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最終回 イコルの未来

今回で最終回です。

「新しき王よ、歓迎しんす!」


 イコルの目の前に、大勢のモノオンブレたちが土下座していた。彼らはロホカラペラを倒したイコルを新しい王と認めたのだ。

 自分は人間であり、モノオンブレではないと断ったが、強さに種族は関係ないと長老に言い切られた。

 長老は頭にインドクジャクの羽根で飾られた冠に、樫の木の杖を突いていた。種類はアカゲザルだが身体が白くなっている。かなりの年配らしい。名前はメントルという。代々、王に助言したそうだ。モノレイはもちろんのこと、ロホカラペラも彼に敬意を払っていたという。


「私は王の器ではないのだがな……」


 イコルは用意された席に座っていた。岩を数枚重ね合わせ、下には藁を敷いた簡易な玉座だ。

 ちなみに右にはスヴァジルファリが立っており、左にはレミ司祭が控えていた。

 血の繋がらない妹は恵比須顔である。レミ司祭はその様子を面白がっていた。


「何をおっしゃいますかお兄様。あなたこと一国の王にふさわしい方はおりません」

「私はどうでもいいけどな。ただモノオンブレの王を殺したのに、復讐ではなく、新たな王様として認めているんだ。シオンディ大司教様なら興味を示すだろうね」

「まあ、レミさま。なんて味気ない。私も同じ気持ちですが、そういった話はお兄様とふたりっきりにしてくださいな」


 ふたりの会話をイコルはぼんやりと聴いていた。

 ちなみにサビオとフエルテ、ホビアルはすでに帰った。もうサビオの恋人は助けたので用事はないからだ。

 フエルテはサビオの補佐についてきただけであり、帰宅を反対する理由がない。


「イコル君との旅は面白かったよ。君って顔は怖いけど中身は真面目だよね。僕の冗談を笑って過ごせないのは問題だな。心に余裕を持たせる方がいいよ」

「お前の言っていることは本気だと思っていたがな。サルティエラのヨモツの話を、ホビアルにしてもいいのか」

「構わないよ。ホビアルは本気にしないからね。人生はユーモアも必要だよ。世の中は人間の悪意と、本人が望まない呪いに振り回されるものさ。それらを受け入れて楽しむ気概がなければ押しつぶされてしまうんだよ。君も思考を柔らかくしないと、いざというときに潰されちゃうよ」


 そう言ってサビオたちは去っていった。フエルテとホビアルも別れの挨拶をした。あとプラタの方だがすでにこの場を去っているようだ。ホビアルはイエロに会いたがっていたが、サビオがそれを許さない。

 元々イコルはエビルヘッド教団の司祭であり、サビオたちフエゴ教団とは敵対している。教団同士は互いを危険視してはいないが、信者たちは殺しあわねば気が済まないほど、敵愾心を抱いている。

 元より仲良しになれるわけがなかった。今度出会ったときは血を見るかもしれない。イコルとしてはサビオをボコボコに殴ってやりたいと思うが、彼の実力からして返り討ちに遭うなと思った。


「さてこれから忙しくなるぞ。なぜならここに新しい教会を建てねばならないからな。それにお前たちが住む家も必要だ。それとモノオンブレの国の後始末もしなくてはならないぞ」


 ベビーエビルが言った。すでにフエゴ教団の人間はいないので、遠慮なく本性をさらけ出している。

 ベビーエビルは口から3つの粒を吐き出した。キラキラと砂粒並みに小さいものだ。

 それを近くにある木に埋め込む。すると木はむくむくと形を変えていった。


 ひとつは人間の頭部に変化した。2メートルほどの大きさで、地面に首が埋まっているように見える。ハゲ頭で目は白く濁り、口をだらしなく開けていた。


「まずはスルトヘッドだ。こいつは体内でガスを作る性質がある。これでガス系は問題ない。あとはゴミや排泄物を毎日口に運んでやればいい」

「よそではガスタンクヘッドと呼ばれている物ですね。もっとも管を伸ばすには専門家が必要になりますが」

「その手の人材もすでに手配済みだ」


 イコルの言葉に、ベビーエビルは返答した。こじんまりしたビッグヘッドでも知識はスーパーコンピューターか、百科事典並みに豊富なのである。

 次に変化したのは女性の顔である。あはあはと笑い、目から涙が流れていた。

 木の棒に生首が突き刺さった状態を思い浮かべればよい。


「これはフレイヤヘッドだ。地中の汚染された水を浄化する機能がある。味気のない水だが、世界一安全な水が出てくるぞ。ただし垂れ流しだから溜める場所を作る必要があるな」


