形の大きな角をもつ。野生種アルナはガルーダ神国の前身であるインドの一部に分布していた。東南アジアでは重要な家畜となっており、インド水牛ともいう。

 ちなみにヴァカはスペイン語で牛を意味する。牛の住む村から生まれた次男坊だ。大抵二番目はそのまんまのヴァカと名付けられる。もしくは番号を付けられる場合もあった。


「おひさしぶりですヴァカ司祭。サビオ司祭と申します。あちらは司祭の杖であるフエルテ、こちらは他国から来たイコルさんです」

「本当に久しぶりだな。お前さんの無茶ぶりはこの遠い村でも耳に入っているよ。今日の宿は教会にするといい。もっとも今は立て込んでいるがね」

「何かあったのですか?」

「ああサルティエラに続く街道でモノオンブレ共が輸送隊を狙ってきたのだ。無線ではふたりほど石器の斧に頭を勝ち割られて死んだという。もちろんこちらは石弓で10体ほど討ち取ったそうだ。遺体は野良のビッグヘッドが喰らうだろうよ」


 野良のビッグヘッドは汚染された土地や鉱石を食べる、エビルヘッド教団とは無関係のビッグヘッドだ。こちらはスマイリーと違い生きた人間は食べない。ビッグヘッドは基本的に生き物を口にしないのだ。


「モノオンブレか、ここ最近やけに活発だなぁ」

「きっとエビット団の仕業だよ。あいつらはなんでもありだからね」

「まったく俺たちの生活をめちゃくちゃにしやがるからむかつくよ」


 村人たちは不満を口にしていた。ヴァカ司祭は騎士たちに命じて、サビオたちを教会へ案内した。サビオは小声でささやく。


「今回の件はエビルヘッド教団と関係ないね。ボクらが村に入った瞬間に襲撃してくるはずだもの」


 サビオはイコルの腰に手を巻いた。そしてなでなでする。虫唾が走るが、我慢した。

 フエルテは小声ですまないと謝罪する。彼に謝られても困るが、それを受け取った。


 こうしてイコルたちは教会へ案内されたのだった。

ピノペンディンテンとは、ピノはスペイン語で松といい、ペンディンテンは坂という意味があります。

まあ坂の方は危ういかもしれません。

そこにバッファロー、水牛の亜人である司祭が登場させました。

いわゆる松阪牛をイメージした名前です。実際は坂ではなく阪なんだけどね。


実のところ発音はバカが正しいんですよ。それだとアレだからヴァカにしました。

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