 最後はひげもじゃの男の頭だ。こちらは赤毛で視線は定まっていない。

 こちらもえへえへと笑い、舌をれろれろと動かしていた。


「最後にトールヘッドだ。こいつの鼻の穴に線を突っ込めば電気を確保できる。以前ガリレオ要塞で大規模のトールヘッドを作ったが失敗してしまったがね」

「確かキングヘッドの息子の、プリンスヘッドを神応石代わりにしたんですよね。それをフエゴ教団の司祭に邪魔されたとか」

「まあ完成すればフィガロをカバーできる電力は確保できたけどね。もっともフィガロには電化製品は司祭の家しかないから意味ないけど」


 ガス、水道、電気。それらをカバーするビッグヘッドを生み出したベビーエビルに対し、モノオンブレは驚愕した。

 プリンシペも驚き以上に感動が勝っているようだ。年相応の無邪気さをあらわにしている。


「すごいでござるな! あっという間にデカ頭を作るなどまさに神の技でござる! これは拙者では敵わないでござる。王の座はイコル殿がふさわしいでござるよ。でも大人になったら挑戦するので待っててほしいでござる!!」


 もちろんイコルは承諾した。彼は圧倒的なイコルの実力を目の前にして、考えが変わったようである。今まで見えていた世界がバリンとガラスを割られるかのように崩壊したのだ。

 それまで狭く感じられたものが、実際は広いものだと認識できるようになったといえる。

 プリンシペは子供だがいつかは成長して大人になる。その時イコルに勝負を挑めばいいのだ。


「まったくロホカラペラを倒すとはね。おかげであたいの計画がとん挫したじゃないか」


 声をかけたのはモノオンブレのエルモテだ。最初は片言だったが、今は流ちょうに話している。彼女としては仕えていたモノレイの仇を討ちたかったが、イコルに先を越されてしまった。

 だが気持ちを切り替え、新しい王に忠誠を誓ったのである。過去を引きずらないのも彼女らしい。


「あたいは戦士だけど、王が望むなら愛人になってもいいよ。だって陛下はあたいに対してあんなことやこんなことをしたんだからね」


 エルモテが身をもだえる仕草をすると、スヴァジルファリは鬼のような形相でイコルを睨む。


「お兄様! 彼女に何をしたのですか!! いいえ、何をしてもお兄様の望むがままですが、せめて責任は取ってください! わたくしは王妃の座があるので側室は歓迎しますわ」

「まずお前が落ち着け。ほら、レミ司祭も笑うんじゃない」


 イコルたちの絡みにモノオンブレたちの間に和やかな雰囲気が流れた。彼らも落ち着いた空気が好きなのである。


 ☆


「でもお兄様はもう首都フィガロに帰れませんからねぇ……」


 真夜中の宴会で、スヴァジルファリは果実酒を飲みながら言った。なぜかこの場にはサルティエラからツクヨミたちがやってきて、ごちそうを用意したからである。

 彼女らは躍り、歌を歌っていた。実はサルティエラとは秘密の取引をしており、ツクヨミとメントルは顔見知りだったのだ。

 イコルたちは上座でモノオンブレが収穫した果物とヤギウシの肉が差し出されている。

 ツクヨミたちはモノオンブレたちに保存食などを提供し、そちらを食していた。


「まあな。エビルフェイク、バルバール王を倒したところで私の帰る場所はない。望んだわけではないが、私はフエゴ教団の人間と取り換えられたからな。よそ者が手柄を立てたと手歓迎されるとは思わないよ」

「いえ、そうではないのです。実は……」


 スヴァジルファリは言いにくそうであった。そこにレミ司祭が酒を飲みながら答えた。


「イコルはフエゴ教団のサビオとフエルテに肉体関係を迫ったってね。さらにとある村の司祭には自分の鼻毛で尻を叩いて楽しんだり、さらにはあそこで騒いでいるツクヨミさんたちと乱痴気騒ぎを起こしたり、エルモテにセクハラしたりと大忙しだったそうだな」


 それを聞いたイコルは真っ青になった。レミ司祭は誇張しているが、まったく事実無根とはいえないからだ。それになぜその事を知っているのだろうか。


「……ベビーエビル様が耳にした言葉を、首都フィガロで受信したからです。その内容はすべてシオンディ大司教様やおじい様、アスモデウス司教も目にしておりました……」


 スヴァジルファリの言葉にイコルは完璧に血の気が引いた。イコルはベビーエビルの方を見た。彼は気まずそうに眼を逸らす。イコルは乾いた笑い声を上げた。


「いやー、あたしがイコルに迫ったこともばれちゃってねー。もうアスモデウス司教はかんかんさ。それ以上にイコルに対しても怒りをあらわにしていたよ。帰ってきたら必ず殺してやるってさ」


 アスモデウス司教は潔癖症というわけではない。自身は首都フィガロで花街の管理をしている。これは娼婦以外に仕事がない女性のためにきちんと管理しているだけだ。

 彼女は子供が性交を楽しむことを嫌っている。子作りならまだしもあからさまに常軌を逸脱した行為に関しては許さないのだ。


「いやだぁぁぁぁぁ!! 帰りたくない、死ぬのはいやだぁぁぁぁぁ!!」


 イコルは恐慌状態に陥った。ロホカラペラと戦ったときも、巨大なバルバール王と対峙したときも落ち着いていた彼だが、アスモデウス司教に対してはまったく無力であった。


「落ち着いてください! だからわたくしがここにいるのです。ここでエビルヘッド教団の支店を作ればお兄様はフィガロに帰る必要はなくなるのです!!」

「あたしも同じだよ。イコルの救助を名目に逃げることができたからね。イコル様様だよ」


 がははと笑いながらレミ司祭は酒を飲んだ。イコルにとっては頭を抱える出来事である。

 アスモデウス司教から逃げることはもとより、これからはモノオンブレたちの生活を支えなければならない。

 人材は補給されるだろうが、できるならモノオンブレ達に任せたいのだ。

 教育するのにも時間がかかる。その間に天災や人災が起きらないと限らない。やることはたくさんある。


 でも自分には妹であり嫁であるスヴァジルファリがいる。彼女とふたりなら怖いものなど何もない。

 彼女を守り、自身も守ってもらう。そうふたりは死を分かつまで一緒なのだから……。


「というお話を作りました。今日からイコル殿とスヴァジルファリ殿の愛の生活が始まるのです!!」


 ツクヨミがモノオンブレに囲まれながら宣言した。孫娘のウサギたちもノリノリである。

 彼女は別に善意で駆け付けたわけではない。フエゴ教団の拠点地は潰れたので、新たに拠点を作るエビルヘッド教団に売り込みに来たのだ。

 この地には珍しい果実に植物、獣もいる。それらの取引を希望していた。利益になるなら誰とでも手を組むのがサルティエラなのである。


「これからは忙しくなるでござるが、拙者がんばるでござるよ!!」

「がんばるだけじゃだめさ。きちんと役に立たなくしゃね」


 プリンシペとエルモテは盛り上がっていた。

 イコルが嘆いても時間は巻き戻らない。彼はやるしかないのだから。

 そう思って果実酒を飲みほした。一発で倒れてしまった。

なんとか最終回を迎えました。連載当初はまさかトゥースペドラーに出ていたロキの取り換えっ子が主役になるとは思いませんでしたね。

 アメコミのアベンジャーズをイメージしましたが、どうだったでしょうか。

 私は割とその場のノリで書くことが多く、伏線などを忘れる場合があります。

 まあ、掲載する前に修正することがありますけどね。

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